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ルーナの冒険 白黒の世界  作者: 北野玄冬
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46. 本気の挑戦

「侵入者対策だ」


問いかけると、ダリオンは淡々とそう答えた。


ふーん?


ごまかしたいみたいだ。でも残念。私はその答えがおかしいって知っている。


だって、シャド・アーヤタナに侵入者が現れたことなんて、今まで一度もない。それなのに侵入者対策を強化するって、そんなの明らかにおかしいよ!


「うそつき。侵入者なんていないのに」


「これから増えるんですよ」


追及しようと思って非難すると、ダリオンは急に丁寧な口調になった。


今日の授業はおしまいってことだ。

頭上の空はまだ明るいけど、確かにもうそんな時間かも。


「これから増えるって、なんでそんなこと分かるの?」


「長年の経験と勘です」


「何それ。意味分かんないよ」


「お嬢も長生きすれば分かるでしょう」


うー!


城に戻る道すがら、問い詰めようとしていろいろ尋ねてみたけど、はぐらかされるばっかりで、納得できるような答えは一つも返ってこなかった。


ダリオンの嘘を暴きたいけど、証拠があるわけじゃないから断定できない。

経験と勘だけで危険な生き物を増やすなんて、私は反対なのに!


「お嬢がいくら反対しても、この決定はくつがえりませんよ」


文句を並べていると、ダリオンが呆れたようにため息をついた。


「これはお嬢のための措置ではありませんから」


そうなの? じゃあ、お母様のため? だったら仕方ない……、でも!


お母様に、これ以上の護衛なんて必要?

すごく疑問だ。


そもそもお母様は、ひとりでも誰にも負けないくらい強いはずで、やっぱり、今のままで充分だと思うんだけど?


ダリオンにたくさん疑問をぶつけながら歩いていると、やがて城に着いた。


城では、庭にいるナユタと使用人たちが、BBタイガーをどこかへ運ぼうとしていた。


門のほうへと、力を合わせてBBタイガーを引っ張っていて……え!

こっちに近付いてきている!


そう気付いた瞬間、私は怖くなって口を閉じ、ダリオンに少し近付いた。


やっぱり嫌だ! あんな怖い動物、近くにいてほしくないよ!


獰猛な真っ赤な目が、新鮮なお肉を探しているようで恐ろしい。

うるさくして、敵だと認識されたら死んじゃうかも……。


「つながれているので、襲ってくることはありませんよ」


「本当に? 鎖を引きちぎって、飛びかかってきたらどうするの?」


「私なら気絶させますが。……お嬢ならどうする?」


「叫んで逃げる。助けてって、グリームかダリオンかシャックスを呼ぶ」


「よく分かっているじゃないか」


褒めるようにそう言って、ダリオンが私の頭に触れた。

でもぜんぜん嬉しくない。


ダリオンに引っ付きながら門をくぐったら、門番に笑われたけど、気にしている余裕なんて少しもなかった。そうっと、そうっとBBタイガーの横を通っていると、


「森が荒らされないといいんだが」


ナユタのそんな呟きが聞こえて、私はうんうんと心の中で同意した。


森のみんなが心配だ。


お母様は、区画を分けるから大丈夫って言っていたけど、本当に大丈夫なのかな? あとで確かめにいかなきゃ。まぁダリオンの午後授業がなくならない限り、森に行く暇なんてないんだけどね。


訓練、がんばろう。


それに、誰か他の人の手に渡ってしまう前に、ナユタのナイフを取り返さないといけないっていうのもあるし。


無事BBタイガーのそばを通り過ぎ、城の中に入ると、私はすぐダリオンから離れて自分の部屋に向かった。


敵と慣れ合うのはよくないからね。目指せ、打倒ダリオン!




「何が悪いんだと思う?」


けれど、意気込んだもののダリオンは手強すぎた。


指摘されたところを直して、一生懸命取り組んでいるのに、何日経っても合格を出してくれない。合格させる気ないんじゃないのって、疑いたくなるくらい厳しくて、容赦がなさすぎて、もう自分の力だけじゃどうにもできない気がしてくる。


ということで、週に二回か三回あるシャックスの午後授業の日に、私は聞いてみた。


いつまで経っても褒めてもらえないのは、私のどこが悪いからなの?


「さぁ。見てないんで、そんなこと知りませんよ」


シャックスはあからさまな塩対応だった。


でも、ここであきらめちゃいけない。三柱が、私の授業の進捗を共有していないなんてあり得ないのだ。シャックスは絶対、何か知っているはず。


「見ていなくても、何か聞いているんじゃない? ダリオンがひとり言で、よく私のことについてぶつぶつ呟いているって、前に言っていたじゃん」


「まぁ、そうですねぇ」


「お願い、教えて! 何やっても怒られて、もうこれ以上は新しいことが何も思いつかなくて、私いま、すごくピンチなの!」


「そうですか。ところで、今あたしの授業中だって知っています? 集中しないと、あたしもダリオン並みに厳しくしますよ?」


「やだ! シャックスまで意地悪しないでよ! 私、本当に困っているんだから!」


「……仕方ないですねぇ」


必死に頼み込むと、やがてシャックスはあきらめたようにため息をついて、


「アドバイスにはならないんですが。あと何十年かかるんだってことを、たまにぼやいているのは聞きますよ。視野を広げろとか、地形を把握しろとか」


「うそでしょ⁉」


びっくりして、私は思わず叫んでしまった。


もしかして、とは思っていた。ダメ、ダメ、ダメばっかりで、難しいことを言ってくるから、合格させる気がないんだろうなって、うすうす勘づいてはいた。


でもまさか、本当にそうだったなんて!


