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【完結】誰が為にシナリオはあるのか〜乙女ゲームと謀りごとの関係〜  作者:
第二章 「王立学院 ーthe game has startedー」
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81. 伯爵と子爵の会談

 「ご足労いただいて感謝するアルノー子爵」


 サラへの縁談の申し入れの許可を得たいという手紙を受け取ったアルノー子爵は、王城の面会室でソニエール伯爵と顔を合わせた。


 ソニエール伯爵家は騎士の多い家柄でサオルジャン侯爵の派閥である。クーベルタン侯爵の派閥であるアルノー子爵家とは派閥違いではあるが、どちらの派閥も大きく言えば保守派だ。

 子爵家であるアルノーが別派閥と縁づいても大きな利があるわけではないけれど、同じ保守派であるならば不利もなく、伯爵家の次男となればサラの縁組としてはとても良い話だった。


 アルノー子爵はサラが兄の娘であり自分の養女であることなど、サラについて語り、念のためにと持参した絵姿を伯爵に見せた。


 「これがサラ嬢…養女…には見えないな…」


 絵姿を見たソニエール伯爵は子爵と見比べながら呟く。


 「ははは…。私と兄はそっくりな兄弟でしたから…サラは父親似なのです」

 「なるほど…。似ているらしいとは聞いていたが…いや、サラ嬢に会うのが楽しみだ」


 ソニエール伯爵は破顔すると絵姿を自分の従者に仕舞わせた。


 「こんなに可愛らしい義娘が出来るなら妻も喜ぶ」

 「そう言っていただけるならありがたいことです」


 アルノー子爵はほっと息を吐いた。


 養女ではあるものの血縁であるサラが拒否されることはないだろうとは思っていたものの、伯爵と話をするまでは気がかりでもあったのだ。


 「エクトルの侍従からも騎士の妻に相応しい令嬢だと聞いている」

 「騎士の妻に相応しいかは私では判断できませんが、そうであれば良いと思います。…騎士…と言うことはエクトル様は御家の騎士として?」

 「ああいや、息子は王立騎士団を希望しているので、家の騎士になるとしたら退団後になるでしょうな」

 「そうなると住むのはこのあたりになりますか」

 「うむ、我が家のタウンハウスもあるからそこに住んでもらっても良いが…あ、いやこれは少し気が早い話だった」

 「そうですね。もしもタウンハウスを住まいにとなれば、ご嫡男のご意向もおありでしょうし、本人たちの希望も聞かなくては…」


 「ああ、それももっともなんだが…。それよりも…、今日は息子がサラ嬢へ婚姻の申し入れをする許可を頂くために参ったのでな。息子が断られることもあるやもしれん」

 「え?いや、確かにサラの意向を聞いてはおりませんが、サラの侍女からは親しくしていると聞いていますし、お申し出はお受けしたいと思いますが」


 アルノー子爵はサラの侍女からソニエール伯爵の子息と交流があることは聞いていたので、縁談の話を期待して調べは済ませていたこともあり、婚姻の申し入れを受けるつもりでここまで来ていた。


 「それは有難い。しかし騎士たる者自分で直接申し込むべきであろう。受けてくれれば良いが、万一サラ嬢が息子の申し出を断るようなことがあれば別の縁談を紹介するのも吝かではない」

 「え?」

 「騎士の妻に相応しい令嬢となれば娶りたい騎士はいくらでもいるからな」


 そう言って朗らかに笑うソニエール伯爵に、アルノー子爵は曖昧に微笑んで返した。

 確かに手紙には婚姻を申し込む許可をとはあったけれど、当主同士で縁組を決めるものだと考えていたのだ。


 「許可を頂いたのであとは息子に任せるが、…おそらく卒業パーティーで申し込むつもりだろう」

 「卒業パーティーで、ですか?」

 「ああ…騎士科では卒業パーティーで婚姻を申し込むのが、伝統…のようなものでな、おそらく息子も…その頃になってしま…いや、その頃を考えているだろう…」


 ソニエール伯爵の話では、騎士科の生徒は後期は剣術大会があるため、婚姻の申し込みをしている余裕がないのだそうだ。

 婚約者のいる騎士科の生徒は家の都合で婚約している者がほとんどで、学院で相手を見つけた者は事前に申し込みの許可を取り付ける必要はあるが最終的な行動は自然、剣術大会が終わった後になってしまうのだとか。

 剣術大会が終わったタイミングで申し込む場合もなくはないが、直後に社交時期がやって来ることを考えると、公表するには時間が足りない。そうなればひとまず隠すことになるのは仕方がないことで、だったら卒業パーティーで華々しく申し込みを!というのが騎士科の生徒の考えのようだ。


 「いや、まあ…騎士科でそういう…伝統?があるのでしたらそれで良いですが…その…これは一般論なのですが、そんなにギリギリに申し込んで断られたら困るのではありませんか?」

 「その時は、仕方あるまい。それだけの男だったということだ」

 「そう、ですか…」


 アルノー子爵は騎士の考えはそういうものだと笑うソニエール伯爵に目を瞬いた。


 騎士の考え方は子爵には不合理な様に感じたのだが、サラがもしもエクトルを拒否したとしても気にすることはないと言うので、それを受け入れることにした。


 それにその時は縁談を紹介しようと言ってくれたことは子爵にとってとても有難いことでもあった。


 「まあ、まずは息子がサラ嬢に卒業パーティーのエスコートを申し込まなくてはな。早ければドレスも贈れるかもしれないが…息子に手配する余裕はないだろうなあ」

 「いえ、ドレスは我が家でも手配しておりますので」

 「そうか?まあ本人たちの意向もあるだろうから、念のためこちらでも一応手筈だけは整えておこう」

 「ありがとうございます」


 アルノー子爵とソニエール伯爵の面会は和やかに終了した。


 そうして二人は、次は無事に縁談がまとまった時に会おうと再会を約束して別れたのだった。

従者A「伝統、だったんですね…私は騎士は段取り悪くてなかなか婚姻の申込が出来ずに卒業パーティーに駆け込みしているものと思っていました…」

従者B「え?ああ…うん、…どんな経緯であれ数多くの生徒が長年に渡ってしているのだから伝統と言えなくはないだろうな、きっと、おそらく、たぶん」

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