13. 義弟と義妹
「はじめまして義姉上!」
「お義姉様はじめまして!」
キラッキラの瞳を向けられた私は少しだけたじろいだ。
昨日、お養父様に挨拶をした後に、そのまま眠ってしまった私は気がついたら朝で。身繕いを手伝ってもらってから、お部屋で朝食を食べた。
朝食を終えたところにお養父様が、私の様子を見にいらして、それでお養母様ともお会いして、それで義弟と義妹と顔を合わせた。
「お義姉様が出来てとっても嬉しいです!」という義妹はルネ=アルノー。私よりも二歳下。
そして「僕も義姉上が出来て嬉しいです!」という義弟はリュカ=アルノー。私よりも一歳下。
ルネはお養母様に似た面立ちだけど、リュカはお養父様にそっくりで、つまりは父さん似の私ともよく似ている。だからなのか、突然出来た義姉に嫌な顔をするどころか大喜びで迎えてくれている。
本当は昨日お養父様と挨拶した後に、皆んなとも会う予定だったみたいだけれど、私が泣きながら眠ってしまったから、お養父様はそのまま休ませてくれた。
義弟も義妹も、楽しみに待っていた義姉との対面が翌日に延びてしまってがっかりした分、上乗せした勢いでそばにやって来た。
「お家の中を案内してあげる!」と、二人に手を取られ、私は新しい家族と顔を合わせていた居間から出る。
居間を出ると前にあるのはリュネの私室とルカの私室。私に与えられた私室は居間の隣だ。
私たちは家の真ん中に位置する階段を通り過ぎて、2階の反対側に向かう。そちらには義両親の私室と客室があった。
リュネとルカは扉を指してそれを説明すると、そのままくるりと階段へと向かった。
昨日は、到着してまず私室に案内されて、身繕いをしたら隣の居間でお養父様とお会いして、そのまま眠ってしまって私室で目覚めたので、1階には足を踏み入れていない。
階段まで行くとリュカがルネに手を差し伸べた後に、はっとしたように私とルネを見比べて足を止めた。ルネがリュカの手に自分の手を重ねて、兄の顔を見上げる。
兄の顔を不思議そうに見てから、兄の視線を追って、私と目を合わせ、そしてはっとしたように繋いだ手に目をやった。
1階に下りるのではないのだろうか。先に行ってしまってもいいものかと考えていたら、私たちの後ろに控えていたハンスが近づいてきて私に手を差し出した。
その手を見て、ようやく私にもリュカとルネの戸惑いの理由が分かった。
リュカは、ルネと私のどちらを支えて階段を下りるべきか悩んでいたのだ。
私がハンスの差し出した手を取ると、安心したような顔をして、リュカとルネは階段を下り始めた。
階段を下りると、正面には玄関。
右には食堂と広間で、左にはお養父様の書斎と図書室、そして応接間がある。
図書室にはたくさんの本が並んでいた。私がロワンから持って来たのは父さんと母さんに買ってもらった本と、エマさんがくれた二冊の異国語の本だけ。ここには異国語の辞書などもあるそうだから、エマさんにもらった本も読めるようになるかも知れない。
「ここはお兄様と私がダンスの練習をする部屋」と言って案内されたのは広間。
「たまにパーティーをすることもある」とリュカが付け加える。
「私はピアノも弾くわ」とルネが言う。
広間の端にはピアノがあった。
ピアノ!と近づいてから、私は内心で首を捻った。
市井にだって楽器を弾く人はいるけれど、ピアノは高級品だ。それこそ商家のご主人のような人でもなければ弾くことはおろか、見たことすらないだろう。当たり前だけれど、父さんも母さんも私もピアノを弾いたりはしなかった。エマさんの家にももちろんピアノはなかった。でも私はこれがピアノだと確かに知っている。
私は一体どこでピアノを見たんだろう?
考え込みそうになる私の手をルネが引く。
食堂の横には階段室があって、そこから下は厨房や洗濯部屋などの使用人が作業を行う部屋と倉庫。
私たちは下へと下りて、厨房や洗濯部屋などを覗いていく。
ルネが「お義姉様が出来たの!」と自慢気に使用人に私を紹介する。
リュカは「ここでずっと遊んでいると怒られるから義姉上も気をつけてください」と教えてくれる。
階段部屋を上がると2階の上、屋根裏部屋には住み込みの使用人用の部屋がある。といっても住み込んでいるのはハンス一家だけで、他の使用人は通いなのだとか。
2階まで上がったところで、リュカとルネはそれを私に教えてくれ、そして階段部屋から廊下へと出た。
廊下をまっすぐ進んで向かったのはリュカの部屋。
リュカの部屋は私の部屋に似た作りだったけれど、落ち着いた色合いで、部屋の隅には木剣があった。
私がきょろきょろとリュカの部屋を見回していると、ルネが私の手を引いた。
「次は私の部屋に行きましょう!」
手を引かれるままにリュカの部屋を出ると、隣のルネの部屋へ。
ルネの部屋は、可愛い花柄のカーテンとクッション。天蓋も花柄で彩られた可愛らしい部屋だった。
ルネの部屋には長椅子の横に、椅子もあったのだけれど、二人ともが私の手を取ったまま座ろうとするから、私たちは長椅子に三人で座っておしゃべりをした。
私が住んでいたロワンの街の話。そこからここに来るまでに通ってきた色々な街のこと。
二人は行ったことのない街の話を聞きたがり、昼食をそのまま一緒にルネの部屋で食べて、夕食までの時間をずーっとおしゃべりに費やした。
使用人A「今日はハンスがサラ様のエスコートをしているから万一の時も手を離せない。もしもの時は階段の下でリュカ様とルネ様を抱き止めるぞ」
使用人B「では、私はさりげなくこちらで待機します」
使用人A「さりげなくな!」




