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ルーナの冒険 白黒の世界  作者: 北野玄冬
33/176

33. またいつか

「いきなりキスしてごめん」


「……あ、うん」


とりあえず謝っておくと、ライオネルはうろたえたような反応をした。


気まずそうに視線を逸らして、じっと黙り込んでしまう。

なんだかそわそわしているようで、落ち着きがない。


ウインド子爵と戦っていたときは頼もしい感じだったのに、まるで別人のようだ。

どうしたんだろう?


心配しつつ、祝福のことを説明しようとしたら、


「すげぇ威力だったな」


私が口を開く前にジャッカルがそばに来て、ライオネルに声をかけた。


「パワーアップしてんじゃん。俺がいない間に何かあったのか?」


「いや、変わりないよ」


ほっとした表情のライオネルが、ゆっくりと首を振る。そして、


「急になんでもできそうな感覚になって、やってみたら本当にできたんだ。多分……」


しゃべりながら、うかがうような視線を私のほうへ向けてくる。


キスとの因果関係をすでに察しているみたいだ。まぁ普通は分かるよね。

肯定するために、私はうなずいた。


「うん、祝福のせいだよ」


「祝福?」


「そう呼ばれているの。私がキスすると、一時的に魔力が跳ね上がるんだって」


「そういう魔法なのか?」


腕を組んだダクトベアが口を挟み、怪訝そうに聞いてくる。


「魔力を分け与える魔法が存在しているのは知っているが……」


「ううん、祝福と魔法はちがうよ。だって私がキスするんじゃなくて、キスされても同じことが起きるもん。祝福のときに魔法を使っている感覚はないし」


「そういう特異体質なのか?」


「知らない。でも、私以外の人が祝福できるって話は聞いたことないかも」


「祝福のデメリットは?」


「さぁ。知らない」


矢継ぎ早に質問が飛んできたけど、私の知らないことばかり。


ちょっと申し訳なってくる。

ごめんね。祝福についてすごく興味があるみたいだけど、キスした相手が強くなるってことしか、私は知らないんだ。


そもそもこれまで、三柱に頼まれたときにしか祝福したことなかったし。祝福にデメリットがあるとしたら、キスするのがちょっと恥ずかしいってことだと思う。


「祝福のあとに疲労感はないのか?」


「ないよ」


「一度に複数人を祝福しても?」


「それは知らない。やったことないから」


そう答えて、ちょっと考えてから私は聞いた。


「ダクトベアも祝福してみようか?」


「……いや、しなくていい」


すごく迷っている様子だったけど、ダクトベアはやがて首を横に振った。

まぁいま強くなっても、敵がいないんじゃ力を持て余すだけだからね。


「祝福するには、キスしか方法がないのか? たとえば手を握るとか、祝福の魔法をかけるとか、他に方法はないのか?」


「どうだろう。試したことはないけど、無理だと思う」


手を握って祝福できるんだったら、それは握手をするたびに相手を強くしちゃうってことだから、さすがにないと思う。


祝福の魔法っていうのは、もしかしたら存在しているかもしれないけど、キスで済むものをわざわざ魔法にするっておかしな話だ。魔法を練習するの面倒くさいし。


「そうか」


何か考えるようにつぶやくと、ダクトベアはちょっとだけ顔のシワをなくして、


「質問攻めにしてわりぃな」


「ううん、気にしていないよ。分かんないことばっかりでごめんね」


もうちょっと勉強しておけばよかったかな……。


それから私たちは、離れたところで待っていたグリームと合流して、みんなで一緒に拠点へ戻った。


歩きながらライオネルたちは、なんであんな強い悪魔がいたんだろうとか、祝福されて体は大丈夫なのかとか、まじめな大人の話をしていた。


私は仲間外れだけど、難しい話に参加したいとは思わないから構わない。でも、やっぱり大人と子供はちがうんだなってひしひしと感じて、ちょっとだけ悲しくなる。


あーあ。

同じ姿になれば、ライオネルたちとまた遊べると思っていたのになぁ。


大人になったライオネルたちは、悪魔退治の仕事に忙しくて、もう子供のときのような余裕を持っていない。今の私とはぜんぜんちがう。


見た目だけを寄せても、同じようにはなれないのだと、ようやく分かった。


残念だけど、大人のライオネルたちとは、もう遊べないのだ。

十一年前には戻れない。……はぁ。


失意に沈みながら、私は黙々とライオネルたちについて歩いた。


そして拠点に戻って、食堂に足を踏み入れると、


「おかえりなさい」


「随分ゆっくりだったねぇ」


「遅いよ」


そこにサレハさん、リッチさん、マーコールがいて、すごく驚いた。


なんでいるの?


