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ルーナの冒険 白黒の世界  作者: 北野玄冬
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67. 願いの代償

それからきっかり一週間後、私はまたサンガ村へ行った。


自分の部屋で身支度(みじたく)を整えて、今度こそライオネルがいますようにって、どきどきしながら門を開き、ライオネルたちの拠点の裏の森に出る。するといきなり、


「わっ」


ビュービュー強い風が吹きつけてきて、せっかく整えた髪型が一瞬で台無しになった。


うわっ、さいあくっ。


しかもこっちは今日、ちょっと肌寒い。空は明るい水色なのに、空気と風は、くしゃみを誘うようなこそばゆい寒さだ。下に着てくる服、間違えたかも……。


なんだか幸先の悪いスタートだ。


でも幸せと不幸は、片方ばっかりが続くことはないらしい。

だから運の悪いことは、今日はもうこれで終わりなのかも。


ちょっとくじけかけたけど、そうポジティブに捉えると、私は子猫サイズのグリームを抱え、上を見ながら拠点の近くを歩き回った。この先はいいこと続きですように!


ところが、誰も見つからない。


なんで?

不思議でたまらない。


ライオネルはともかく、リッチさんならいると思ったのに。教会とか畑とかのほうに行っているのかな? 待っていればそのうち戻ってくる? ……ううん。


消極的な気持ちをこらえて、それじゃダメだよって私は自分を叱った。


待ちぼうけするのはナユタだけだ。

探し物は、探さないと見つからないんだから!


というわけで、私は拠点の庭で《在り処を示せ(サーチ)》することにした。


とりあえずリッチさんを探そうと思って、居場所を確認すると、拠点のすぐ近く――なぜか私が門をつなげたあたりにリッチさんの反応があって、


「よく来たねぇ」


戻って確認してみると、本当にそこにリッチさんがいる。


……うそだなぁ。


自分の目が信じられない。葉っぱで隠れていたわけでも、幹と同化していたわけでもないのに。ちゃんと上を向いて歩いていたのに、見つけられなかったなんておかしいよ。


もしかしてリッチさんって、魔法で姿を隠しているの?


それなら最初に見つけられなくても変ではないけど、《在り処を示せ(サーチ)》して戻ってきたら見つかったのはどうして? つじつまが合わない。


ていうか私が門から出てきたところ、見られていないよね?


「あの、いつからそこに?」


不安を隠し、普通を装いながらそう尋ねてみると、


「今朝からかな」


よいしょ、と木から下りて、リッチさんは眠たそうな顔でぐーっと体を伸ばした。


聞かれたことに答えただけって感じだけど……え?

それってつまり、私の門を見たってことだよね?


困惑すると同時に、緊張が高まっていく。


まずいよ。突っ込まれたら、なんて言い訳すればいいんだろう? あ、でも門を見ただけじゃ、私が黒の領域から来ているって分からない? トルシュナーの別の場所から門で来たって答えれば大丈夫かも。でも別の場所ってどこって聞かれたら……終わりだよ!


このあとの質問と回答を予測して、私はすごく焦った。


けれどリッチさんは、あくびをしながらのんびり体を動かすばかりで、今のところ詰問してくるような様子はない。


……もしかして、寝ていて見ていなかったのかな?

それならいいんだけど。


落ち着かない気持ちでじっと様子をうかがっていると、


「あっ」


リッチさんが突然、何か思い出したような声を上げた。


そして私のほうに顔を向け、さっと申し訳なさそうな表情になって、


「約束どおり来てくれたところ悪いんだけど、ボスはまだ戻っていないんだ」


「えっ」


よくない知らせを告げてきた。


まぁさっきこのあたりを探した感じで、ライオネルたちがまだ来ていないってことは、察しがついていたんだけどね。いつ来るんだろう? 今夜? それとも明日の朝?


一日二日なら待てるよって気持ちで、そわそわしながら続く言葉を待っていると、


「仕事で、あと一週間はかかるって言われちゃった」


「そうですか……」


思っていたより予定が狂っていて、そんなには待てないよって落胆した。


ようやく会えると思ったのに、また一週間お預けだなんて。


期待と緊張で、どきどきしていた気分がしゅわっとしぼんでいく。

裏切られたみたいですごく悲しい。


でも仕事なら、きっとどうしようもないんだよね。悪気があって待たせているわけではないんだよね。ライオネルは仕事が忙しい大人だから。本当は子供の私とはちがうから。


……仕方ないんだよ。


あーあ。残念。


がっかりしながら、城に戻ってあと一週間おとなしく待とうと私は思った。


ところが、リッチさんに別れの挨拶をしようとしたら、


「それとサレハが、また歌の練習をしませんかって言っていたよ」


「え?」


急にそんな話をされて、驚きのあまり喉まで出かかっていた言葉が引っ込んだ。


どういうこと? 歌の練習?

話の変更がいきなりすぎるよ!


確かに以前、教会でサレハさんに歌を教えてもらったことはある。


でもそれは一年半くらい前のことだし、また歌を教えてほしいなんて言った覚えはないし、なんで急にそんなことを言われるのかさっぱり理解できない。


あのときと同じように、またライオネルたちを待つことになったから?


