43. 社交期に入ったけれど
社交期に入ったら王太子と顔を合わせるのだから、会話を重ねる中で誤解を解こう。
フォスティーヌは当初、そのように考えていたけれど、実際に社交期に入った今、王太子との仲は相変わらずであった。
王太子が婚約者のフォスティーヌをエスコートして夜会に出席しても、二人はあまり会話を交わさないままであった。二人ともが穏やかに挨拶に来る貴族たちに対応しているので、仲が悪いと見えるほどのものではなかったし、円滑にこなそうという意味では二人は同じ意識であったのだと思う。
けれども対外的に最悪ではなければ問題ないという訳ではないし、フォスティーヌも本当ならば王太子と顔を合わせざるを得ない今、誤解を解いて仲を改善したい気持ちはもちろんあるのだ。
それが出来ない原因はというと、
レアンドルだ。
王太子の側近であり一番の友人とも言えるはずのレアンドルが、フォスティーヌに対して、サラへ危害を加えたという疑惑を掛ける企ての容疑者として思い浮かんだ。
それが行えるという意味では彼しかいないとしか思えないものの、彼がそんなことをする理由は一つも思い浮かばない。
この企てがもたらすものが、今現在がそうであるように、王太子とフォスティーヌとの確執を求めたものなのだとしたら、その犯人は革新派であるパスマール侯爵派閥か、もしくは中立派であるラファルグ侯爵派閥であろうと考えていた。
サオルジャン侯爵の次男であるレアンドルは、アセルマン侯爵の娘であるフォスティーヌと同じように保守派の貴族として王太子を支える立場である。その彼が王太子とフォスティーヌの確執を望むはずがないし、だとしたら現状のような不都合な確執をもたらして尚、求める目的など全く思いつかない。
つまりレアンドルを疑うこと自体が間違いだろうと思いはするのだ。
そう思うからこそ、フォスティーヌはまだ誰にもこの疑惑を打ち明けていない。
こうして思い悩むことこそが保守派の結束にひびを入れるのだと思えば、ますます誰にも言うわけにもいかず、
けれども有り得ないと何度思い直しても、レアンドルの疑いを自分の中から消すことも出来ないから、
それならばむしろ、彼の証拠を探す方向で行動してみて、それで何も見つからなければ、その時には彼の疑いを消すことが出来るかもしれないと考えるに至った。
とはいえ、それを周りに知られるわけにもいかない。
策略がレアンドルの行いだという証拠を見つけられずに、気が済んだフォスティーヌが納得し、誰にも知られないうちに疑惑を消してしまうのが最も望ましい。
それが相反する考えで身動きが取れなくなってしまったフォスティーヌが、ようやく見つけることが出来た行動する指針だった。
そのためにフォスティーヌが考えたことは、サラにお茶を掛けたセリア=フォール子爵令嬢に話を聞くことだった。
フォスティーヌに憧れているらしいセリアであれば、フォスティーヌの聞き取りにきっと応じてくれるだろうことはステファニーも同意してくれている。
あのお茶会での出来事は、ステファニーの気遣いもあり外には広がっていないけれど、サラにお茶を掛けたセリアとフォスティーヌが接触すれば、それはきっとフォスティーヌへの疑惑を深める一因とされてしまうだろう。
それ故に今までは、セリアとの接触を控えていたけれど、一番の手掛かりであるはずの彼女と話をすることは、間違いなく解決に繋がることでもある。
罠である可能性もないではないと思えば、警戒は必要だし、秘密裏に進めなくてはならないけれど、もはやセリアの話を聞かない選択などフォスティーヌには出来なかった。
サラが子爵家へ帰っている今ならば少なくとも彼女に危害が加わることはないのだから、出来れば授業が休みの間にセリアに会えないものだろうか。
フォスティーヌはステファニーにそう相談をしたのだけれど、セリアも休みの間はフォール子爵家へ帰っており、戻るのは期末試験の頃になるだろうと聞いた。
ようやく行うべきことを見つけたというのに直ぐには出来ることがない状況に、フォスティーヌは項垂れていた。
この状況では、王太子に弁解することもままならないし、せめて悪化しないことだけを心がけて貼り付けた笑顔で夜会を熟すことはひどく疲れた。
フォスティーヌに国王から声がかけられたのは、足踏みするしかない現状に彼女がうんざりし始めた頃のことだった。