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ルーナの冒険 白黒の世界  作者: 北野玄冬
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49. 早々の邂逅

翌朝、授業が始まる前に、私は出かける準備をした。


白の領域の服と、身だしなみを整えるための道具、WC(ホワイトコイン)、ドングリの工作を詰めた袋。


持ち物を揃えて、ウパーダーナで買ったチョウチョの髪留めをつけて、さぁ、ナユタのナイフを取り戻しに白の領域へ行こう! ……ってなったんだけど、その前に、


「いってきますって、挨拶するべき?」


このまま行っていいのかなって、ちょっと迷った。


バレたら怒られるって思っていたから、私はこれまで、無断で白の領域に行っていた。


でも今は、お母様が白の領域へ行くことを許可してくれている。だから白の領域に行くって言っても、きっと怒られることはないはず。


ま、ダリオンの午前授業をサボって行こうとしているから、ダリオンに挨拶したら面倒なことになるのは間違いないけどね。


うーん、どうしよう。


悩みどころだ。出発前に、アースかシャックスには挨拶するべき? 何も言わないで急にいなくなったら、心配しちゃうよね? 今回はナユタのナイフを取り返したら、すぐ戻ってくるつもりだけど……、うん。


やっぱり心配かけちゃうのは嫌だから、挨拶してこよう。


考えた末にそう思って、用意した荷物を置いて部屋を出ようとしたら、


「やめなさい。複雑な気持ちにさせるだけよ」


呆れた感じのグリームが、静かに私を止めた。え、ダメなの?


「ルーナが白の領域へ行くことを、彼らはよく思っていないでしょう」


それはそうだけど……。


「女王様に言われたから止めないだけで、いってらっしゃい、なんて本心では言いたくはないはずよ。それに、白の領域へ行ってくると伝えて、妨害される可能性がゼロというわけではない。黙って行くのが一番だと思うのだけど」


「うん……」


否定できない。グリームの意見を聞いて、私は少し悲しくなった。


怒らないし止めないし、連れ戻そうとはしないけど、三柱は相変わらず、私が白の領域へ行くことをよく思っていないのだ。危険だからって、その一点張りで。


知らせておきたかったんだけどな。

でも邪魔されるのは嫌だから、仕方ない。このまま行こう。


挨拶するのはあきらめて、私は大人の姿になった。


白の領域の服を着て、荷物を持ち直して、自分の部屋で門を開く。

グリームと一緒に、暗くて細い、おなじみの通路をひたすらまっすぐ進む。


そしてやがて、行き止まりにぶつかると、手探りでドアを見つけ、そっと押し開ける。


その先は、薄暗いところだった。


道? 隙間?


向こうから人が来たら、横向きになればぎりぎりすれ違えるかなって幅の狭いところで、両脇には石造りの高い建物がある。日陰になっていて、見上げると誰かの洗濯物が空を隠していて、人が住んでいるところのようだけど、人の声は聞こえない。


間違いなく知らない場所だ。私、今、どこにいるの?


王都に行きたいと思って門を開いたから、王都のはずなんだけど……。


「ここ、どこ?」


「分からないわ。ひとまず、大きな通りを探してみましょうか」


そう言ってグリームが、ピカッと光って子猫サイズになる。

私はうなずいて、グリームを抱えて歩き出した。


お母様はきっと、門から出るところを見られたら大変だから、人目のないところを出口にしてくれたんだと思う。でも私が知っている王都は、こんな静かなところじゃないから、本当に王都なのかなって不安になってくる。


お母様、間違っていないよね?

私が行きたいところ、分かってくれているよね?

ちゃんとここ、王都だよね?


どきどきしながら狭いところを抜けると、少し大きな道に出た。


歩いている人がたくさんいて、道端に売り物を並べている人もたくさんいる。みんなサンガ村の人みたいに、貧乏そうな格好をしている。活気はあんまりなくて、物寂しい感じ。


見覚えのない場所だったけど、私はちょっと安心した。


ここが王都なのかどうかは、まだ分からない。

でも、人がいるなら聞いてみればいいことだ。そうだよね?


