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【完結】誰が為にシナリオはあるのか〜乙女ゲームと謀りごとの関係〜  作者:
第二章 「王立学院 ーthe game has startedー」
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82. リュカの後悔と懇願

 期末試験が終わった翌朝、私とリュカはお養父様とうさまと一緒に来た迎えの馬車に乗り込んだ。



 「お久しぶりです父上、お変わりはないですか?」

 「ああ、皆んな元気だよ。リュカとサラも元気な様でよかった」

 「はい。問題なく前期を終えることが出来ました」

 私とリュカは、機嫌の良さそうなお養父様とうさまに微笑んだ。


 「父上は面会の為にこちらにいらしたのですよね。どなたとの面会だったのですか?」

 「え?ああ…」

 リュカが問いかけると、お養父様とうさまはチラリと私の顔を見た。

 「いや、挨拶をしたんだが、まあまだ本決まりではないから、決まったら二人にも話そう」

 「そう、ですか。…はい、分かりました」


 お養父様とうさまは面会相手を教えてはくれなかったけれど、顔色の明るさを考えればおそらく悪い話ではないのだろう。


 「それより二人の学院でのことを教えてくれるかい?リュカは初めての学院生活で苦労はしてないか?」

 「ええ、大丈夫です」


 リュカが寮と学院での生活を話して聞かせると、お養父様とうさまは安心したように息を吐いた。


 「上手くやっているようで良かったよ」

 「寮生活も慣れてきましたし、学院の生徒たちは鍛錬仲間に比べたら付き合いやすいです」

 「ああ、それはそうだな。私もそうだったよ」

 「父上も?」

 「ああ、私は鍛錬がさほど好きではなかったしな…。しかしリュカは鍛錬の仲間とも上手く付き合っているのに、そんな風に思うのだな」

 「えっと…鍛錬は嫌いではないですが…。少なくとも学院では、面倒ごとを押し付けられたりはしません」

 リュカは苦笑した。


 リュカは、最初こそ鍛錬の仲間と仲良くなるのに時間が掛かったけれど、最初の仲間と仲良くなった後はあまり苦労なく仲間たちと仲良くしている様に思う。

 仲良くなるコツのようなものを覚えたから学院の子息たちとも苦労なく付き合えるのかと思っていたけれど、リュカにとっては学院の子息たちの方がどうやら親しみやすいと感じているようだ。


 「リュカは上手くやれているようだけど、サラはどうだい?二年生になると少し勝手が変わったのではないか?」

 「はい…授業の選択をどうしたらいいか最初は悩みました」

 「人付き合いも変わって来るだろう」

 「ええ、お茶会の誘いも増えてきたので、お断りすることもあって、少し心苦しいです」

 「ああ…そういうこともあるだろうな。しかしそういう付き合い方を学ぶ意味も学院にはあるからな」

 「はい」

 「ほかには…えーと親しくしている…あー、いやさりげなく聞くのは難しいな…本人が申し込むと言っているのだから、私が話してしまうわけにはいかないし…」

 「え?」

 お養父様とうさまの声が小さくて聞き取ることが出来ず、私は問い返した。

 「いや…あー、楽しく過ごしているようで良かったよ。うん」

 「え…ええ、はい」

 何か言いかけた様に思ったけれど、気のせいだったようだ。

 私は瞬きをして、少しだけ沈黙が落ちた。

 


 「あの…義姉上あねうえ…」

 「なあに?」

 「その…義姉上あねうえは卒業パーティーのエスコートはどなたかお決まりでしょうか?」

 「卒業パーティー?」


 卒業パーティーは学院の卒業式の後に行われる卒業をお祝いするパーティーで、基本的には学院の関係者しか出席出来ない。

 とはいえ関係者の中には卒業生の家族や親戚、その後の仕事先の家の関係者や婚約相手の家なども含まれる。つまりは卒業生からの招待があれば出席できるパーティーで、とても華やかだと聞いている。


 卒業式は、学院の職員などはもちろん別であるが、卒業生しか出席出来ない。

 けれど卒業パーティーは多くの人にお祝いされ、卒業生はその主役である。令嬢にとっては二度目のデビュタントのようなものだし、デビュタントの習慣がない令息にとってはーー個人の紹介こそ行われないけれどーーデビュタントのようなものなのではないだろうか。


