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【完結】誰が為にシナリオはあるのか〜乙女ゲームと謀りごとの関係〜  作者:
第三章 「前世の記憶 ーinside the game scenarioー」
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39. 決意するまでのまわり道

 卒業までに誰かと婚約してしまおう。


 それは王太子がフォスティーヌとの婚約破棄などを言い出さないための対策のひとつで、

それが出来そうな相手を考え抜いて残ったのは一人だけだった。


 だけど私は、その結論に達した後ももう一度考え直した。


 他の攻略対象が相手ではどうだろうか。と。


 なんせ私はヒロインな訳で、攻略対象を落とす手順も心得ている。

で、あれば、残り時間が少ないとはいえどうにか出来るのではないだろうか。と。


 だってエクトルのルートは失敗しているのだから、そんな彼を選ぶよりは他の攻略対象の方が可能性が高いのではないだろうか。


 …なんて思ってはみたけれど。まあ、結局。結論は変わらなかった。


 ロイクルートは音楽室で聴いてしまった彼のピアノの演奏に対して、ヒロインが掛ける言葉で彼の興味を引く訳だけど、このイベントは既に失敗している。


 いや、正確に言えば失敗というか、その時は彼の興味を引けなかっただけだから、挽回は可能ではあるけれど、それはもしも今が一年次の前期であれば、だ。

 それに仮に今すぐ彼の興味を引けたとして、剣術大会は目前。


 彼のルートは剣術大会の初日に開催される演奏会で、ロイクを演奏させることが山場だ。今から興味を引いて、演奏する気にさせるなんて間に合う訳がない。


 ついでに言うと、ロイクエンドで彼はヒロインに、立派なピアニストになるからその時は婚約を申し込んでも良いだろうか、と問うのだけれど、うん、それ、つまりロイクじゃ卒業までの婚約は無理ってことだから。


 それで言うとレオナールはエンディングだけを考えるならば期待は出来る。けれど、彼だって図書室に通ううちに仲良くなるのだ。

 彼とのイベントが進まなかった理由が、エクトルと一緒に図書室へ通っていたからなのだとしたら、今からでも一人で図書室に通えばイベントは進むかもしれない。


 だけど、他人と話すよりも本を読むことが好きなレオナールと仲を深めるのはどう考えたって時間が足りない。


 実際のところレオナールは、活字オタクだ。文字が大好きで、言葉が大好き。

 書物でそれらに触れる時間を邪魔されたくなかった彼だけど。会話を交わすうちに、話し言葉と書き言葉の違いについて興味が広がり、そこからヒロインとどんどん仲が深まっていく。


 …だけの時間があるはずない。


 もしも授業が休みになってからも学院に残ってくれたとしたら、ギリギリなんとか卒業までに間に合わないだろうか。という気もしないでもない。

 次男とはいえ侯爵家の子息と子爵令嬢の婚約が可能なものだろうかという疑問は残るものの、ゲームで婚約したと断定されていたことを考えたら、多分出来るんだろう。けど。


 侯爵家の子息が婚約を申し込むとして、それが子爵令嬢でも問題ないとして、仮に授業が休みの間も学院に残って仲を深められたとして、卒業間際に婚約の申し込みして即座に成立なんて。うん。ない。


 …などと考えてみる以前の問題として、最近フォスティーヌは私の側にずっといる。

 つまり、一人で図書室に行けるはずない。ので、レオナールルートは進まない。以上。


 それはつまりセルジュについてだって同じで。一人で行動しないことにはイベントが進むことなどないだろう。


 とはいえ。

 セルジュについては、そもそも出会いイベントが起こらなかった状態。それでいて、リュカに紹介されて知り合ってはいる状況。


 ルートが開いてもいない訳だから、イベントを進めるとかはそもそも関係ない。

 けど、どうしたら落とせるのかは知っている。

 なら、もう自分でイベント捏造するくらいの気持ちで突き進めれば出来なくはないかもしれない。なんなら、一年遅れて登場するセルジュは親密度が上がるのも早い。それを考えれば希望を感じる気持ちはあるのだけれど。