グリームに確認すると、そうしなさいって返されたから、


「あの、すみません。神殿はどっちにありますか?」


お店をしているおばあちゃんに、そう聞いてみた。


使い古されたぼろぼろのフードを被った、ぎょろりとした大きな目が特徴的な、やせ細ったおばあちゃん。少し怖い雰囲気があるけど、この近くにいるのはそういう人ばっかりだから、ほかに選択肢はない。何に使うのか想像できない、黒っぽい謎の道具を並べている。


私が話しかけると、そのおばあちゃんは面倒くさそうに顔を上げて、


「50WC(ホワイトコイン)


「え?」


いきなり、金額を告げてきた。私はすごく戸惑った。


会話が成り立っていない、というわけではないと思う。


言葉は通じたはず。でも、それなら50WC(ホワイトコイン)って? 急に何の代金を請求されたんだろう? 私、ここで買い物するつもりはないんだけど……。


まごついていると、お店のおばあちゃんがずいと手を差し出してきた。


お金を寄こせってこと?

え、50WC(ホワイトコイン)、渡せばいいの……?


「教えてほしいなら、情報料を払えってことよ」


おばあちゃんの言動が理解できなくて、うろたえていると、しばらくしてグリームがそう耳打ちしてくれた。


あ、なるほどね。

白の領域では、教えてほしいことがある時はお金を払うものなんだ。


知らなかった。あれ、でも王都のアクセサリー屋のお姉さんに営業許可証のことを聞いた時は、お金を請求されなかったような……。親切な人だったから?


不思議だけど、そういうルールなら従おう。


私はお店のおばあちゃんに50WC(ホワイトコイン)渡そうとして……、ダメだ!

お金を取り出す途中で、いま50WC(ホワイトコイン)支払ったらまずいということに気付いた。


どうしよう!

今の手持ちが1020WC(ホワイトコイン)だから、おばあちゃんに50WC(ホワイトコイン)渡したら、営業許可証が買えなくなっちゃう!


ここが私の知っている王都で、神殿の場所が分かったとしても、営業許可証が買えないんじゃ意味がない。商売ができないんじゃ、白の領域に来た意味がない!


「あの、20WC(ホワイトコイン)じゃダメですか?」


困って、おそるおそるそう聞いてみると、お店のおばあちゃんは気に食わないというようにジロリとにらんできた。


やな感じ。でも、ここで引き下がっちゃいけない。

私は神殿に行って、営業許可証を買わなくちゃいけないんだから!


「どうしても買わなくちゃいけないものがあって、20WC(ホワイトコイン)以上は出せないんです」


「……」


「あの、でも私、神殿に行かなくちゃいけなくて、でも場所が分からなくて……」


「……チッ。それでいいよ」


わけを説明してお願いすると、お店のおばあちゃんは腹立たしそうに舌打ちしたけど、すごく不本意だって顔をしていたけど、負けてくれた。私は心の底からほっとした。


「ありがとうございます!」


「南に1キロ」


20WC(ホワイトコイン)を渡すと、おばあちゃんは不愛想にぼそっとそう言った。


神殿はここから、南に1キロのところにあるってことね。うん、分かった。

だけど私、どっちが南なのか知らない……。


「あの、南ってどっちですか?」


「そっちだよ」


聞くと、お店のおばあちゃんは面倒くさそうな顔をして右を指差した。また代金を請求されたらどうしようって、少し不安だったけど、そんなことはなかった。


「ここをまっすぐ行けば着きますか?」


「道なりだ。右に神殿が見えたら、そっちに向かえばいい」


「ありがとうございます!」


もう一度お礼を言って、私は教えてもらった方向に足を進めた。


いきなりお金を要求されてびっくりしたけど、優しい人でよかった。ナユタのナイフを取り戻してお金が余ったら、あとで払えなかった30WC(ホワイトコイン)渡しにいこう。




