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ルーナの冒険 白黒の世界  作者: 北野玄冬
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79. 友愛の結末

「えっ? なんで⁉」


びっくりなんてものじゃない。


一瞬、心臓が止まったんじゃないかって思うくらい、私はすごく驚いた。

さっきの『リッチさんを殺したい』発言よりもずっと衝撃的だ。


意味わかんないよ。

このままじゃライオネルが死ぬって、どういうこと?


冗談だとしたらたちが悪いし、本気だとしたら冗談じゃない。


気になって、はらはらどきどきして仕方ないのに、


「……ふむ」


思案げにそうつぶやくと、ヨッドはなぜか考え込むように黙ってしまった。


「ちょっと! そこまで言ってしゃべらないのはなしだよ!」


「いや、オレ様が口を出すことではなかったかと思ってな」


「口出ししていいよ! ライオネルが死んじゃったら嫌だもん!」


「だが嬢さんは、あの金髪の状況を分かっていないのだろう? ならばこれは、オレ様が話していいことなのかどうか……」


「なんで⁉ 話してよ、命令する!」


「む……」


「それは、彼が悪魔に狙われやすいという話?」


話し渋るヨッドに迫っていると、不意にグリームが口を挟んできた。


何? グリームも知っている話なの? 知っていて黙っていたの?


そうだとしたら、許せない!


カッと怒りがこみあげてきて、私は感情のままグリームをにらみつけた。


だんまりを決め込んで、ライオネルを見殺しにするつもりだったの? それはさすがに怒るよ? 嫌いになっちゃうよ? 『グリームなんか大嫌い!』って言っちゃうよ?


どういうことか、ちゃんと説明して!


視線で問い詰めると、グリームは面倒くさそうな半眼になって、


「様子を見ていただけよ。彼がすぐ死ぬわけじゃないわ」


「そうだな! あの金髪の魔力は悪魔を引き寄せる、それだけの話だ!」


大きくうなずいたヨッドが、安心したようにしゃべり出した。


「平時であれば、さほど問題にならんことだ。しかし今、この世界はひっくり返ろうとしている。これからオレ様のように、無理にでも白の領域へ足を運ぶ輩が増えるだろう。あの金髪がやり過ごせない輩も、これからどんどん増えていくだろう!」


「……えーっと?」


話している内容が、まったく分からないわけではないけど……。


疑問だらけだ。


つまり、ライオネルは悪魔に狙われやすくて、悪魔がたくさんやって来たら死んじゃうかもしれないってこと? でもなんで、ライオネルの魔力は悪魔を引き寄せるの? なんで世界がひっくり返る前に、白の領域に来たがる悪魔が増えるの? ていうか、


「結局、その『世界がひっくり返る』って何なの?」


詳しく説明してくれることを期待して、昨日の質問をまた繰り返すと、


「言葉どおりの意味だ!」


聞いたことのある答えを言って、ヨッドはにやりと意地悪く笑った。


あ、これは嘘だね。

その表情を見た瞬間、私はピンときてイラッとした。


「嘘つき」


本当はもっと詳しく説明できるんでしょ?


昨日はリッチさんたちがいたから知らないことにしていただけで、本当は『世界がひっくり返る』ってどういうことなのか、ちゃんと知っているんでしょ?


もう騙されないんだから! もったいぶらずに、いい加減教えてよ!


ちょっと怒っていますって顔で、キッとヨッドを鋭くにらみつけると、


「ハッハッハッ! ばれてしまったか!」


まったく悪びれていない感じで、ヨッドは楽しそうに笑った。


「三柱が話していることなら、オレ様も話せるんだがな!」


「……むかつく」


あーあ。つまんないの。


話すつもりがないと分かって、私は面白くない気持ちになった。


城の使用人じゃないのに、便利な言葉を知っているんだね。

大人の秘密主義って、ほんと嫌い。


むかついて、教えないなら城に連れていってあげないよって、私はヨッドに交換条件を出すこともちょっと考えた。でも実行したところで、結果は分かり切っているし、家に帰る手段がなくなっちゃうのはかわいそうだから、口に出す前にやめておいた。


私って実は、すっごく優しい人だから。

よく感謝しておくように!