「あと何十年も、あの訓練を続けなくちゃいけないってこと⁉」


ダリオンめ……!

むくむくと怒りがこみあげてくる。


できない私にも問題はあるかもしれないけど、そんな何十年も訓練していたら、ライオネルたちがおじいちゃんになっちゃうじゃん!


シャックスに聞いてよかった。知らなかったら、きっとあともう少し、あともう少しって、本当に何十年も訓練を続けていたかもしれない。危ないところだった!


ああ、もう、本当にむかつく! 抗議してこなくちゃ!


「あ。でも一つ、今のお嬢様にもできそうなことが……って、どこ行くんです?」


「ダリオンのところ! 文句言ってこなきゃ!」


「無駄だと思いますよ。ダリオンは頭かたいですから」


「ハンマーで割ればやわらかくなる?」


「……そんな返し、どこで覚えたんですか?」


呆れと驚きの混ざった顔で、シャックスはなだめるように私の頭を撫でた。


「アースが聞いたら卒倒しかねないので、そういうことはあんま言わないでくださいよ。あと、本当にハンマー持ってダリオンのところへ行ったら、問答無用で新しい訓練が始まる気がするんですが、私の気のせいですかね? ハンマーの持ち方がなっていないとか、そんな近付き方じゃ返り討ちにされるだけだとか指南されると思うんですが。ちがいます?」


「……」


ちがくない。


私からハンマーを取り上げて、持ち方や腕の振り方を教え始めるダリオンの姿が簡単に想像できてしまって、私はげんなりした。


ハンマーで割るっていうのは冗談だし、最初からやるつもりはないけど、ダリオンなら平気な顔で授業を始めそうだよね。まじめだから。


「ダリオンきらーい」


「それ言っても、訓練は易しくなりませんよ」


「ちぇっ。それで、私にもできそうなことって何?」


「気迫を出すことです」


「気迫? それって、ハッ! ってやつ?」


「それは気合を入れるための掛け声ですが、それで気迫を感じることもありますね」


「掛け声の練習をすればいいの?」


「ちがいます。心構えの問題ですよ」


こつんと、シャックスが私の額を軽くつついた。


「お嬢様はいつも、困ったら誰かが助けてくれると思っているでしょう。ま、実際おおむねそのとおりなんですが。自分だけの力で、この状況をどうにか乗り越えようって気持ちが薄いから迫力――必死さがない。だから考えるのも動くのも遅くて、本気でやっていないように見えて、ダリオンに怒られるんですよ」


「ええ? 本気でやってるつもりなんだけど……」


「もっと本気になる必要があるってことですね」


私の額から指を離し、シャックスは不意ににやりと笑った。


「お嬢様。あたしと賭けをしませんか?」


「賭け?」


「そうですよ。次のダリオンの授業で、お嬢様が合格をもらえたら、お嬢様の勝ち。合格をもらえなかったら、あたしの勝ち。あたしが勝ったら、一周間、お嬢様の宿題の量を三…倍にします。お嬢様が勝ったら、あたしができる範囲で何か叶えてあげましょう」


「え……」


何それ。私が負けたら、午前も午後も授業があるのに、宿題が三倍になるってこと⁉


そんなことしたくないよ!

まぁ絶対に無理ってわけではないけど。


私が勝ったら何か叶えてくれる……。ううん……。


「面白いけど、私、合格できる気がしないよ」


「だから賭けをするんです。罰ゲームがあれば、必死になるでしょう?」


「それはそうだけど……」


いつもどおり怒られて、その上、宿題も三倍になるだけなような……。


「お嬢様、このままでいいんですか?」


迷っていると、突然シャックスがまじめな声で話し出した。


え、何?


顔を上げると、真剣な表情で私を見るシャックスがいる。

珍しいことで、私は少し戸惑った。


何、お説教? 急にどうしたの?


「抗議したところで、あの堅物が考えを変えることはありません。万策尽きた今、何もしなければ、ダリオンが示すクソ高い合格水準に達するまで、永遠に訓練を繰り返すことになります。お嬢様は、本当にそれでいいんですか?」


「いいわけないけど……」


「なら本気になりましょう。自分自身を追い詰めて、あの生真面目な野郎からちゃちゃっと合格をもぎ取ってきましょうよ。何をためらうことがあるんです?」


「……分かった。その賭け、やるよ」


シャックスに迫られて、私は仕方なくうなずいた。


本気になれば合格をもらえる? ……分からない。


でも本当に、もう何も思いつかないのだ。シャックスの言うとおり、この賭けに応じて自分を追い詰めるしか、方法はないのかもしれない。ええい、なるようになれ!


「だけど私が勝ったら、シャックスの授業は一週間なしで、代わりにお菓子たくさん持って森にピクニックに行くんだからね!」


「いいですよ」


「森のみんなのこと探すの、シャックスにも手伝ってもらうからね!」


「お任せください」


そういうわけで、次の日。


今日で絶対に訓練を終わりにしてやる! と、私はいつもより意気込んでダリオンの授業場所に向かった。


すると、そこで待っていたのは……。

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