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【完結】誰が為にシナリオはあるのか〜乙女ゲームと謀りごとの関係〜  作者:
第三章 「前世の記憶 ーinside the game scenarioー」
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28. 作戦の失敗

 「あら、大変。そんな格好ではすぐに帰った方がいいわね」

 目の前には口の端を上げて私に冷たい目を向ける令嬢。

 私は呆然としたままで、お茶に濡れた自分のドレスを見つめた。

 

 静まり返るお茶会室の中で、現状を認識した私は、

私たちの作戦が失敗であったことを悟った。



  *



 フォスティーヌが私を虐めているという疑惑を掛けられようとしていることについて、

王太子との婚姻を邪魔しようという別派閥の仕業ではないかと、フォスティーヌは考えている。


 フォスティーヌを監視して、疑惑の種になりそうなことを見つけては王太子の耳へと入れる。

 現状を考えれば、それが一番妥当な推測なように思えるけれど、

そんなことをしたところで、婚姻の邪魔になるというほどの成果が見込めるかが疑問であるところがこの推測の問題点だ。


 仮に王太子が、耳にした疑惑を一度は信じてしまったとして、

根拠を示しづらいであろうそんな話に耳を傾けてしまう理由は、話の上での被害者役とされる私を虞ってのことであろう。


 ならば私も交えて王太子に説明をし、冷静に両方の言い分を聞いてもらえれば疑いはきっと解けてしまう。


 そんなことは謀をする側だって分かりきったことのはずだから、そんな益の見込みが薄いことをするだろうかと疑問が湧くものの、

他に有力な仮説もなく、また卒業すれば婚姻の準備が始まってしまうことを考えれば、保守派の婚約者に対しての破れかぶれの嫌がらせのようなものかもしれない。

 動機には疑問が残るものの、誰かが意図して王太子にそう思わせようとしている確率は高い。


 可能性はほぼないとは思えるけれど、万一、たまたま見間違いや思い違いで王太子が誤解してしまったのだとしたら、それこそ冷静に説明すれば済むことだ。


 もっとも、そこに王太子の内心(恋心)を考慮に入れたとしたら、拗れる可能性があるようにも思えるけれど、それはフォスティーヌが知らないことだ。



 現状をそう判断し、

ならば今後、フォスティーヌが私を虐めているなどと言われないために、

私たちは仲の良さを見せつけることにしたのだ。


 今まで、フォスティーヌは王太子妃教育のために、授業以外で学院に滞在する時間がほぼなかった。


 だけど、教師の手配の都合から、今後、王城での王太子妃教育はほとんどなくなる。


 だから、授業が終わった後の学院内を二人で散歩したり、お茶会をしたり、

仲の良さを知らしめてしまえば、虐めなどという話にはならないのではないだろうか。


 そう考えての作戦というのもあったのだけれど、

実際のところ、フォスティーヌは社交期には高位の貴族令嬢とお付き合いする機会があるものの、学院で、となると授業に出るだけでは親しい友人を作ることは出来ずにいたから、

王太子妃教育が減ったことから時間が出来、学院での滞在時間が伸びたとしても、会いたいと思う友人は他にはいないのだとか。


 だから、二人で楽しく過ごしているうちに、これが作戦だったということすら忘れかけていた。


 フォスティーヌは市井の話も楽しく聞いてくれ、貴族と平民の意識の違いというものを面白く感じているようだ。

 私にとっても改めて指摘されれば確かに考え方の違いというものが見えてきて、なぜそのような違いになるのかを推測して二人でおしゃべりするのはとても楽しかった。


 気遣わしげにしていた王太子も、その後おかしな疑惑を持ち出すことなく、

最近は晴れやかな顔でいたから、もう大丈夫なのかもしれないと油断してしまっていた。


 フォスティーヌと私の仲の良さは、多くの令嬢の知るところとなり、それに伴って私たちにはたくさんのお茶会の招待状が届けられた。


 フォスティーヌと縁を繋ごうとして私を招いたり、また学院での滞在時間が増えたことで子爵令嬢()などよりも自分と仲良くしてくれというようなフォスティーヌへの招待。


 そんな招待の中から嫌な思惑がなさそうな、いくつかのお茶会に二人揃って招待を受け、

そうして今日出向いたのは、少し規模が大きめのお茶会だ。


 招待主は、何度かお話しさせて頂いたこともある穏やかな人柄のステファニー=シャモナン伯爵令嬢。


 フォスティーヌが何やら呼ばれてステファニーと共に部屋から出ていくと、見知らぬ令嬢が私に話しかけてきた。

 一方的に話をする令嬢に内心で眉を顰めながら相槌を打っていたところ、

なぜだかお茶を掛けられての今だ。


 このままお茶に濡れたままでいるわけにはいかないけれど、とはいえ帰ってしまうわけにもいかない。

 

 早めに行動を決めたほうがいいだろうと焦る私の気持ちを置き去りに、唖然とした空気の広がるお茶会室の扉が開き、ステファニーが戻ってきた。


 彼女は困惑した部屋の空気に気づかないまま、にこやかに後ろを振り返り、そして続く人を室内へと招き入れる。


 彼女の後から部屋へ入ってきた王太子の姿を見て、

私は、やっぱりーーと心の中で溜息を吐く。


 お茶を掛けられた時に、これは多分…と悟ったことではあるけれど、王太子の姿にそれが間違いのないことだと確信した。


 つまり、現状のこれが、悪役令嬢がヒロインを虐めるイベントの一つなのだということは、とても残念なことだけれど、疑う余地もないようだ。

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