特にマーコールは、初日に会って以来、見かけることも気配を感じることもまったくなかったから、まだ拠点にいたということにびっくりだ。


「すまない。森で上級悪魔に遭遇したんだ」


そう謝りながら、ライオネルが当然のようにテーブルに着く。ダクトベアも無言でその隣に座る。この屋敷に三人がいることを、ライオネルたちは知っていたらしい。


サレハさんたちが、ライオネルの言葉に反応して空気がちょっとひりつき、


「上級悪魔ですか? この近くに?」


「ああ。他にも悪魔がいて……」


まじめな話をする雰囲気になっていたから、私はそぅっと静かに後退って、借りている部屋に引っ込むことにした。


邪魔しちゃいけないよね。聞いていても多分つまんないし。


「もう帰ろうかな」


部屋で二人きりになると、私はグリームを撫でながら話しかけた。


ライオネルに会えたし、話せたし、ついでにもう遊べる相手じゃないって分かったし、今回の冒険はこれで充分だ。それに……。


「こんなに日が経っても三柱が連れ戻しにこないって、さすがにおかしいよね。どうしたんだろう? 城で何か、事件でも起きているのかな」


「どうでしょうね」


ぜんぜん現れない、アースたちのことが気になる。


別にアースたちが来るのを待っていたわけではないんだけど、普通は一日か二日で連れ戻しにくるから、こうも長いこと音沙汰がないと、どうしたんだろうって心配になる。


「ルーナの好きにするといいわ」


ゆらゆら尻尾を振りながら、グリームは穏やかにしゃべった。


「三柱が心配で城に戻ったと言えば、シャックスあたりは泣いて喜びそうね」


「そうなの?」


まっさかぁ。


あり得ない。いっつも無表情で、嫌だなぁって感情以外はあんまり表に出さないシャックスが、それくらいのことで泣いて喜ぶわけないじゃん。


涙もろいザガンだったら、うっかり泣いちゃうかもしれないけど。


「ていうかグリーム、もしかして、なんで三柱が追いかけてこないのか知っている?」


「知らないわ」


つんと顔を背け、グリームはぼそっとつぶやいた。


「想像はつくけれど」


「出た! またそれだ!」


根拠がないから話さないってやつだ! いじわるだ!

グリームの想像は、毎回ほぼ当たっているのに!


「想像でいいから教えてよ!」


「そうねぇ。少しは自分で考えてみたら?」


「考えてみたよ! 何か忙しいことがあって、私のことを追いかけるどころじゃないのかなって。だけどグリームは、それ以外にも思い当たることがあるんでしょ?」


「そうね」


「教えてよ。次に考えるときの参考にするから!」


「そうねぇ」


ふわぁと大きなあくびをして、グリームは眠たそうにまばたきした。


まさかもう寝るとか言わないよね? 続きは明日、とか言わないよね?


どきどきしながらじっとグリームの挙動を見守っていると、やがてグリームはうとうとするような顔つきで、ゆっくりと口を開いた。


「女王様が三柱を引き留めているか、シャド・アーヤタナにいないか、そのどちらかでしょうね。城で何か問題が起こっている可能性は低いと思うわ」


「えっ?」


なんでそういう思考になるのか、理解できない。


お母様が三柱を引き留めているっていうのは、なくはないことだと思う。

でも、お母様がシャド・アーヤタナにいないっていうのは……、どういうこと?


それはハテナだ。ビック・クエスチョンだ。


まぁ可能性はゼロじゃないと思うけど、お母様がシャド・アーヤタナを離れるのはすごく珍しいことで、私に何も言わずいなくなったことなんて、今まで一度もない。


「お母様が城にいないって、それはさすがにあり得なくない?」


「どうかしらね」


またあくびをすると、グリームはもう耐えきれないというふうに丸くなった。


「おやすみなさい。私はもう疲れたわ」


「え、ちょっと……」


逃げないでよ! 話すなら私の疑問にちゃんと答えてよ!


消化不良で、すごく不満だったけど、グリームは本当に疲れているようで、丸くなるとすぐさま目を閉じてしまった。でも思い返してみると、今日は王都に行って、商売して、サンガ村に戻って、ライオネルに会って、悪魔に遭遇して……。


本当にいろいろあったから、疲れちゃうのは仕方のないことかもしれない。


実のところ、私もちょっと疲れている。


話の続きをするのは、お昼寝が終わってからでもいっか。

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