 結局それだって、一人で行動できたとしたら。なのだ。


 私を心配してくれているフォスティーヌからは、授業が休みの間は学院に残ったりせずに家で過ごすようにと言われている。


 私を心配してくれる気持ちは嬉しいし、私に何かあってそれがフォスティーヌのせいにされてしまうことを考えれば、そうするべきだと思う。


 だけど、それではフォスティーヌと一緒にいられる時間も残りは本当に僅かだ。


 …もちろん卒業した後は、会えなくなると決まったわけではないし、会えるように頑張るつもりだけれど。


 だから朝もフォスティーヌが私と一緒に過ごすようになったのは、きっと彼女も寂しい気持ちがあるからではないのかと思っている。


 私がフォスティーヌを心配してしまうから、朝はステファニーも一緒のことが多いし、おかげで王太子と過ごさなくてよくなったことはとても有り難い。



 実は少しだけレアンドルも婚約者候補として考えてはみた。

 侯爵家の次男であるレアンドルの相手が子爵令嬢では、釣り合うかどうかという疑問については、同じく侯爵家の次男であるレオナールとの婚約エンドがあるんだから無しではないのだろうと思える。

 けど、まあ、王太子がヒロインに恋をしているのなら、側近の彼と取り合うなんて状況、穏便かつ即決で婚約がまとまるわけもないから検討するまでもなく諦めた。


 それでも少しだけ後ろ髪を引かれてしまうのは、フォスティーヌが王太子妃になるのであれば、王太子の側近の彼の妻になるのが、フォスティーヌと友人付き合いを続けるためには一番良いように思ってしまうからだ。


 まあ、流石に私利私欲すぎるか。



 ーーと、考えて、考えて、考えて。


 結局エクトルしかいないなという結論。



 その結論に向き合うことをどうにか後に後にと押しやり続けた私も、とうとう向き合うしかなくなってしまった。


 エクトルルートは失敗しているのだから、エクトルとの未来はないだろうと切り捨ててしまっていたのは、結局はそれに向き合うのが怖かったからだ。


 だけど、このままでいれば結局未来はないわけで。つまりはそれは、進まない理由にはならない。


 エクトルは多分私を想ってくれているのだと思う。


 少なくとも騎士の誓いのイベントに酷似した出来事が起こったのは、イベントが起こるには条件が揃わなかったとしても、親密度が高くなったからだろう。

 エクトルから届く手紙の言葉から考えても、他に想い人がいないだろうことは伝わってくる。


 だから、もうイベントとかルートとか気にせずに、ただエクトルとの未来を願えばいい。


 そう…思うのだけれど…。


 ーー王太子がどうしてヒロインに恋をしたのかは、ゲームのシナリオを知っているから分かっている。


 私にそんなつもりがあったわけではないけれど、それは王太子の心に染みることだったのだ。


 それを否定するわけではない。というか、彼が恋さえしないでくれたなら、王太子にとってはきっと良い出会いだったのだろうと思える。


 自分のことであるのに厚かましいかもしれないけれど、…ただ、そんな風に思うくらいには実感が持てていない。


 つまりは、どうして王太子がヒロインに恋をしたのかは知っているし、それを私がなぞったことも知っている。…けど、と言うか、だから、と言うか。


 王太子は私に恋をしていると知ってはいるけれど、実感として一番近いとしたら、

王太子は私…と言うよりも、ヒロインに恋をしていると思うのだ。


 それは私だけれど、私ではなくて。だから他人事の気分が抜けない。



 ーーじゃあエクトルは?


 エクトルが私を想ってくれているとしたら、それは私がヒロインだから?


 エクトルと過ごした時間を私は他人事のようには思うことが出来ないし、ゲームでは知らなかった時間もエクトルとは過ごしてきた。


 エクトルルートが失敗していたとしても、イベント以外のことが起こらないわけじゃないのだから、エクトルと婚約する未来が有り得ないわけではない。


 身分的に考えても伯爵家の次男と子爵令嬢ならば吊り合わないことはないと思うし、一般的に考えたとして、これくらい仲を深めたら、婚約の話が出てもおかしくない。


 けど…。



 この不安はきっと彼が攻略対象だからだ。


 ゲームが終わった(卒業した)後も、彼は私を好きでいてくれるだろうか。



 その不安から私はずっと目を逸らしていたのだ。

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