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ルーナの冒険 白黒の世界  作者: 北野玄冬
35/176

35. またいつか

「ルーナさん、起きているか?」


「んん……」


ドアをノックする音と、ジャッカルの声が聞こえてくる。

どうしたんだろう、と思って目を開けると、朝が来ていた。


室内も窓の外もすっかり明るくなっていて、いつもの見慣れた世界に戻っている。ゆっくり起き上がって目をこすると、私はドアのほうに向かった。


ジャッカルが起こしにくるなんて初めてだけど、何かあったのかな?


「どうしたの?」


ドアをちょっと開けて尋ねると、ジャッカルは私を見るなりビクッとした。


「悪い。起こしちまったか?」


「ううん、起きるところだったから大丈夫。おはよう」


「はよ。寝起きのとこ悪いんだけど、ちょっと食堂に来てくれないか?」


「? いいけど……」


なんで? 食堂で事件発生?


……あ、もしかしてリンゴが一つ少なくなっているのに気付いたとか? その犯人なら私だけど、好きに食べていいって言われているから、きっとそのことではないよね。


不思議に思っていると、ジャッカルは申し訳なさそうな顔をして、


「ルーナさんに教えてほしいことがあるんだ」


と言った。


「教えてほしいこと?」


何だろう? 私が教えられることって、そんなにないと思うんだけど……。


「分かった。ちょっと待ってね」


期待に応えられるかどうかはともかく、頼られて悪い気はしない。

いったん部屋に引っ込んで、私は《浄化せよ(クリーン)》で服と体をきれいにした。


そして鏡で自分の姿を確認して、髪の毛が爆発していることに気付いて、途端に恥ずかしくなった。だからさっき寝起きってばれたんだ……。私、油断しすぎっ。


「お待たせ」


急いで髪を整えて、もう一度ドアを開ける。


すると部屋の前で待っていたジャッカルは、


「早かったな」


にっと裏のなさそうな笑い方をして、食堂に向かって歩き出した。


朝の食堂には、思っていたよりたくさんの人がいた。ライオネル、ダクトベア、サレハさん、リッチさん、マーコール……。昨日も集まっていた面々が勢ぞろいしている。


大きな地図を真剣にのぞき込みながら、みんなで大人の話をしているようで、私は場違いなんじゃないかなって感じがする。いったい何を知りたくて私を呼んだんだろう?


「おはよう、ルーナ」


緊張していると、顔を上げたライオネルがそう言ってほほ笑んだ。


それだけでちょっと安心する。

悪いことはきっと何も起こらないって、なんとなくだけど信じられる。


「おはよう。教えてほしいことって何?」


ほっとして、ちょっと笑って用件を尋ねると、


「門が開く位置について、何か知らない?」


「……門が開く位置?」


私が椅子に座るのを待ってから、ライオネルは私がぜんぜん知らないことを聞いてきた。


まぁそうだよね。知らないことを尋ねてくるだろうなって、呼ばれたときから予想はしていた。でも、分かっていてもちょっと嫌な気分になる。


そんなの知っているわけないじゃん。

門がしょっちゅう開いているってことさえ、私は昨日、初めて知ったのに。


「ランダムじゃないの?」


そもそも、誰が門を開けているのか謎なんだよね。


管理されていない門の跡地があって、そこから白の領域に来ているなら、毎回同じ場所に出るはず。でもいろんな場所で門が開いているってことは、管理されていない門の跡地がたくさんあるか、門のつながる先を変えられる人がいるか、自力で自由に門を開けられる人がいるってことだ。


そんな話、私は聞いたことがないけれど。


「規則性があるみたいなんだ。ほら」


すっと立ち上がったライオネルが、地図の向きを変えながら話を続ける。


「ここがサンガ村、こっちがクシャラ村。門が開いた場所がバツ印で、見てのとおり明らかに偏っている。何か原因がありそうなんだけど、心当たりはない?」


「さぁ。偶然じゃないの?」


そう答えてから地図を見て、これって門の座標が少し狂っただけじゃないの、と私は思った。地図上のバツ印は、クシャラ村の周辺と、その他二つの地域に固まっていた。


管理されていない門の跡地が三つあって、そこを利用した人たちが、その周辺に現れているのかもしれない。


だけど余計なことを言って、サレハさんに悪魔認定されたくないから黙っておく。

シャックスいわく、沈黙は金らしいから。ところで、


「どうして門の位置を知りたいの?」


少し気になって聞いてみたら、


「悪魔がやって来られないように、あらかじめ門をつぶしておきたいんだ」


「……え、どうやって?」


びっくり仰天な答えが返ってきた。


門をつぶすって、そんなことできるの?

壊せないものだから、跡地として管理されているんだと思っていた。


そういえば白の領域では、門の跡地ってどうなっているんだろう? 放置されているのかな? それで悪魔が来放題になっているとか?