ま、ヨッドに意地悪したって気分がよくなるわけじゃないし、ヨッドの弟がなかなか見つからなかったのって、私たちのせいみたいなところもあるからね。


今日のところは勘弁してあげる。特別に!


「じゃ、ちょっと確認してくるね」


「よろしく頼む」


大きな岩の陰で立ち止まると、私は白の領域の服を脱いで、子供の姿に戻った。

そうして門を開き、短い黒い空間をくぐってシャド・アーヤタナの城に下り立つ。


さぁ、ヨッドのために三柱かお母様を探してあげよう……。


城に着くなり私は、さっそく動き出そうとした。


だけど門をくぐった先はなぜか、いつもの自分の部屋ではなくて、お母様がお客さんと話すときに使う応接間。え、なんで? 思わず戸惑って、固まっていると、


「おかえり、ルーナ」


「ただいま……」


視界が完全に開けた瞬間、笑顔のお母様に声をかけられた。


びっくりだ。でも、ああそういうことかって納得。


きっとお母様が、私の門の行き先を勝手に変更したのだ。

私が門をつなげる先を間違えたわけじゃない。……そうだよね?


そのはずだけど、ちょっと不安になってくる。緊張しながら、私はお母様のお客さん――薄黄色の衣をまとった、ジャーティの黒の王フラーニに目を向けた。


ぶすっとした顔で、お母様の正面のソファーに座っているフラーニ。


なんでいるんだろう?


分からないけど、私が門を間違えたなら、お母様とフラーニとの話を邪魔したってことになるから謝らなきゃいけない。それに、今の服装はちゃんとしていないから、黒の王がいるなら着替えてこなくちゃいけない。このままじゃアースが鬼になっちゃうよ。


だけど……、うん。


何も注意されないってことは、やっぱりお母様が私を呼んだらしい。


よかった。自分の部屋を間違えるわけないもんね。


ほっとしながら、でもなんで呼ばれたんだろうって考えていると、


「ヨッドを呼んでいらっしゃい」


優しい声で、お母様が私にそう言った。


「うん……」


知っているんだ。


まぁお母様のことだから、なんでもお見通しでもおかしくはないんだけど。


狐につままれたような気分で、私は言われるままもう一度門をくぐり、


「来ていいって」


「そうか。それはありがたい」


ヨッドにそう伝えると、すぐ一緒に城へ戻った。


疑問がいっぱいで、頭がうまく回らない。

 

フラーニが来ているって、ヨッドは知っていたのかな?

それでシャド・アーヤタナに行きたがっていたのかな?


きっとそうなんだろうって、私は楽観的に予想した。けれど、


「! 突然の無礼をお許しください」


応接間に入った途端、ヨッドはぎょっとしたように顔を引きつらせて膝をついた。


門の先にお母様やフラーニがいるなんて、少しも想像していなかったみたい。急に低くなった大きな背中から、すごく動揺して、緊張しているのがなんとなく伝わってくる。


あ、知らなかったんだ。


それじゃあ、フラーニが城にいるのはヨッドと別件ってこと?

二人はお母様に、どんな用があるんだろう?


