12. 子爵家の養女
商家にやってきたハンスさんは、父さんは貴族なのだと言った。
すぐには信じられなかったけれど、本当のことなのだと重ねて言われる。
貴族なのだとしたら、父さんがどうして商家で働くことになったのか分からなかったし、父さんは私に本当は貴族なのだとは言わなかった。
だけどそれでも父さんは貴族であるらしく、父さんの娘である私も貴族なのだそうだ。
オベール様も私に丁寧な話し方をする。
マイヤーさんが貴族向けの礼儀作法で教えてくれたのと同じことを私に向けてする。
オベール様は最初から親切で、乱暴なことを言ったりはしなかったけれど、こんな風に私に接するのは、ハンスさんがやって来てからだ。
私はどうしたらいいのか分からなかった。
父さんの弟は父さんのことを探していて、それで叔父さんの家に私は行くのだそうだ。
私は父さんに弟がいるなんて知らなかった。
ひとりぼっちの私に家族がいると聞いて嬉しかった。
だけど、叔父さんの家に行くことになるのなら、オベール様へのご恩返しをどうしたらいいのだろう。
私は一生懸命勉強して、オベール様のお役に立てるように仕事をしなければならないのに。
私が心の中でおろおろしているうちに、私の荷物はまとめられ馬車に乗せられた。
新たにいくつかの服などが用意され、オベール様やヤンさんやそれにマイヤーさんにもお別れをして、そして私は叔父さんの家へ行く馬車に乗った。
叔父さんの家に行きたくないわけではない。
他に行くところがないと思っていた私に帰る場所があるのだと言われて、嬉しくないはずがない。
だけど、まだどこか他人事のような気分でもあるのだ。
ロワンの街から離れていく。
ハンスさんはオベール様へのお礼は十分にするから問題ないと言ってくれたけれど、私は少しも恩が返せたようには思えない。それなのにどんどん馬車は離れていく。
私の居場所はどんどんと変わっていって、私はどうしたらよいのか分からないままで馬車に揺られた。
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ハンスさんは私に親切だった。
エマさんとオダンさんにもお別れの挨拶をさせてくれたし、慣れない私のためにゆっくりと馬車を走らせてくれた。毎日見知らぬ街の宿に泊まるのは少しワクワクした。
馬車の中でハンスさんに色々お話を聞いた。
私が叔父さんの養女になることも聞いた。だから叔父さんのことはお養父様と呼ばなくてはならないようだ。
ハンスさんのことも呼び捨てるものだと言われたので気をつけてはいるけれど、今まで誰かを呼び捨てで呼んだことがないのでまだ慣れない。
お養父様のこと、お養母様のこと、それから義弟に義妹のこと。
馬車の中で聞く新しい家族の話は、物語の中のことのようで、その中に自分が入るのだということは上手く想像することが出来なかった。
住む家が変わってすぐに、住む街も変わり。
父さんがもう帰ってこない家から離れて、やってきた街には父さんにそっくりだけど父さんじゃない人がいた。
叔父さんは父さんじゃない。
父さんも母さんもいないけれど、叔父さんの養女になった私には、お養父様が出来て、お養母様が出来て、それに義弟と義妹が出来た。
ひとりぼっちになったはずの私だったけれど、私はひとりぼっちじゃない。
お養父様は私をソファに座らせ、そして私の頭を撫でてくれる。
優しい笑顔に言葉を返したかったけれど、私の口からは嗚咽が漏れるばかりで上手く喋ることが出来ない。
「今日はゆっくり休むといい」
お養父様の声は父さんと同じで、だけど喋り方は父さんとは違う。でも私を安心させてくれるところは父さんと一緒だ。
私はお養父様がそばにいてくれることに安堵したからか、それとも泣き疲れたのか。どうやらそのまま眠ってしまったみたいだ。
目が覚めた時、外からは小鳥の囀りが聞こえ、空は明るさを見せていて、私は昨日荷物を運び込んでもらった私室のベッドの中にいた。
クレール「サラは疲れて寝てしまったから顔合わせは明日だ」
家族「まあ。長旅だったものね…」「そんな義姉上!」「お義姉様…!」




