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ルーナの冒険 白黒の世界  作者: 北野玄冬
42/176

42. 赤鳥の領域

いつの間にか、寝落ちしていたらしい。


気付くと窓から朝日が差し込んでいて、グリームはいるけど、リリアンはもうベッドにいなかった。


いま何時なんだろう?


気になるけど、リリアンの部屋を物色して時計を探すわけにはいかない。大きく伸びをして起き上がると、私はグリームと一緒に、アースが待つ部屋に戻った。すると、


「おはよう」


「おはようございます、お嬢様」


私を見て、アースがにこやかに挨拶を返してきた。


あれ? 顔は笑っているけど、目は少し怒っているようだ。

もしかして……。


おそるおそる時計を見ると、もう九時を過ぎている。


やばい、寝坊だ! 夜更かししたことがバレている⁉


「ご、ごめんなさい……」


「分かっているならいいのです」


びくびくしながら謝ると、アースはため息をついて目じりを下げた。


すごく怒っているわけではなかったようだ。よかった。


簡単に許してもらえて、私は安堵した。アースが本気で怒ったらどうなるのか分からないから、怖いんだよね。朝から心臓に悪い……。


まだ少しドキドキしながら、私はネグリジェからワンピースに着替えた。

それから部屋で、運ばれてきた朝食を食べて、


「今日、お母様が来るんだよね?」


「そうですよ。昼過ぎにいらっしゃる予定です」


「じゃあ午前中は自由ってこと?」


「ええ。ですが外には出ないでくださいね。女王様が到着次第、正装に着替えて、ガネット様のところへ伺いますから。リリアンに誘われてもダメですよ?」


「はーい」


ところで、リリアンはどこにいるんだろう?


私を起こさないで、置き去りにしたリリアン。なんで起こしてくれなかったのって、ひと言文句を言いたい。起きたらすぐ遊べると思って、楽しみにしていたのに。


私、置いてけぼりにされて、今ちょっと怒っているんだからね!


「グリーム、リリアンのにおい分かる?」


追跡してもらおうと思って、グリームにそう尋ねると、


「分からないけれど、彼女の居場所なら知っているわ。演奏室よ」


少し嫌そうな顔をして、グリームはそう答えた。


「演奏室? 何それ。なんで知っているの?」


「ルーナが起きたら伝えるよう、頼まれたからよ。四階の防音室のことらしいわ」


「え⁉ なんで頼まれたとき、私を起こしてくれなかったの?」


「起こしたわよ。だけど、ぐっすり眠っていて起きなかったじゃない。彼女はお兄さんとの朝食に遅れたくなくて、少し迷っていたけれど、諦めて出ていったわ」


「そうなんだ……」


諦めないで、無理にでも起こしてよって思う。


だけど、お兄さんが最優先なところはリリアンらしい。ユリウスとの約束があったなら、仕方ないかって気持ちにもなっちゃう。やっぱり不満ではあるけどね。


「でもなんで演奏室?」


「前に約束していたでしょう? ま、行けば分かることね」


聞くと、グリームはつんとした態度でそう答えた。


なんだか突き放すような言い方だ。

行けば分かるって、そのとおりだけど、なんで今日はそんなに不機嫌なの?


……まぁグリームがこうなるのは、別に珍しいことじゃないけど。


私とリリアンがすごーく仲よしだから、きっと嫉妬しているんだと思う。ライオネルと話していたときに不機嫌だったのも、多分そういうこと。私が他の人に構っていて、自分の出番がないから、退屈でつまらないんだよね。グリームったら、かーわいっ!


すごくすごく大好きだよーって気持ちを込めて、私はグリームの首回りの毛をわしゃわしゃした。迷惑そうな顔をされたけど、気にしなーい!


私はルンルン気分で演奏室に向かった。


階段を上って、上って、四階に着くと、かすかに楽器の音が聞こえてくる。

リリアンが演奏しているのかな?


音がする部屋に近付くと、私はドアに耳を当てた。間違いない、誰かが演奏しているのはこの部屋だ。そう確信してから、取っ手に手をかけ、そうっとドアを開けてみる。


大丈夫だよね? 勝手に開けても怒られないよね?


ちょっと不安だったけど、少し開けたドアの隙間から見えたのは、リリアンとユリウスの姿だった。知っている人でよかったぁ。二人を見るなり、私は安心した。


リリアンがピアノを、ユリウスがバイオリンを弾いている。


演奏に集中しているのか、私が来たことにはまだ気付いていないようだ。二人で息を合わせて、よく分からない曲を演奏し続けている。


音楽のことはぜんぜん詳しくないけど……すごい!


楽器に向き合って、音の連なりを奏でていく二人の姿は、とてもカッコよかった。

私もやりたい! ああなりたい!