 「エスコート…そうね…そういえば必要かしら…」


 パーティーならばエスコートは必要だ。すっかり忘れていたけれど、そうだわ…。


 「あの!僕に義姉上あねうえをエスコートさせてもらえませんか?」


 エスコートと言われ、一瞬私の頭に一人の顔が思い浮かびかけたけれど、義弟リュカの言葉でそれは掻き消えた。


 「え?」「リュカ!?」

 私とお養父様とうさまの声が重なった。


 私には婚約者がいないから義弟おとうとがエスコートするのは自然なことだ。

 けれども、自然なことを切り出すにしては硬すぎる義弟おとうとの口調に、私は戸惑いの声を上げた。

 そうして上げた声が、お養父様とうさまの狼狽えるような口調と重なったことに瞬いた。


 「お養父様とうさま?」

 「あ…いや…あー、卒業パーティーのエスコートは…あっと…その、いや、リュカは、どうして今それを?」

 お養父様とうさまの慌てた様子が不思議で、リュカも瞬いたけれど、問いかけを受けて言葉を続けた。

 「え…あ、はい」


 「義姉上あねうえのデビュタントで、僕はダンスを失敗してしまいました」

 「え?何を言っているのリュカ…失敗したのは私で…」

 「いいえ」

 リュカは首を振った。


 「あれは僕のミスだったと思います」

 「リュカ…」

 そのキッパリとした口調に私はそれ以上言葉を続けることが出来なかった。


 「義姉上あねうえには本当に申し訳ないことをしたと思います。あの時は、コンスタン様が庇おうとしてくださって、それもあってその後大変なことになって、それであの時のことを振り返る余裕が僕にはなかったんです」

 「あ…でもリュカは私が控室にいる間にお養父様とうさまと一緒に挨拶に回ってくれて、夜会のお約束を取り付けてくれて、それで夜会も一緒に巡ってくれて…だから」

 「はい…自分では必死に頑張ったつもりでした」

 「頑張ってくれて嬉しかったわ。だから気にしたりしなくても…」


 リュカは笑顔を見せてくれた。けれど視線は下を向いている。


 「コンスタン様と噂になってしまったのも、そう考えたら僕のせいでもあるんです。先日それにようやく思い当たったんです」

 「リュカ…失敗しない人などいないよ。失敗した時にどう行動するのかも大事なことだ。お前がコンスタン様と仲良くしていたからコンスタン様はサラを庇おうとしてくださったんだろうし、思い詰めるようなことではない」

 お養父様とうさまの言葉にリュカは顔をあげた。

 「はい。義姉上あねうえには申し訳なかったけれど、それを学べたことはきっと良かったのだと思います」

 リュカが私の顔をまっすぐに見つめた。

 「義姉上あねうえ。卒業パーティーはデビュタントではないし、ファーストダンスをやり直せる訳ではないのは分かっているけれど、義姉上あねうえが卒業する門出の場のエスコートを無事にやり遂げられたら僕は後悔がひとつ消せると思うんです。無理にとは言わないけれど、もし他にお約束がないのであれば僕にエスコートさせてください」

 「もちろん良いわリュカ!エスコートをお願い!」


 「サラ!」

 私がリュカに了承を告げるとお養父様とうさまが悲鳴を上げた。


 「お養父様とうさま?」「父上?」

 「あ…いや、サラ…も、意中の人…というか誰かエスコートを頼みたい相手がいるのではないかと…」

 「あ…そう、ですよね…卒業パーティーは僕よりも他に頼みたい人が義姉上あねうえにも…」


 「いいえ!大丈夫よ!もちろんリュカにエスコートをしてもらいたいと思っているわ」

 私はまっすぐにリュカを見つめて告げた。


 「本当に?無理を言ってしまったのでは…」

 「本当よ!…リュカ、私の卒業パーティーのエスコートをお願い」

 「義姉上あねうえ…はい!今度こそしっかりと努めますのでよろしくお願いします」

 「っ……」


 私がファーストダンスで足を痛めたのは、別にリュカのせいではないと思う。私とリュカの息が合わなかったのが原因なのだから、リュカが悔いる必要なんかない。

 けれどリュカがそれを気にしていて、そしてそれを晴らせると言うならば、卒業パーティーのエスコートをしてもらうことに異存があるわけがない。


 少し頭に思い浮かんだ顔は、全力で見なかったことにして、私はリュカに微笑みかける。


 なぜだかお養父様とうさまが頭を抱えていた。

 そして「そうだな、しかし他にどなたからか申し出があったらまた考えような」と遠い目をしてリュカに言葉をかけている。



 お養父様とうさまが心の中でエクトルに詫び、ソニエール伯爵への謝りの手紙を出さなくてはと考えていることなど私もリュカも知らないことだ。


 馬車は私たちの家へと向かって走り続けている。


 ルネとお養母様かあさまに会えるのももうすぐだ。

アルノー子爵「エスコートしなくても婚姻の申し出は出来るよな。うん。…念の為、サラを卒業後もしばらく学院付近に滞在させる手配もしておくか…。万一の場合は、卒業後に申し入れてもらおう…」

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