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ルーナの冒険 白黒の世界  作者: 北野玄冬
94/176

94. 大人の遊び

私の圧勝だと思っていたけど、魔法ありの鬼ごっこは結構いい勝負になった。


とにかく足が速くて、見つかったら魔法で邪魔しても追いついてくるジャッカル。


待ち伏せしたり、罠を仕掛けたりして捕まえてくるダクトベア。


魔法の手数でとにかく圧倒して、動きを止めてくるライオネル。


三人はそれぞれ工夫して、逃げたり追いかけたりしていた。始める前は絶対に捕まらないつもりでいたんだけど、逃げ切ったと思ったのに捕まったり、突然足元をすくわれて捕まったり、飛んでくる魔法を必死でかわしているうちに捕まったり……。


思いどおり、完璧に逃げることはできなかった。


でもすごく楽しい!


見通しのいい場所で、鬼がどこから来ても逃げられるように準備しているジャッカルを魔法で目隠しして捕まえたり、木立の中でじっと隠れているダクトベアを後ろから脅かして捕まえたり、鬼じゃないふりをして、油断したライオネルをぱっと捕まえたり。


まさか自分が捕まるとは思っていなくて、急に現れた鬼の私の前で慌てふためいているライオネルたちの姿を見ると、『してやったり!』って嬉しくなる。


みんな私のことなめすぎだよ!

得意だって教えてあげたのに、油断しすぎ!


わくわくしながら鬼ごっこを続けていると、ダクトベアを三回くらい捕まえたとき、


「お前、《在り処を示せ(サーチ)》しているだろ」


「え? うん、しているよ」


「それはナシだ。お前だけ位置情報を把握しているのはずるい。不公平だろ」


「ええ……」


ちょっと怒られた。


多分、私がダクトベアばっかり狙っていたせいだと思う。ライオネルとジャッカルは私よりかなり足が速くて、見つけても逃げられちゃう可能性が高いから、あんまり動かないダクトベアを確実に捕まえていく方針で動いていたんだよね。


で、ダクトベアが鬼のときは、《在り処を示せ(サーチ)》して見つけた気配に近付かなければ捕まらない。


すると必然的に、ダクトベアはライオネルかジャッカルを捕まえなくちゃいけなくなって、鬼のとき一番大変だったのかもしれない。


在り処を示せ(サーチ)》だって魔法だから、私がずるをしていたわけじゃないけど……。


ダクトベアが楽しめないのは、ちょっとかわいそうだ。


「いいよ。もう《在り処を示せ(サーチ)》は使わない」


「そうしてくれ」


鬼の目印のボールを渡すと、ダクトベアはやれやれって雰囲気で数を数え始めた。

 

ちなみに、ダクトベアのやり方はもう分かっているから、《在り処を示せ(サーチ)》なしでも捕まえられる気はぜんぜんしない。面倒だから教えてあげないけどね。残念でした!


ダクトベアから逃げて、私は教会の近くの茂みに身をひそめた。


さっきこっちでダクトベアを見つけたから、まずは別のところを探すはず。


じっと耳を澄ませて、しばらく周囲の物音に注意していると、


「ガキだねぇ」


「!」


不意に上から声をかけられて、反射的にビクッとした。


もう見つかったの⁉


すごくびっくりして、《在り処を示せ(サーチ)》がないと実は私ってダメダメなのかなって少し弱気になったけど、見上げるとそこにいたのはリッチさんだった。


今日も今日とて、木の上で昼寝をしていたらしい。


眠たそうに開いている目が、呆れた色を映し出している。


「走り回って楽しいの?」


「楽しいですよ」


聞かれて、周囲に気を配りながら、私はささやくように答えた。


ぜんぜん気付かなかったけど、もしかしてリッチさん、ずっとそこで私たちの鬼ごっこを眺めていたのかな? 今日も暇なのかな? 退屈そうだけど……。


「リッチさんもやりますか?」


「やらないよ。めんどくさい」


試しに誘ってみたら、即答で拒否された。


うらやましくて、自分も混ざりたくて声をかけてきたわけではないらしい。本気で嫌だって思っている声色だった。リッチさんは走り回るのが嫌いなんだね。


……あ。ていうか、


「足、めちゃくちゃ遅いですもんね」


思い出して、私はすごく納得した。


そういえばリッチさん、走っても走っているとは思えないスピードだし、すぐ息切れする人なんだよね。


私が初めてヨッドと遭遇したとき、戦っちゃダメって止めるために急いで来てくれたんだけど、本当に急いでいるのかなって怪しく思うくらい遅くて、拍子抜けしてしまった。魔法のありの鬼ごっこでも、リッチさんはすぐに捕まってしまいそうだ。


だから鬼ごっこ、やりたくないんだ……。


と、そんなことを考えていたら、


「ルーナちゃん、俺のこと煽っている?」


「え?」


むくりと上半身を起こして、リッチさんが眉をひそめた。


煽っている? そんなつもりはまったくない。

鬼ごっこ苦手そうだなとは思ったけど……。


「煽られてもやんないよ。俺、走るのキライ」 


「そうですよね」


謝ったほうがいいのかな?


困惑していると、リッチさんはため息をついてまた枝の上に寝そべった。


……なんだったんだろう?