……うーん。


考えても分からない。


先に聞いておけばよかったなって少し後悔しながら、私は仲間外れにされそうになったときの言い訳を考えた。


大事な大人の話をするときは、私はいちゃダメって追い出されることが多い。


だけど今日はまだ何も言われていないから、このまま話を聞いていても大丈夫なはず。城まで連れてきてあげたんだし、私にだってちょっとは知る権利があるはず。


何か言われてもごねるつもりで、黙ってヨッドたちの様子を見守っていると、


「アンタは馬鹿かい。いや、壁越えを教えたあたしが馬鹿なのか」


フラーニがひとり言みたいにそう言って、大きなため息をこぼした。


すごく呆れているようだ。

言葉からも雰囲気からも、あきれ果てているのがよく分かる。


バカだねぇって、フラーニはなじるようにヨッドを見つめた。でもそのまなざしには、優しい気持ちもしっかり込められていて、同情しているんだなって私でも分かった。


小さな子供をいつくしむ、おばあちゃんみたいな優しい目。

怒っているけど、あんまり本気では怒っていない空気感。


「ケセドのことは本当に残念だった」


もう一度ため息をつくと、フラーニは絞り出すように声を発した。


「が、アンタが体を張ってまで助けに行くことはなかっただろう。いい加減、自分の立場をわきまえな。まったく何を考えているんだか」


「返す言葉もございません」


「ふん、心がこもっていないね。アンタ、実はちっとも反省していないだろう」


「いえ、そのようなことは決して」


仰々(ぎょうぎょう)しく言葉を返すと、ヨッドはお母様に向かって深く頭を下げて、


「このたびは私の軽率な行動により、女王様が定められたこの世界のルールを揺るがす結果となり、まことに申し訳ございません。いかなる罰も受け入れる覚悟はできております」


本当にヨッドなのかなって疑うくらい、まじめな雰囲気でそう言った。


……えーっと。あれ?


それはどうも、思っていたより真剣で、深刻な話のようだった。


壁越えってやっちゃダメなの? 罰を受けるようなことなの?

そんなルールがあるなんて、私、ぜんぜん知らなかったんだけど?


初めて知ることばかりで、よく分からない。


それに、ヨッドがそのせいで悪い扱いを受けるのは、ちょっとかわいそうだ。


だってヨッドは、弟を探すために白の領域へ行っただけ。


ウパーダーナの悪魔たちのような、悪いことは何もやっていない。サンバーを助けてルサばあさんの命を奪った、あの交換魔法はグレーゾーンだけど。


しかも探し人のケセドは、グリームが食べちゃって再会できていない。


ダメなことだったとしても、許してあげる余地はあるんじゃない?


怖いことにならないといいなって、ほんのちょぴっとヨッドを心配していたら、


「顔を上げなさい」


お母様が静かにそう言った。


今のところ、怖いことを言い出しそうな気配はない。


ていうか、罰を与えるつもりならとっくに私を追い出していると思うから、怖いことにはならないと思うんだけど……。可能性はいつもゼロじゃない。


おそるおそる頭を持ち上げたヨッドと目を合わせると、お母様はにこりと笑った。


いつも私に向けてくるような、優しくてあったかいほほ笑み。


うん、やっぱり悪いことにはならない気がする。

お母様も私と同じで、すっごく優しい人だから。


「フラーニから話は聞いているわ。今回のことは、あなたたちの献身的な友愛(フラタニティ)に免じて見逃すこともすでに決まっている。そう固くならなくて結構よ」


「……はい」


緊張した返事をすると、ヨッドは恐縮するようにまた深く頭を下げた。


やっぱりね! よかった!


理由はよく分からないけど、お母様にヨッドを罰するつもりはないみたいだ。


これで一件落着! ふぅー!

満足して、私はにこにこ笑顔になった。


ところが、ほっとして肩の力を抜いていると、


「ルーナと遊んでくれてありがとう」


え? 


お母様がヨッドに変な感謝をして、急に複雑な気分になった。


見ていたんだよね? 私、ヨッドと遊んでいたわけじゃないよ? 強くて意味わかんない人だったから、警戒して観察していただけ。遊んでもらってなんかいないよ!


すごく否定したい。


でも余計なことを言って、それでヨッドの立場が悪くなるのは嫌だから、あえて否定しないでおくことにした。口は災いの元。丸くおさまるなら、もう何でもいいよ。


私は優しいから、そういうことにしといてあげる。


誰も死なないのが一番平和で、一番いいことだからね!

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