「あ。ルーちゃん、おはよう!」


しばらくして演奏が終わると、振り向いたリリアンが私を見つけてほほ笑んだ。


「一緒に歌おう! お兄が伴奏してくれるから!」


「うん!」


私は喜んでリリアンのところに向かった。なんで起こしてくれなかったのとか、なんで置き去りにしたのとか、そういう不満はもうすっかり消え去っていた。


一緒に歌を歌ったり、ピアノの弾き方を教えてもらったりする。楽譜は難しくてちっとも読めなかったし、指が短いせいで、遠くの鍵盤が押しづらくて大変だったけど、ピアノを弾くのはとても楽しかった。


それから、ユリウスにバイオリンもやらせてもらったけど、こっちは弦を押さえながら弓を動かさなくちゃいけなくて、しかもギィーギィーって、さびた蝶番のドアが軋むような音しか出なくて、早々に諦めた。バイオリンは、きれいな音を出すだけでも大変みたい。弾けたらカッコいいけど、私にはまだ早かったのかな。


一生懸命に練習していると、時間はあっという間に過ぎていって、


「お嬢様。女王様が到着されましたよ」


「もうそんな時間⁉」


気付くと正午を過ぎていた。


もっと歌ったり弾いたりしていたかったけど、お母様を待たせるわけにはいかない。


「ルーちゃん、また後でね!」


「うん!」


仕方なくリリアンたちと別れて、私はアースと部屋に戻った。

正装に着替えて、馬車に乗り込んで、お母様が待つガネットの城へと向かう。


ところが、呼ばれていたのは私だけではなかったらくて、


「えっ」


ガネットの城へ行く馬車には、アースだけでなくグリームも乗り込んできた。そして城に着くと、別の馬車から降りるリリアンとユリウスの姿が見えて、すごく驚いた。


みんな呼ばれていたの? リリアンも?

意外だったけど、知り合いが多いというのは心強い。


それにリリアンったら、ウパーダーナの王の城なのに、お兄の正装カッコいいと目をハートにしてはしゃいでいて……。ほんとぶれなくて、さすがだと思う。緊張せず、いつもどおりでいられるところは尊敬する。私も見習いたい。


「我が領域へようこそ。歓迎いたします、女王様」


ガネットへの挨拶は、すぐに済んだ。


お母様と合流して、一緒にガネットのところへ行って、形式的に少ししゃべったらそれでおしまい。お母様の前だからか、今日のガネットは変人成分ひかえめな感じだった。


無難に挨拶を終えると、会議があるらしくて、お母様とガネット、アース、ユリウスは別の部屋に移動した。私とグリーム、リリアンは用事が済んだから、馬車で先にブラック邸へ戻った。あっという間だった。


帰りの道中、リリアンはうきうきとご機嫌で、


「ルーちゃん。家に帰って着替えたら、城下町に行きましょう」


「え?」


急に誘われて、私は返答に困った。


行きたいという気持ちはある。だけど、、行っていいのかな?


アースは、午前中は外に出ちゃダメだと言っていた。でもそれは、ガネットの城に行くという用事があったからで、用事が済んだ今なら、ダメと言われない気もする。


……どうなんだろう?


「アースに聞かないと分からないよ」


悩んだ末に、私はそう言った。


グリームがいるとはいえ、アースに無断で出かけるのはよくないと思う。バレたら本気で怒られそうだ。今回のこの訪問を、嫌な記憶にはしたくない。


「平気だよ!」


ところが、リリアンは少し得意げな感じで、


「ルーちゃんを城下町に連れていきますって、アース様に許可は取ってあるから!」


「え? そうなの?」


「うん。だって、ずっと家にいるのは退屈でしょう?」


うーん。リリアンと一緒なら、退屈はしないと思うけど……。それより、


「今日は会議だって、知っていたの?」


「もちろん。ルーちゃんは聞いてなかったの?」


「……」


いい加減にしてよね。


私は無言でうなずき、心の中でアースをなじった。


なんで私には情報共有してくれないの? 変だと思ったら、グリームとリリアンがガネットの城に来たのって、私の帰りの護衛のため? どうせあとで分かることなんだから、隠さないで、ちゃんと先に教えておいてよ! アースのバカ! 意地悪!


ブラック邸に到着すると、着替えたらエントランスに集合ねと約束して、私はぷんすかしながら部屋に向かった。これだから大人は嫌い!


でも借りている部屋に入ると、黒い影たち――アースが呼び出す顔のない人形たちが待っていて、どうやって着替えればいいんだろうってすごく悩んでいたから、アースありがとうってなった。


本当にリリアンは、事前にアースに話をしていたみたい。着替えを手伝ってくれた黒い人形は、最後にお小遣いまでくれて、私はアースに怒る気力が失せてしまった。


変わらず不満ではあるけどね。


私が出かけられるように準備までしてくれていたのに、なんで説明のひと言はいつもないんだろう。毎回ど忘れしているわけ?


なんだかなぁと思いながらエントランスに下りると、すでにリリアンが待っていて、


「ルーちゃん! 準備はバッチリ?」


「うん!」


「じゃあ行こう!」


まぁいいやと考えるのをやめて、私はリリアンと一緒に城下町に出かけた。


馬車に乗って町の中心まで行って、カラフルなお店をのぞきながらリリアンと並んで歩く。


ウパーダーナの城下町は、明るいオレンジの旗があちこちに飾られていて、行き交う人々の服も派手な暖色が多い。賑やかな声が響いていることも相まって、とても活気のある雰囲気だ。特に買いたいものがあって町に出たわけじゃないけど、


「わぁ……」


城下町にはかわいいものがたくさんあって、見ているとほしいものが次々と出てきた。


きらきらのブレスレット、鳥の羽のペンダント、ザクロ石のビーズ、チョウチョの形の髪留め……でも高くて、全部買いたいけどお金が足りない。


どれを買おうか悩みながら、あっちこっちに行ったり来たり、真剣に慎重に吟味して、


「これにしよう」

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