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【完結】誰が為にシナリオはあるのか〜乙女ゲームと謀りごとの関係〜  作者:
第三章 「前世の記憶 ーinside the game scenarioー」
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47. 馬車の中での密談

 卒業式の朝、私はフォスティーヌに誘われて馬車に乗った。


 「朝早くにごめんなさいね、だけど、どうしてもサラに知らせておきたいことが出来たの」

 「いいえ、確かに昨晩手紙が届いた時は驚きましたけれど、大丈夫です」


 確かに卒業式を控えた朝は余裕があるとは言えないかもしれないけれど、卒業式の後となれば、身支度を考えれば卒業パーティーまで話をしている余裕は全くないだろう。だからフォスティーヌもこの時間に訪ねてくるしかなかったのであろうことは理解できるので問題ない。

 むしろ、運命の卒業パーティーを前に対策を考える一助になるかもしれない話が聞けるのであれば有難いだけである。


 打つ手もなしに迎えてしまうしかないのかと項垂れていた昨日は私にとって、フォスティーヌからの誘いは救いのようにも思えたのだから。


 それより、乗り込んだ馬車にステファニーがいたことに驚いてしまった。

 てっきり二人で話すのだと思っていた私は、もしかしたら別の話なのだろうかと少しだけ戸惑ってしまった。


 「時間もないので馬車で話しましょう。しばらく街を走らせるように言ってあるから」

 「ええ、では私から昨日の話を」

 「いえ、その前にサラに先に説明をするわ」

 フォスティーヌはステファニーと言葉を交わすと、まっすぐ私に目を向けた。


 「サラ、まだ主犯なのか実行犯なのかは分からないけれど、私に疑惑を掛けようとした犯人が分かったわ」

 「え!本当ですか!?誰なんです?」

 「…レアンドル様よ」

 「え…?」


 フォスティーヌから出た名前が予想外で、私は一瞬聞き間違いかと思った。

 しかし直ぐにレアンドルであれば、それは簡単なことであったろうと気づいた。


 「実は、ずっとレアンドル様を疑ってはいたの。だけど彼にはそんなことをする動機がないから…」

 「サオルジャン様を疑っていたのですか?」

 「ええ、今でも彼の動機は分からないけれど、証拠を見つけたの」

 「証拠?」


 私はフォスティーヌが差し出した手紙を開いた。


 「これは?」

 「それはあのお茶会でフォール子爵令嬢が受け取っていたものよ」

 「…手紙は処分していたはずでは!?」


 驚いて手紙を見つめる私にステファニーが話し始める。


 「昨日、フォスティーヌ様と一緒にフォール子爵令嬢とお会いしたの。彼女は手紙を捨てずに持っていたのよ」

 「手紙には…処分するようにと書いてありますね…」

 「ええ、彼女は憧れのフォスティーヌ様からの手紙を持っていたかったのですって」

 「憧れの…」


 納得の気持ちも確かにあった。だけど、それよりも驚きに翻弄され、私はただステファニーからの言葉を頭に流し込んでいた。


 お茶を掛けるタイミングの指定があることから、どうやらお茶会に王太子たちが遅れてきたこと自体がレアンドルの策略であろうということ。

 レアンドルが一人でセリアの聞き取りを行った際に、彼女は黙秘をしたのだということ。

 けれどもフォスティーヌには、フォスティーヌからの手紙で指示されお茶を掛け、手紙は処分したとセリアが言っているとレアンドルが話したこと。そしてそれをフォスティーヌは否定したけれど、そのまま王太子に報告されたこと。


 「フォール子爵令嬢は、憧れのフォスティーヌ様からの手紙が本物だと信じていたかったのでしょうね。だから指示された通りにお茶を掛けた。

 相手がサラ様であることも一因かもしれないけれど…」

 「相手が私だから…?」

 「ええ、どうやら下位貴族の令嬢の間で、昨年あなたが色々噂されることがあったようなの」

 「ああ」

 「ご存知だったの?」

 「えっと、私の母が平民だということや、街で学院の令嬢に絡んだ平民と同様に危険なのではないかと言われたりしたことですよね」


 私がそう言うと、ステファニーとフォスティーヌは揃って眉を寄せた。


 フォスティーヌが口を開こうとしたのをステファニーが止める。

 「お待ちください。先に私がお話しします」


 ステファニーの言葉にフォスティーヌは言葉を飲み込んで息を吐いた。


 「ごめんなさい。時間がなかったのだったわ。お願い」

 「はい」

 ステファニーは頷くと私に向けて話を続ける。


 「最初はサラ様のことを怖がっていた彼女たちに、レアンドル様が慰めの言葉を掛けていらしたそうなの」

 「怖がる…?慰め?」

 「ええ、ごめんなさい気を悪くしないでね。…平民が怖いのは理解出来るから怖がっている令嬢がいるならば助けになると声を掛けていたらしいの。それでレアンドル様とお近づきになるチャンスが出来るかもしれないということもあって、あなたのことが怖いと言う噂が広まったそうなの」

