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【完結】誰が為にシナリオはあるのか〜乙女ゲームと謀りごとの関係〜  作者:
第二章 「王立学院 ーthe game has startedー」
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77. 王太子と婚約者のお茶会

 「まあ、殿下」

 「ん?ああ、フォスティーヌ」


 王太子が王城の廊下をレアンドルと話しながら歩いていると、前方から女性の声が聞こえた。

 目を向ければそこには彼の婚約者が侍女を連れてこちらに向かってきていた。


 「今日も王太子妃教育だったのか?」

 「ええ、ですがオルト先生の都合がつかず自習になってしまったので図書室に向かうところなのです」

 「熱心だな君は。もう王太子妃教育に必要な範囲は終わっていると聞いているが…」

 「いいえ殿下。まだ私は学生ですもの。学べることがあるのであれば教えを乞いたいと思っております」

 「そうか」


 「お嬢様、せっかくお会いしたのですから殿下をお茶にお誘いしてはいかがでしょうか」

 侍女が小さな声でフォスティーヌへ提案した。

 「え?…そうね…」

 フォスティーヌは少し考えた様子だったが、王太子へ問いかけた。


 「殿下にお時間がございましたらお茶をご一緒致しませんか?」

 「え、ああ…そうだな…」

 王太子はフォスティーヌの誘いを聞くとレアンドルへ目を遣る。


 レアンドルが難しい顔をして「グリエット卿をお待たせすることになるのでは…」と言ったので、王太子は少しだけ考えたけれど、久しぶりに顔を合わせた婚約者の誘いを受けることにした。

 「うん、グリエット卿は騎士団を視察してからこちらに来るだろうからまだ時間はあるだろう。…フォスティーヌ、ではあまり時間は取れないがお茶を共にしよう」


 フォスティーヌの侍女によってすぐに場は整えられ、王太子とフォスティーヌはアセルマン侯爵が王城に賜っている部屋の一つでお茶を飲むことになった。席にはレアンドルもついている。


 「フォスティーヌ嬢、私も同席させて頂いてありがとうございます」

 「いいえ、お二人でいらしたところでお誘いしたのですもの、私こそ快くご一緒くださって嬉しいわ」



 パジェス王国は国王の元に議会があるが、その議会を構成しているのが五つの侯爵家である。

 国の政は国王と議会の話し合いの上で行われることから侯爵家の国内での力は大きなものであるのだが、その侯爵家の一つであるアセルマン侯爵の長女がフォスティーヌだ。


 侯爵家はそれぞれ王城内に区画を持っている。

 フォスティーヌの王太子妃教育は王族区画で行われているが、今はフォスティーヌが王太子を誘ったということで、アセルマン侯爵の区画にある応接室へ招待してお茶を供している。


 「そういえば…」

 いくつか情報交換のように婚約者と近況を語り合った王太子は、ふと思いついてフォスティーヌへ聞いてみることにした。

 「学院で、母親が平民の子爵令嬢を厭うような噂があるのは知っているか?」

 「殿下!」

 王太子が婚約者に問うたと同時にレアンドルが諌めるような声を小さく上げた。


 「噂ですか?」

 フォスティーヌは少し考えた。しかし…

 「いいえ、私はあまり学院にいませんので生徒の噂話には疎くて…申し訳ありません」

 「そうか…いや、いいんだ」



 グリエットが騎士団を出たという知らせが入ったため、短いお茶の時間は終わりを告げた。


 王太子とレアンドルは予定していた部屋へとグリエットを迎えるために移動する。


 「レアンドル…フォスティーヌに噂について聞くのは何か問題があっただろうか?」

 先ほど、フォスティーヌへ噂について質問した時に、レアンドルが諌める声を上げたことについて王太子は問いかけた。


 レアンドルは言い淀んだ。

 「いえ、その。…私が気を回しすぎただけだったようですから…」

 「…そうなのか?しかし…それでは、何か気遣う必要があったということか……なんであろうか」

 王太子が考え込んだためレアンドルは仕方なく口を開いた。


 「いえ…その。他のご令嬢の話題はフォスティーヌ嬢がお気を悪くされないかと…しかし私の愚考でしたので…」

 「……他のご令嬢の話…」


 そう言われて王太子はフォスティーヌの様子を思い出す。


 「気を悪くしてはいなかったように思うが」

 「はい…私が気を回しすぎて…」レアンドルは言いかけたが、しかし思い直したように表情を整えた。

 「いえ、内心どう思われたかは分かりませんし、他のご令嬢の話は避けた方が良いでしょう」

 「そうか?」

 王太子はレアンドルを見遣る。

 フォスティーヌが気を悪くしたようには思えなかったけれど、レアンドルがそう進言するのならば気をつけるべきかもしれないなと思った。


 「殿下、グリエット卿がすでにお待ちかもしれません。急ぎましょう」

 「ああ」


 王太子はレアンドルを連れて、会見のために準備させた部屋へと向かう。

 向かいながらグリエット卿と話し合うべき事柄を一つずつ頭の中で確認する。


 だから少しだけ軋んだ心は王太子の意識からすぐに消えることになった。

 学院で自分に安らぎをくれる笑顔を求めることは、婚約者に隠さねばならないことなのだと王太子は初めて分かったのだけれど、その痛みに気がつくほどには歩む廊下は長くはなかった。

エクトル「…サラはもう一人で馬に乗っても大丈夫なようだな…」

サラ「はい!馬の高さに慣れなかっただけみたいですね!もう大丈夫です」

エクトル「うん…でも速度を出すのは一人では心配だ。ゆっくり一周したら一緒に乗って速度を出してみようか」

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