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夕暮れの、馬車の、中。 (M




王太子宮の前に馬車があり、レイシャダルにエスコートされながら乗り込む。

ラズロ様の隣にエイラが座り、感情の読めないレイシャダルが私の隣に座れば馬車が動きはじめた。



王城を後にすると、レイシャダルが私達に頭を下げてきた。

「妖精の能力を使うサクラの前でベルを優先すれば…あの女はベルや義姉様をあの場で傷つける事も出来たから…」

現に一緒に行動していた部下達はサクラが能力を使って各宮の間にある庭に放置されているはずだと話す。今頃は別チームの部下達が助けているだろうと。

実際蹴られた時にクマの馬鹿力使用されたとエイラが話せば、ドレスのスカートをまくられ、赤くなった部位を撫で始める。


ひたすら謝ってくるレイシャダルにラズロ様がなぜ振り払わなかったのを問えば、「甘い香りがしてずっと頭の中がボーとしていたんです。何か言わなければいけないのに、あの女の声がモヤの中でひたすら聞こえてたんです…。時々ベルの声がして…その声がとても嬉しくて」

嬉しくてなんで足を頬擦り始めるんだろう?

私の足はマリーベルの足だが、それは本体ではなく足なのに。

最近ずっと偏頭痛と頭にモヤがかかってサクラの声がよく通ると説明するレイシャダル。決まって甘い香りがすると。


腑に落ちない説明のままラズロ様が、王太子宮侵入の件は王妃陛下も庇い立て出来ないだろうから、レイシャダルと会っていた件は握り潰せるだろうと今回の説明をした。

レイシャダルの名誉のためにも。

これがサクラの相手がアンドレアなら、ライル殿下に盛大にチクリ、婚約発表する前に処理できたのにと悔しがっていた。



私はすぐさま、王太子殿下から夜の噂の件は聞いたと伝え、頭を下げる。と、まだ足を頬擦りしていたレイシャダルの頭にぶつかる。

サクラとライル殿下が本来なら卒業パーティーの後にどんな処遇になるのかも教えてもらったと伝えれば、ラズロ様も苦笑い。

今現在のサクラの立ち位置はライル殿下の婚約者ではなく、ライル殿下が率いる隊の隊員兼王子宮で来賓扱いらしい。それでも愛し子だとライル殿下が公表したので貴族たちは浮き足立っている。正式な婚約はマイル殿下とローズ令嬢の婚約パーティーが終わってからだと教えてくれた。


パーティーにおける護衛の管理や調整は全て騎士団長である義父様が行っているので、訓練や会議のほか、とても忙しいみたい。

義兄様の屋敷に到着してラズロ様を下ろせば、エイラが御者席に移り二人きりになった。



向かい合ったレイシャダルはくたびれていて、なんでか疲れているはずなのにそんなに色気があるのだろう?

「…あの、レイシャダル様…」

疲れているところ悪いのですが、と話を切り出した。

「レイシャダル様の気持ちを理解せずサクラ様に反抗してしまい申し訳ございません。場を弁えず、数々の非礼を…。その、レイシャダル様の気持ちを勝手に代弁したり、無理矢理キスをしたり…」

「…キス?してくれたの!?本当に!?」

驚いた声を出し、なぜ髪をかき上げると、無駄に色っぽい息を吐き、手を戻し、人差し指を口に添えるレイシャダル。なぜいちいちポージングが色っぽい、絵になる。



「くやしいな…。なんで俺、覚えてないんだろう。せっかくベルからしてくれたのに…」

わからない、なんでこうも私に執着するのか。ラチがあかず、私は次の会話を切り出す。

「ラズロ様と王太子妃殿下が席を外された際、王太子殿下と義兄様がお話しして下さいました。…レイシャダル様」



「私がダルメロ家の保護下に置かれていることを。私がサクラ様と同じ世界の記憶を持っているから。マイル殿下もセルジオ様も想い人がいた。協力者の中で唯一、レイシャダル様だけがお相手がいなかったからだと」

「違うよ、ベル!!君は俺が望んだんだ!君がいいって!確かに父や王太子殿下の思惑もあったけれど、俺が一番に君を望んだんだ!俺のせいで君が大変な目に遭ってるって理解してる!でも、俺が君を手放したくなかったんだ。関わり合いたくないって君は望んでいたのに」



関わり合いたくないって…望んだことをなぜ知っているの?

スカイがそこまで教えたの?

ゲームと関係ない二人だけで過ごした他愛の無い会話、私の言葉を一言一句、王太子殿下やレイシャダル達に報告したの?



秘密にゃー!って言いながらヘラヘラ報告してたの?