 「え?」

 「フォール子爵令嬢の話によると、どうやら子爵家や男爵家の令嬢は外に出る時に、平民と触れ合わないように言い聞かされることが多いらしいの。それもあって、この話は下位貴族の令嬢の間で広まったのではないかしら」

 「平民とは触れ合わないように言い聞かされる?」

 「おそらく、なのだけれど。下位貴族の令嬢は外に行く時の従者も護衛も少ないから本人に自衛をさせようということのようね」

 「あ…」

 私はそれを聞いて思い当たった。


 知らない人にはついて行ってはダメよ。

 私は外に出る時に言われたことをそういう意味だと解釈していた。


 けれど、貴族の家族の中で暮らしている令嬢に、平民という言葉を、知らない人という意味の括りとして使っていたのならば、それをイコール関わってはいけない人と考えた、ということだろうか。


 「フォール子爵令嬢はレアンドル様が、サラ様の噂話について色々と気に掛けてくれたと言っていました。確かにそう受け取れる言葉を彼は掛けていたそうよ。

 だけどお茶会でのことを考えれば、むしろサラ嬢への恐れを加速させたのは彼の言葉のせいで、それは意図的なものだったと思うの。それにね…」

 まさか噂話の裏側などがあるとは思っていなかったので私は呆気に取られてしまったのだけれど、続いた言葉は更に驚くものだった。


 「レアンドル様は、フォスティーヌ様がサラ様に貴族の振る舞いを教えるために側にいるのだと話していたそうなの、それに、フォスティーヌ様がサラ様を害したりしないか心配だとも漏らしていたとか」

 「え?」

 「貴族の振る舞いを教えるため、というのはともかく、なぜ私がサラを害するという話になるの?」

 「だって、その、殿下はサラ様のことがお好きでしょう?」

 「…!」


 ステファニーが当然のことのように漏らした言葉に、私は驚いてフォスティーヌの顔を見た。

 フォスティーヌは瞬いて私の顔を見てから、納得したように頷いた。


 「あ…あら?もしかしてご存知なかった…」

 ステファニーは私たちの様子を見て、顔を青くした。


 「いえ、納得したわ。確かに悪い噂を立てられている令嬢を心配しているにしては親身になりすぎているところがあったわね。…ただ、そういう発想は全くなくって…えーと」

 フォスティーヌは私に向けて「サラは…気づいていた、ようね…」と言うので、私としては肯定するよりなかった。


 ステファニーはおろおろとして「殿下の様子を見れば誰でもすぐ分かると思って、当然ご存知だと…」と言うのに、フォスティーヌは少し考えて「私、そういえば殿下とサラが一緒のところを見たのはお茶会の時くらいだわ」と言う。


 「あの時も、直ぐに部屋の外に出てしまったし、殿下が怒っていたのは覚えているけれど、私もサラが心配で、あまり殿下のことまで気が回っていなかったわね」

 「いえ、私はフォスティーヌ様がレアンドル様とお茶会から退出された後の殿下のご様子で察したのです。あれを見れば、みなさんそう思われるかと…」

 「そうなのね」


 フォスティーヌとステファニーとの会話を私は息を詰めて聞いていた。


 「殿下はサラに気持ちを伝えていたの?」

 フォスティーヌが柔らかい声色で私に問いかけた。


 私はぶんぶんと首を横に振った。

 匂わす言葉がなかったとは言わないけれど、断る機会を与えられてはいないのだから、気持ちを伝えられたとは言わないだろう。


 「でも、ステファニーが見てすぐ気づくくらいだったら、サラも気づいてしまっていたでしょうね。…ふぅ、大丈夫」


 そうフォスティーヌが優しく言葉をくれたから、私は恐る恐る彼女の顔を見る。

 「ごめんなさいね。殿下に近づくのを嫌そうにしているとは思っていたのだけれど、王族と気軽に接するわけにはいかないからかと思っていたの」

 「いいえ!その…言えなくてごめんなさい」

 「大丈夫だから。私も気づかなくってごめんなさい」

 「ティーヌ様…」


 ずっとフォスティーヌに言えずに悩んでいたことを彼女が受け止めてくれたことが嬉しくて、私は泣き出してしまった。


 「擦ってはダメよ。ほら、これで目を抑えて」

 

フォスティーヌが差し出したハンカチを目にあて、私はしばらく動けずにいた。


 「ご存知じゃないとは思わなくて」とステファニーがフォスティーヌに謝っている。

 フォスティーヌは「いえ、むしろ知っておけて良かったわ」と応えを返す。


 二人の会話を聞きながら、どうやらフォスティーヌは王太子が私に恋心を持っていることで、私を疎んだりはしないのだと分かり、私は安堵して涙をどうにか止める。


 「一応聞いておくけれど、サラは王太子妃になりたかったりは…」

 「絶対に嫌です!」


 思わず強く否定してしまったけれど、これも考えてみれば王太子妃になるフォスティーヌに対して失礼な言葉であったと反省したのは、全部が終わった後のことだった。

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