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【完結】誰が為にシナリオはあるのか〜乙女ゲームと謀りごとの関係〜  作者:
第二章 「王立学院 ーthe game has startedー」
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87. 学院後期の始まり

 夏季休暇は多くの時間をリュカとルネと一緒に過ごした。


 卒業パーティーのドレスを仕立てるために、お養母様かあさまが色々と手配してくれ、ルネも一緒に生地を選んでくれた。

 エスコート役がリュカだから、リュカの生地も一緒に選んだのだけれど、今回はお揃いにはしない方がよいらしい。

 それは、卒業パーティーの主役は私なのだから、引き立てるように配慮が必要なのだという。


 デビュタントの時よりも更に私を引き立てなければとピリピリしていることが少しだけ不思議ではあったけれど、あの時はリュカにとっても初めての夜会であったから、私とお揃いの意匠にすることでリュカを準主役のような扱いにしたかったのかもしれない。


 最終的には冬に家に戻った時に調整するということで、急ぐあれこれに質問されるまま答えを返し、あっという間に夏の休暇は過ぎてしまった。


 しょんぼりするルネを置いて学院に戻るのは寂しかったけれど、私は卒業してもしばらくの間、学院付近に滞在することになるのだそうだ。

 何やら事情があるらしいのだけれど、詳細はまた冬にと聞いている。

 どんな事情かは気になるけれど、滞在することは決定しているらしいので、来年入学するルネと入れ違いになると思っていた私は、こちらでルネに会うことが出来そうであることを喜んでいる。



 学院の廊下を歩いていると階段を降りてくる足音が聞こえてきた。


 この足音は王太子殿下だ。


 私は聞き慣れてしまった足音から、学院に戻ってきたことを改めて実感した。


 王太子の存在で学院での生活を実感するなんて考えてみればなんだかおかしい。

 だけれど、二年生なってから毎日のように王太子の顔を見ていればそれも致し方ないし当然のことだ。

 そんな当然が存在することがやっぱり不思議ではあるけれど、そんな日常だって卒業までのこと。

 後期が終わればもう学院は卒業なのだ。


 私は授業はきちんと受けているし、その成果は試験で確認できている。

 一年次には出来なかった社交も、二年次ではこなせるようになってきた。

 嫌なこともあるけれど、それも社会勉強の一つで家にいるだけでは分からなかった貴族社会の体験と考えれば、十分によい学院生活をおくることが出来ていると言えるだろう。

 個人的に進めていた絵本の翻訳も大体のところが終わっている。少しだけ意味が取れないところが残っているけれど、慣習の違いから理解できていないのではないかと思えるから、あとは本を読んで勉強したい。

 とはいえそれも細かい話だ。物語の大筋は読めるようになったのだから満足している。


 一年次には不足しているように思っていたことも、二年次で出来るようになってきて、学院生活に満足出来ていると思うのだ。後期はそれぞれを更に研鑽していって、それで卒業となる。

 きっと卒業する時には、充実した学院生活だと思うことできるはずだと予感している。


 それなのに、どうしてだろう。

 なぜだか他にやらなければならないことがあるような気分が湧き起こってくる。


 もしかしたら卒業に向かっている感傷がそんな気分にさせているのだろうか。


 私が不思議な焦燥を胸から追い出そうと軽く頭を振った時、階段を下りた王太子の姿が廊下の先に現れた。


 少し憂いを湛えていた王太子の瞳が、私へと向く。


 胸に感じた焦燥は、王太子が見えた瞬間に何かを見つけたように静まった。


 私の姿を捉えた王太子の瞳に、先ほど感じた憂いの色は見えない。


 ふわりと、王太子が綻ぶような笑顔を浮かべた。


 朝の光の中で輝く金の髪、柔らかく弧を描いた口元、愛しむような眼差し。

 

 その美しさを目の前に、私の心臓はどくんと音を立てた。

リュカ「義姉上あねうえ、休み中は後期の予習に付き合って頂いてありがとうございました」

サラ「いいのよ。ちょっと早いかもしれないけれど、ルネの予習にもなったのだし」

リュカ「おかげで後期の授業に自信を持って臨めます。…確かに父上の言う様に、義姉上あねうえのエスコートをすれば失敗がなかったことになるわけではありません。上位の成績を取ることで成長したことを証明して、義姉上あねうえのエスコートを堂々としてみせます」

サラ「お養父様とうさまは色々言っていたけれど、家族のエスコートなのだから、気負わなくても大丈夫だからね」

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