なんか無性に腹が立ってきた。 




「…ベルは俺の事、嫌い?」

不安そうなレイシャダルの表情に、勘違いした申し訳なさと、スカイを通じて私が踊らされていた入り組んだ気持ちが入り混じって悔しくて涙が出てきた。



「嫌い、ではないです。ただ…今無性に会いたい子がいるんです」

「…その人のことが好きなの…?」

人だったのか?いや、違う猫だ。

好きなのか、と聞かれたら目の前のレイシャダルより情はある。

スカイに会いたい、今すぐに。

なんで騙していたのかと罵ってやりたいし、秘密をぬけぬけと他人に暴露するなと耳にタコができるまで言いたい。



私が動かなくなると、レイシャダルも目を伏せて静かに謝る。

「…ごめんね、ベル。俺が君を望んで…君を傷つけて…」

「レイシャダル様…私…私」



「やっぱり君はあいつが好きだったんだろ?」

確かに、好きだった。友愛だった。

何かあればすぐに相談できた秘密の友達。



「レイシャダル様…、私に会わせて下さい…」



スカイの名前と聞き覚えのある兄の友人の名前を同時に言い放った。



「…え?兄様の友人の方??」


「…スカイ?」



二人して目を合わせる。

ふと、レイシャダルの制服に違和感を覚えて先日会った爽やかなお兄さんを思い浮かべた。…まま同じ制服だった、色気の凶器が目の前にいた。だから色気が何割増しだったかと納得しながらレイシャダルの表情がみるみるふやけはじめた。



「ベルはスカイ…の事が好きなの?」

「あの、好きと言えば好きですよ?レイシャダル様も存じていると思いますが、あの子から私のことを聞いたはずなので。…実を言えば、学園時代に婚約者が見つからなくて私が妖精の猫ならば、結婚出来たのになって思う程度には…その、好ましく感じていました。あっ、でも、友人ですよ?ただの友人です!私もうレイシャダル様の妻ですし…」

馬車の窓から見える夕焼けの日差しのせいでレイシャダルの顔がよく見えない。口元は緩んでいるけど。



「その、知り合いでしたら、お会いする機会が欲しいなと…少し伝えたい事がありまして…」

「ベル…!!」

なんでいきなり抱きついてきたのか。思わず抱きしめ返せば大きな身体がみるみる縮んで…縮ん…で?



「オイラもベルのこと大好きにゃ!!」




黒猫が、人の両胸を鷲掴みしていたのである。




「スカイ…??」

「だにゃ!」

「…レイシャダル様は…?」

「オイラにゃ!」




…いやいや、まてまて?

落ち着けと目の前のスカイを剥ぎ取れば上機嫌なスカイがニャーニャー鳴いている。

支えた薬指から見える指輪がスカイの瞳とまま同じ色で光り輝いている。



「落ち着いて、スカイ!レイシャダル様は!?レイシャダル様はどこに!?」

「落ち着いてるにゃ、ベル。オイラがレイシャダルにゃ!?」

「嘘つけや!スカイがレイシャダル様なわけないじゃないの!レイシャダル様なら何!?私はレイシャダル様の金玉を見て可愛いとか思ってたの!?本人目の前にして本人の事悪く言ってたの!?」

「ベル!?」

人の胸から離れスカイは座席に座ればあら不思議。…ご本人だった。ちょっと待って、なんで股を死守するの!?



「ベルそんなことを考えていたの!?俺の股を見て確かに一度話してたけどそれ以降もずっと考えてたの!?俺の股のことを!?」

「お、お待ち下さい!レイシャダル様!誤解です!レイシャダル様のだはなく、黒猫の…スカイはレイシャダル様なのですか!?」

「そうだよ!?俺がスカイだよ!?」

内股になって完璧に股間を隠したイケメンが恥じらいながら話す。

頬が赤く潤んだ瞳、湧き上がる罪悪感。


「エイラの能力ですか!?エイラがカメレオンだから変化できるのですか!?」

と聞けば、首を振りながら、あちらも「スカイに会ったらナニをしたかったの!?」と疑いの眼差し。人を完璧に痴女扱いしてないかな、この人。


スカイに会えたらなんで秘密をレイシャダルに暴露したんだとか言いたかったがご本人。まさかのご本人!!

「いや、俺は別にいいんだけどね!?むしろベルからされるのは良いんだ、でも、ほら、心の準備ってものがあってね!俺、ベル以外ダメだから!経験ないから!!…優しくして下さい」

あっちも大概酷いこと言ってる。


「違います!私がスカイに言いたかったことは、「何二人だけの秘密の会話を他人に暴露してるんだこのクソ猫!」って尻尾掴んでωを拝み…じゃなくて!!」

好きなのに罵声とはこれいかに。

「ベルは俺の体目当てなの!?いや、俺じゃなくてスカイを…スカイの…モノがいいの!?俺を見てよ、ベル!俺がスカイなんだから!」

なんでズボンのベルト緩めはじめたんだろう。

「落ち着いて下さいレイシャダル様!?私は別に体目当てではありません!!」

なんで私も股間凝視しながら話してるんだろう…。


「違うのです!!レイシャダル様ぁ!!」



「…屋敷ついたけど何やってんのお前ら?」


馬車のドアが開き風が通る。

エイラが思いっきりジト目で私達を見てきた。



冷静になれば座ってる私の目の前で立ち上がって制服の長ズボン下ろしてるレイシャダル。

いじめっ子に命令されたみたいに泣きながら顔を歪ませているレイシャダル。


…本当、何してるんだろう…。

ズボンの下に黒い半ズボン履いていて肝心の下着は死守されていた。

いや、別に良い。そんなことは今はいい。



「ベル…優しく、して下さい…」


誤解を招くな、レイシャダル!!

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