14. そんなに上手くはいかない
エクトルは、剣術大会に向けての鍛錬が忙しく、なかなか時間を作ることが出来ないらしく、時間が取れそうになったら、また手紙で知らせてくれるそうだ。
出来れば来月の初旬には、時間を作りたいと考えているようだけれど、どうなるのかはまだ分からない。
フォスティーヌは、王太子妃教育の教師の手配について、今、確認中なのだとか。
手配済みであるはずの教師の予定変更が何度も起こっていることから、今後の王太子妃教育の予定の見直しが必要で、フォスティーヌとしては、王城まで来ることが難しいのならば、いっそ手紙をやり取りする形ではどうかと考えているそうなのだけれど、それが受け入れられるかどうかは分からないのだそうだ。
次回は、じっくりとサラサールの絵本を読もうという約束をしてはいるけれど、フォスティーヌの王太子妃教育の予定の見直しが済まないと会える日取りが決められず、私には少しだけ日常を見直す余裕が出来た。
一年次にはお茶会で忙しくしていたソニアは、最近は絵師の元に通ったり、街で買い物をしたりすることが増えているらしいのだけれど、詳しく聞いてはいけない予感がするから、何をしているのかは分からない。
こういう時にきっと“君子危うきに近寄らず“というのだろうと思う。
リズは相変わらず、街に神官のお話しを聞きに行っている。
休みの日には、伯爵家のタウンハウスでの神官のお話し会に参加したりもしていて、最近、伯爵夫人からご令嬢の侍女にならないかとお誘いを受けたのだとか。
とてもいいお話しなので、リズとしては受けたいようではあるけれど、現在両親の意向を確認中であるらしく、絶対に説得してみせるとやる気で一杯だ。
朝からリズと一緒の授業なのは、週の半分ほどだけれど、寮に誘いに行くようになったので、以前よりも頻繁に顔を合わせられるのが嬉しい。
迷惑をかけているなとは思うけれど、嫌な顔をしないでくれるリズの役に立てるように私も力になれることがあれば頑張りたい。
ソニアも誘ってみたい気持ちは少しあるけれど、朝にとなると、予定が合わないので、何か別の機会を見つけたいところだ。
王太子に近づかないという、ひとまずの方針を貫いて、リズを誘える日には一緒に教室に行くようにしていたし、一人の朝は教室まで行く時間を変えていた。
この調子で王太子との親密度を上げることなく、フォスティーヌと仲良くしていきたいと思っていたのだけれど、やはりというべきか…。このままいさせては貰えないようだ。
一人で教室に向かった私は、早い時間だというのに教室の前で王太子の姿を見つけ、眉を寄せた。
しかし溜息を吐くわけにもいかない。
すぐに表情を整えると、平静を装って、教室へと向かう。
王太子に笑顔で会釈をし、そのまま教室に入ってしまいたい。
という希望が通るはずもなく。
私は王太子に連れられて、またもや生徒執行部の部屋へと向かった。