「悪魔が現れるとき、その前触れとして黒い門が現れるんだ」


考えていると、はっきりゆっくりした口調でライオネルが言った。


「開かれる前に門をつぶせば、悪魔は現れない。悪魔の居場所を探せたように、ルーナなら門の場所も探せるんじゃないかと思ったんだけど……」


「あ、そういうこと?」


なーんだ。《在り処を示せ(サーチ)》してほしいって話ね。

それならそうと先に言ってよ。


びっくりした。探りを入れているのかなとか、門をつぶせるくらいの実力を隠しているのかなとかいろいろ考えて、余計に警戒しちゃったじゃん。まぁでも……。


「探せなくはないけど、見つけてもあんまり意味がないと思うよ」


「どうして?」


「だって門が現れるのって、悪魔が出てくる直前でしょ? 《在り処を示せ(サーチ)》で開く前の門を見つけても、その門に着く頃には悪魔が出てきちゃっているよ」


当たり前のことを言ったつもりだったんだけど、私がしゃべり終えると、食堂には妙な沈黙が下りていた。


え? 何、どういうこと?


わけが分からなくて、失言したのかと不安になる。でもグリームを見ると、無表情で傍観しているから、致命的な間違いはしていないってことだ。


よかった。だけどそれなら、この空気はなんなの?


「悪魔がこっちに出てくるのは、門が出現してからおよそ三日後だ」


困惑していると、やがて重々しい雰囲気でダクトベアが口を開いた。


「だから門の場所が分かれば、悪魔の襲撃を防げるんだよ。そりゃタイミングによっては、手遅れだったり、悪魔と鉢合わせたりすることもあるが、現れてすぐ門が開いたって話は聞いたことがねぇ」


「そうなの?」


知らなかった。

門の跡地を使うと、領域をつなげるのにかなり時間がかかるらしい。


「それで門を探したいんだ。でも門をつぶしたって、あとで別の門が開かれるだけで、あんまり意味がないよね? 永遠に終わらなさそう」


「門は無限にあるってことか?」


「え? えっと……」


聞かれて、戸惑った。

白の領域の人ってもしかして、門の開き方を知らないの?


……まさかまさかだ。

これ、答えてもいいの?


対応に困って、私はグリームを見た。

するとグリームは、うなずくか首を振るかだと思っていたんだけど、


「門には二種類あるのよ」


おもむろに口を開き、仕方ないというふうにしゃべり出した。


なんで? 突然のことに、私も他のみんなもびっくりした。


「オオカミがしゃべった⁉」


特に近くにいたジャッカルは、大袈裟なくらい仰け反ってグリームから離れている。

そんなに怖がらなくたっていいのにね。それにしても、急にどうしたんだろう?


白の領域の人の前では絶対にしゃべりたくないって感じだったのに、なんでいきなり心変わりしたのか不思議だ。私がまずいことを言いそうだったから、自分で話すことにしたのかな? グリームが話すことなら間違いないから、ありがたいけど。


「二種類あるとは?」


「入り口と出口で、門は別物なのよ」


ライオネルが怪訝な顔をして問いかけ、グリームが面倒くさそうに答える。


「白の領域に現れた出口をいくら壊しても、黒の領域にある入り口を壊さない限り、門は開き続ける。要するに、あなたたちのしていることは応急処置。根本的な解決にはいたらないことなのよ。白の領域にも、黒の領域への入り口となる門が存在しているでしょう?」


「知らないな」


「あら、そんなことも知らないで悪魔退治をしていたの? 間抜けなのね」


「お前は何者だ?」


一瞬で、二人はすごく険悪な雰囲気になった。


……なんで? ライオネルはあからさまに警戒しているし、グリームは何が気に入らないのか挑発しているし、互いに仲よくするつもりはなさそうだ。


すごく困るんだけど……。

こんなところで争ったりしないでよね?


「それが事実だとして、なぜそれを俺たちに教える?」


「知られて困ることではないからよ。あまりにも常識が欠けているようだから、哀れに思って教えてあげたの。それと、出口を壊しても一時しのぎにしかならないからと言って、入り口を壊そうなんてバカなことは考えないでちょうだいね。門の破壊は不可能だから」


「やってみなければ分からないだろう」


「バカね。バカ丸出しね。門を作ったのが誰なのか知らないの?」


「壁の創造神だろう?」


「あら、それは知っているのね。なのに破壊は不可能だと分からないの?」


「神の創造物であっても、出口の門は壊せる」


「……はぁ。入り口と出口で門は別物だと、最初に言ったと思うのだけど。聞いていなかったのかしら? もう忘れてしまうなんて、随分と残念な頭をしているのね」


「ちょっと、グリーム!」


聞いていられない。


どんどん嫌な気持ちになっていって、耐え切れず私はグリームの名前を呼んだ。そうして軽くにらみつけると、グリームは自分は悪くないとばかりにフンとそっぽを向いた。


おかしい。こんなにも攻撃的になるなんて、グリームらしくない。

いったいどうしちゃったの?

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