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ヒロインの心情


「ああっ!もう最悪!!」


豪華な佇まいの部屋。

サクラは叫んでいた。

部屋の隅には怯えているメイド、護衛を頼んでいる隊員が数名。

そんな彼らを空気のように扱い、ひたすら飾りを取っては床に叩きつけ声を荒げていた。



なんでこうもうまくいかないのか。

大体ローズの件だって、悪いことをしたつもりはなかった。

サクラの知りうる世界のローズは結局幸せになれるのだから。


サクラの望む未来は、ハーレムルートではなく…その先にある真実の愛だったのだから。



前世のサクラは友人から勧められるままゲームを始めた。

リアルで恋人の他に浮気相手がいたサクラにとってはゲームのキャラの行動は手に取るようにわかった。

実際に隠しキャラまで出してハーレムルートに難なく突入したからだ。


レイシャダルルートで登場する一人のイケメン。レイシャダルのルートを攻略すれば新たにそのキャラが加わった。

新しいルートではみんな囲えてヒロインが愛される話だと思った。

実際全員攻略でき、領地を国王から与えられるという幸せな話だった。中盤までは。


裏切り者が二人いたのだ。

最初の裏切り者はセルジオだった。彼は直ぐにヒロイン達と住まう場所に教会の使者だとシスターを連れてきた。ヒロインに愛を捧げるフリをしながら数年後にシスターとの間に私生児を設ける末路だった。

確かにヒロインはみんなを毎日相手出来ないだろうけれど。プレイ中のサクラは思った。



次の裏切りはサポートキャラの黒猫だった。

黒猫はハーレムに突入すると圧倒的に出番がなくなり、最後はどこかの女の元と一緒に暮らしていたらしい。

ライルはヒロインとの間に数名の子供を設けると、老いていくヒロインに当たり散らす。

隠しキャラクターは「なんか想像していた生活と違う」と疑問を投げかけるエピソードの結末。


レイシャダルはヒロイン達の住まう与えられた領地を愛する人のため生涯騎士として守り続けたと騎士団長の息子らしいエピソードだった。もちろん愛する人というのはヒロインのことだろう。

アンドレアも生涯ヒロインに忠誠を捧げ、ヒロインを守り続け、ヒロインは真実の愛を手に入れたと最後の言葉で締めくくられたのだ。



そして最後のスチルが見たことのないイケメンだった。

隠しキャラのセリフで「王」と呼ばれていたイケメンにプレイしたサクラは心打たれた。

セルジオはそもそも攻略キャラではなかった、アイツは裏切り者なのだ。

本当の隠れキャラは、王と呼ばれたこのイケメンなのだとサクラは本能で気付いたのだ。



転生を果たしたサクラは実母から「キッカ」と呼ばれていた。

ある日、展開通りに男爵である父親が子供だけ引き取りにやってきた。

前世、男をたらしこんできたサクラは実父である男爵に媚を売ることなど朝飯前だった。

実母を捨て男爵に引き取られるとキッカの名前を捨て前世と同じ名前のサクラを名乗った。

ここは私のための、世界なのだと。




ハーレムルートもとい真実の愛ルートに必要不可欠な出来事はあった。

レイシャダルの父である騎士団長の死と、ライルの兄弟であるマイルのお飾り妻の死。

マイルは結婚してもなおローズの行方を調べ、偽造死を図りお飾り妻を置いてローズのために国を出るのだ。

マイルは真実の愛ルートでしか出てこないキャラだった。

その後のエピソードで語られたのだ。


お飾り妻の説明は少しだけあった。マイルが公で死亡後、騎士団長が後見人となる。貴族達の間で愛人関係になっていたと噂を流されるお飾り妻。騎士団長の死後、彼の領地の端に数名の使用人を囲い表舞台から姿を消した。

ヒロイン達の領地が飢饉に襲われるエピソードでお飾り妻は先祖の領地だったということで支援をする話があった。

他の地域の災害でも、王族を除名された金を惜しみなく貢献し、流行病で亡くなったあと、マイルはローズと姿を表し、お飾り妻が自分達に資金を提供してくれていたことを発表する。国を出る際に、マイル本人から信頼する騎士団長にお飾り妻のことを頼んでいたと。

お飾り妻を誤解していた貴族達は心打たれ、各地の支援に対して彼女の生涯は終えるのだ。


それから数年後、と、ヒロイン達の話に戻る。そして出てくるイケメン王。



サクラの運命の相手は、イケメン王なのだと。

転生を果たしたのだから運命は変わるかもしれない。

セルジオはサクラを裏切らないかもしれないし、真実の王子様が現れるまで攻略対象達から愛されたほうがいい。

ライルの結末はともかく、レイシャダルとアンドレアは利用出来る。

だってゲームの中では彼らはヒロインを最後まで愛していたのだから。

レイシャダルと親密な仲になり第五のキャラクターを出現させなければ真実の愛ルートに突入出来ない。


サクラの王子様に会えないのだ。



「あぁぁぁっ!もうっ!」

ガシャーンとガラスの花瓶を床に叩きつけサクラは叫ぶ。


ライルはともかくレイシャダルはサクラを裏切らない。セルジオはやっぱり裏切った。でも結局アイツは裏切るのだから必要ない。

黒猫のサポートキャラは助けようと幼少期思ったのにいなくなっていた。キャラの攻略法を把握していたし、忌まわしい色の裏切りものなんかいなくても大丈夫だと気にしてなかった。


なんで?どうして?


「どうしてよ!なんでよ!?意味わからないわよ!!」


叫んでは床に散らばったガラスの破片を踏み潰す。

その奇行に耐えきれなくなったメイドが小さな悲鳴をあげれば、ここに人がいたことを思い出した。


ゲームの中の作られた人間達。

ヒロインより、儚くどうでもいい命。


「黙りなさいよ!グズ!!」


ガラスの破片を握りしめ声の先のメイドに投げつけた。

咄嗟にメイドを庇う同僚であるはずの隊員達。本来なら庇われる存在のサクラを差し置いてどうでもいいメイドを助けたのだ。


気に食わない。




同じ制服を着ていても、レイシャダルならサクラを助けてくれるのに。


セルジオはもういらない。でも、セルジオ以外の対象者とハーレムを築かないと。

それとも騎士団長とお飾り王子妃の死亡がきっかけなの?


金切り声を上げながら心の中で呟く。

お飾り王子妃は、誰だったのか?




サクラは王妃の話を全く聞いていなかった。

マリーベルの名前も、口にしたこともなく、覚えてもいなかった。



自分が中心の世界なのだから。

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