微妙な空気を取り払うために、


「リッチさんは普段、どんな遊びをしているんですか?」


そう聞いてみると、リッチさんはゆっくりまぶたを開け閉めして、


「遊ばないよ。俺は大人だから」


「え? 大人は遊ばないんですか?」


そんなわけない。


……と、思いつつ、私は内心でびくびくしていた。


大人になったら、休みの日に遊びたいってムースは話していたし、大人のライオネルたちは今、鬼ごっこをして遊んでいる。遊びは子供だけのものじゃないはずだ。


そのはずだけど……。


大人は遊ばないものなの? 本当は鬼ごっこなんてしないの?

もしかして私、だまされた?


自信が持てなくて、どんどん不安になっていく。


「遊ばないねぇ」


のんびりと、ひとり言のようにリッチさんがつぶやいた。


「たまに童心に返る奴はいるけど」


「ドウシン?」


「子供の頃みたいに遊びたくなるってこと。俺は絶対にごめんだけど」


「……そうなんですね」


うーん?


よく分からないから、私は適当に相槌を打った。


そして考えているうちに、また疑問がふくれてくる。


子供の頃みたいに遊びたくなる?

それってつまり、大人が子供の遊びをするってこと?


今朝のライオネルたちがしていたキャッチボールは、大人の遊びじゃなくて、普通の子供の遊びだったのかもしれない。でもどうしてそんなことを……?


実は、ちょっと疑問には思っていた。いつも仕事でいないか、部屋にこもっているか、周辺を走っているかなのに、今日はどうして遊んでいるんだろうって。


たまたま、そういう気分だったのかな?

それとも……、私が休みだったから?


言い知れない不安がぞくっとこみ上げてきて、背筋がひんやり寒くなる。


バレているのかな? 私が本当は子供だってこと。

それで確かめるために、大人ならやらない遊びを提案してきた?


……ううん。


そんなわけないって信じたい。だってライオネルたちは、喜んだり悔しがったり、私と同じようにこの鬼ごっこを楽しんでいる。あの感情はきっと嘘じゃない。


それにこうなったのは、私の無意識の魔法のせいって可能性もある。


前にナユタは、『願いを実現させる力』が魔法だって言っていた。呪文を唱えなくても、魔力を込めなくても、願っていることが実現することがある。それが『魔法』。


私がライオネルたちと遊びたいって思っていたから、その望みが叶ったのかも?


嫌な想像を振り払うために、あれこれ考えていると、


「捕まえた」


「うわっ!」


急に後ろから肩をつかまれて、心臓が飛び出るかと思った。


慌てて振り向くと、びっくりした顔のライオネルが立っている。


なんだ、ライオネルか……って、捕まえた?


「ごめん。驚かせた?」


「あ、うん」


まばたきしていると、心配そうにライオネルが尋ねてくる。


「立ち止まってどうしたの? もう疲れちゃった?」


「ううん、考え事していただけ」


「そう? リッチにいじめられていない?」


「そんなことするわけないでしょ。めんどくさいな」


答えながら、リッチさんはやだやだっていうふうに顔をしかめた。


「俺がその遊びに参加することは絶対ないって話していただけだよ」


「あぁ。混ざりたかったの?」


「冗談じゃない」


「知っている」


軽く笑うと、ライオネルは私のほうに向きなおって、


「はい。次はルーナが鬼だよ」


「あ、うん」


灰色のボールを手渡してくる。

本当にライオネルが鬼になっていたんだ……。


「捕まるの早いね。私、ついさっきダクトベアを捕まえたばかりなのに」


「そうなの?」


「あ、知らなかったんだ」


もともと近くにいたのかな? それですぐ捕まっちゃったのかな?


鬼の順番が回ってくるの速いなって思いながら、


「今日、なんでキャッチボールしていたの?」


さりげなく聞いてみると、ライオネルは不思議そうな目をして、


「ジャッカルが誘ってきたんだよ。ボールを見つけて懐かしくなったら、久しぶりにキャッチボールしようって。こういうの昔に戻ったみたいで楽しいよね」


「そうなんだ……」


これは大人の遊びじゃない。


リッチさんが言っていたとおり、大人が子供の頃を懐かしんで遊んでいるんだって気付いて、私は少しうろたえた。


どうしよう。大人も遊ぶんだって勘違いして、『私も混ぜて!』って子供みたいにお願いしちゃったから、変な大人だなって思われちゃったかも……。


ところが、ぜんぜん怪しまれている雰囲気はない。


……そうだよね。


落ち着いて考えて、私はこっそり安堵した。


今こうして、大人のライオネルたちが子供の遊びを楽しんでいるんだから。私も楽しんでいったって、まったくおかしくはない。大人だって、子供みたいに遊んでいい。


この遊びが子供か大人のものかなんて、もう考えなくていい。


どんな理由があったって、大人が遊んでいるなら、それが大人の遊びなのだ!


それでいい! そういうことにしておこう!


「いーち、にーい、……」


不安を拭い去ると、私はまた遊びに没頭した。


休みの日って最高!

次の休みのときは、早起きしてライオネルたちを誘わなくちゃ!




ところが、そのまた三日後。


ライオネルとダクトベアは、仕事で王都に行ってしまった。


また遊べると思って、次の休みを心待ちにしていたから、私はすごくがっかりして裏切られたような気分になった。仕事ならどうしようもないんだろうけど……。


楽しい時間は、長く続かないものだね。

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