妖精。 (M
目が覚めると見覚えのない部屋にいた。
無駄に広いベッド、白を基調とした清潔感ある壁。シルバーフレームで縁取られた白い家具。所々、水色をベースとしたガラス細工の装飾品が置かれている。
そして部屋の隅に見えるパステルクリームの髪色の侍女…。隣には二人の妙齢の男女。
「奥様、お目覚めですか」
聞いてたら眠たくなりそうな落ち着いた声がして。発したのが、妙齢の女性。エイラと同じ服を着ている女性だと気づいた。
「おはよう御座います、奥様」
片方の男性、燕尾服を着こなし、エイラが家令のエドモンドと侍女兼料理人のマルタと教えてくれた。
あの結婚式の後、すぐに解散となったらしい。後日、義実家へ挨拶に行くと。
エイラ曰く、あの騒ぎは内密に終わり、ついでに言うならば参列していた金髪の男性は…王太子だったと。
王族兄弟揃い組の式にやらかしたってわけかい!
屋敷の主人、レイシャダルは意識を失った私を連れ帰る前に両親に詫びを入れていたらしい。新居にエイラと帰ってくると、ヒロイン、サクラ様とライル殿下からお呼び出しがかかり王城に行ったっきり帰って来ず。
早、一日経過したらしい。ちゃっかり着替えさせられてる。
窓から見える王城が光り輝いてるなぁ。と、目をすぼめれば、エイラが二人にことのあらましを話していたのか、とても私に優しく接してくれた。
とりあえずご飯を頂き、エドモンドに屋敷を案内される。
屋敷の外観は地方貴族の王都にやってきた際のタウンハウス的なこぢんまりさで、使用人は三人だけだった。つまり、エドモンド、エイラ、マルタである。
義実家である侯爵家はそれなりの規模で、三人は騎士の家の使用人ということで護衛も兼ねていた。一番強いのは、見かけによらずレイシャダルだといういらない情報ももらった。
中庭に草木や果実の木、季節の野菜なんか植えられていて、エドモンドの趣味らしい。
「ところで、奥様は妖精についてご存知ですかな?」
一通りの案内が終わり、執務室。
本来なら当主であるレイシャダルが座って執務する机になぜか私が勧められ、されるがまま座り心地の良い椅子を堪能している時。
「貴族の一部が使役している特別な存在ですよね?人間界と妖精界が存在して、人間界に現れる妖精は動物に似た姿をしている」
ゲームの知識である。ちなみに妖精界にも人型妖精も王様もいるらしい。だから人型と人間のハーフキャラが存在するのだが。
「基本的に妖精を使役しているからと公表するのは本人の自由だと聞いています。なので、私は王族のライル殿下が鷹の妖精を使役していることしか知りません。学生時代に何度か拝見したことがあるだけで…あっ、あと、卒業パーティーでサクラ様がハムスターとハリネズミの妖精を使役していました」
とりあえず当たり障りのない返答を。
マイル殿下は別に見せびらかすこともなく、本当に平凡かつ普通な学生時代を過ごしていた。わざわざライル殿下に競う様に自分の妖精を出したりする人ではなかったので、どんな妖精かは知らない。
攻略対象は知らぬが仏。ヒロインと会話して、一気に関わりたくないゲージが上がった。夫になった男も攻略対象だが、城から帰ってこねぇ。ヒロインとよろしくやってるんだろう。
「そうですね。では、妖精はどんな役目があるかご存知で?」
エドモンド、お前は学校の先生かえ?
ゲームでもそんな妖精出てこなかったし、役割とかなぁ〜。攻略対象の妖精とヒロイン妖精が仲良くなって本人達も仲深めるゆるゆるな感じだったんだよなぁ。
妖精と言えば、スカイ…最後に会ったのが卒業パーティー前なんだよなぁ。
ヒロイン、一方的に話してたからスカイのこと聞きそびれたし、元気してるかなぁ〜。
ヒロインから嫌われた感あるからもうスカイの話題は出来ないかなぁ…。
というか、あのヒロイン…絶対転生者だよなぁ。関わりたくないなぁあ!!
私が黙って考え事していたからかな、エドモンドが話を再開した。
「妖精とは、主人と認めた人間に付加を行います。そうですね…、物語の話で言うならば、その選ばれた人間は魔法を使える様になります。だからこそ、精霊に選ばれし貴族は自分の能力を公表しない方々が多いのです。悪用しかり、利用されるかもしれないリスクを負いますゆえ」
「教えてくれてありがとうございます。初めて知りましたわ」
そこで、この屋敷の主人のレイシャダルは妖精使役しているのか?と話を続けるものなら、厄介な案件に首を突っ込むことになるからあえて黙って淑女の笑みを浮かべ話をとぎらせる。
そうかぁ、魔法かぁ〜。
…余計に首を突っ込みたくない。
ヒロイン四匹いるから、あの女の気分次第で人の暗殺出来る可能性があるってことじゃない、妖精の能力次第では。
一通りの妖精についての説明を聞いた。
妖精界にいる妖精王族は妖精達を無から作り出せる、やら。時々、人型の妖精が人間界に遊びにきているやら、やたら、詳しくと。
きっと、妖精を使役している貴族達の常識なのだろう。やっぱり住む世界は違うぞ、コレ。
そして、ほんの好奇心だったのだ。
「もし、人の姿をした妖精と人間の間にできた存在がいたとすれば。その存在はどの様な能力を使えるのでしょうか?」
そんな私の質問に一瞬びっくりしたエドモンドは、ゆっくり丁寧に答えた。
「人間界に現れたならば、そうですねぇ…。動物の姿に化けることができます」
彼は微笑みを崩すことなく、そう言った。