歩いても歩いても、目の前に現れる景色には見覚えがない。


だけど神殿があるってことは多分王都だし、道の両脇にはずっと何かしらの建物が並んでいるから、サンガ村よりはるかに大きな町だってことは確実。


それに時折、紋章のついた立派な馬車が道を横切っていくから、前に王都でぶつかったあの貴族の人みたいな、お金持ちも住んでいるってことだと思う。


つまり、知っている場所じゃないけど、ここは99パーセント王都!

お母様が間違うはずないからね!


そう確信しつつ、神殿に向かって十分くらいは歩いたなって頃、


「あ! コマ売りの姉ちゃんだ!」


急に向かいから歩いてきた子供に指をさされて、私は思わずビクッとなった。


え、何? 誰?


薄い茶髪の、ひょろりとした知らない男の子。私より年上っぽい。もちろん、今の私じゃなくて、本来の私よりってことだけど。十一歳とか、十二歳くらい?


立ち止まって警戒していると、その子は笑顔で走って近付いてきて、


「なあ、俺にもコマくれよ! この前、売り切れって言われて買えなかったんだ!」


「あ、うん……」


「毎日探していたんだぜ! ほら、ちゃんとお金も持っているから!」


ポケットから取り出した10WC(ホワイトコイン)を、意気揚々と差し出してくる。

どうしよう……。


私は対応に迷った。営業許可証がないと、商売しちゃダメだと思う。


でも、この前コマを買えなくて、私のことを毎日探していたっていう男の子に、少し待っていてって言うのはすごく気が引けた。


結局、私はその場でお金を受け取って、ドングリのコマを渡した。

するとその男の子は、


「いえぇぇぇぇい! やったぜ!」


ぴょんぴょん飛び跳ねながら、なんでそんなに喜ぶのかなって不気味に思うくらい嬉しそうな声を上げて、どこかへ走り去っていった。そしてその直後、


「コマ売っているの? 僕にもちょうだい!」


「私にも! お姉さんのこと、ずっと探していたんだよ!」


「おい、割り込みすんな! 俺が先! 邪魔すんじゃねぇよ!」


……なんで?


男の子がいなくなった瞬間、待ち構えていたように別の子供たちがわらわらと集まってきて、コマちょうだいコマちょうだいと一斉に迫ってきた。


いったい何が起きているの⁉


わけが分からなくて、私はちょっとパニックになった。


「早く売ってよ! 僕もそのコマほしいんだ!」


「きゃっ、押さないで! 痛い! 私の髪引っ張ったの誰⁉」


「俺が先だ! お前は後だ! そこ退け!」


子供たちの異様な雰囲気が恐ろしい。


だけど、私がドングリのコマを渡すことをためらっていると、やがて目の前で子供たちがギャーギャーと喧嘩を始めて、


「ちょっと待って、待ってよ、みんな落ち着いて!」


子供たちが我先にとコマを求める、その理由を考えている暇なんてなかった。

営業許可証のことも、もうすっかり頭から抜け落ちていた。


「順番! 順番に渡すから! ここに一列に並んで! 今回は、みんなが買える分ちゃんとあるから! 喧嘩しないの! 押したり引っ張ったりしたらダメ!」


必死になって、私は迫ってくる子供たちに対応した。

とても大変だった。


集まった子供たちの中には、私が言ったとおり、一列に並んで順番を待ってくれる子もいたけど、ほとんどは言うことを聞かないで、俺に私に先にくれくれって迫ってくる子供だったのだ。しかも騒ぎを聞きつけて、さらに子供が集まってくるし……。


「もう終わり! コマは売り切れです!」


200個もあったのに、気付けばコマは完売していた。

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