……あっ。


うんうん頭を悩ませていると、途中で重大なことに気付いて私はハッとした。


これは罠だ!

ひっかけ問題だ! 私の正体を暴こうとしているんだ!


危ない、危ない。


手に汗を握りながら、私はこっそり長くて細い息を吐いた。


今の私は大人の姿だけど、サレハさんに歌を習ったときの私は子供のまんま。きっとリッチさんは、あのときの子供の私と、今の大人の私が同じじゃないかって怪しんで、どう反応するのか試しているのだ。それで突然、あんな質問をしてきたにちがいない。


ふぅ。

危なかったけど、変なことを言う前にちゃんと気付けてよかった。


「歌の練習って、どういうことですか?」


速くなる呼吸をおさえながら、困惑したふうを演じて尋ねると、


「んんー? ルーナちゃんこの前、教会でオルガンをじっと見ていたでしょ。それでサレハは、また歌の練習をしたいのかなって思ったらしいよ。ちがった?」


「ちがいます」


ちがうけど、意外と筋のとおっている答えでびっくりした。


それが本当の理由なのかどうかは分からないけどね。

どちらにせよ、怪しまれているようだから警戒は続けなくちゃいけない。


私、子供のルーナなんて何も知りません! まったくの別人です!


オルガンを見ていたのは本当だけど、そういう理由で見ていたわけじゃないし。

……はぁ。


嫌なことを思い出して、ちょっと悲しくなりながら、


「知り合いにピアノを習う予定だったんですけど、向こうに用事が入って、習えなくなってしまったんです。それで早くピアノやりたいなって、なんとなく見ていただけです」


「ふぅん」


そう説明すると、リッチさんは気の抜けた相槌(あいづち)を打って、


「それならサレハに教えてもらえば?」


「え?」


びっくりなことを、投げやりに提案してきた。


なんで? 何を言っているの?


すごく驚いて、わけ分かんなくて、私は自分の耳を疑った。


サレハさんに教えてもらう? ピアノを? 私が? ……えっ?


「オルガンもピアノも弾き方は同じでしょ」


それがいいとばかりに、リッチさんがうなずきながら補足する。


あ、そうなんだ……。


全体の形はちがうけど、確かにオルガンとピアノの、指で押すところの作りは似ていたような気がする。オルガンが弾けたらピアノも弾けて、ピアノが弾けたらオルガンも弾ける感じ? それなら、今の暇な時間にオルガンを教えてもらうっていうのはかなりアリだ。


でもサレハさん――神官に教えてもらうっていうのはナシ。


それはさすがにまずいよ。


三柱にもレオにも、『神官は危ないから近付くな』って何度も言われているし、私も神官は危なくて怖いなって思っているし。みんなが忙しいって分かっているのに問題を起こしたら、ダリオンにおっきな雷を落とされそうだし。


何かあってからじゃ遅いのだ。石橋は叩いて渡るべし。


残念だけど断ろう。

リリアンが教えてくれるまで、おとなしく待っていることにしよう。


それがいつの日になるのか、今のところまったく分かっていないけどね。

……はぁ。


「そういえばルーナちゃん、《在り処を示せ(サーチ)》って魔法が使えるらしいね」


憂うつになっていると、リッチさんがまた別の話を持ちかけてきた。


今度は何? 《在り処を示せ(サーチ)》がどうしたの?


「はい、使えますけど……」


「このあたりの魔法使いを《在り処を示せ(サーチ)》することもできるの?」


「できますよ」


もちろん。自信を持ってうなずくと、


「やってみてくれない?」


すぐにそう頼まれて、別にやってもいいんだけど、ちょっと不審に思った。


なんで《在り処を示せ(サーチ)》してほしいんだろう?


白の領域の人の前で魔法を使うのは、よくないって言われている。でも私が悪魔――教会に登録されていない魔法使いだってことはもうバレているし、《在り処を示せ(サーチ)》できるって知っているみたいだから、それは今さらな話だ。魔法を使うのは構わない。


だけど、何か裏があって頼んできているのだとしたら……。


考えて怖くなる。


頼んできたのがライオネルだったら、すぐ引き受けるんだけどね。リッチさんはあやふやで、どっちかっていうと信じちゃダメそうな人だから、つい疑ってしまう。


断れば確実な安心感が得られるけど……。


その場合、どう言い訳すればいいんだろう?

必要ない嘘をつくよりは、協力してあげたほうがいい?


どっちもどっちだ。拒むかどうか迷っていると、


「ヨッドがどう表示されるか興味あるんだ」


説明の言葉を加えられて、なんだそういうことかって私は納得した。


それは気になるよね。


ライオネルが連れてきたという、すごく強くて危険そうな悪魔。


在り処を示せ(サーチ)》しなくてもその結果は分かるけど、自分の村に滞在している悪魔が、どのくらい強いのか知っておきたいっていうのは、ごくごく自然な感情だ。


「いいですよ」


変な意図がないなら問題ない。


承諾して、私は近くの魔法使いを《在り処を示せ(サーチ)》した。


するとたちまち結果が表示されて、周囲に四つの反応を確認。


だけど……えーっと?

なんかこれ、結果がおかしいよ?

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