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ルーナの冒険 白黒の世界  作者: 北野玄冬
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31. 悪魔との戦い

フクロウ人間と争っている音が、拠点の庭まで届いていたらしい。


武器を持ったダクトベアとジャッカルが、張り詰めた空気をまといながら私たちのそばにやって来た。さっと警戒するようにあたりを見回して、武器を握る手に力を込めている。


「悪魔に遭遇したんだ。今のところなんともないよ」


緊張する二人を落ち着かせるように、ライオネルがゆっくりしゃべった。


「倒した悪魔の仲間が、こちらに近付いているようだけどね」


「は? なんで分かるんだ?」


突っかかるような声を出して、ダクトベアが怪訝な顔をする。

ライオネルは困ったようにちょっと笑うと、それまでと変わらない口調で、


「ルーナに悪魔を探してもらったんだ」


「は? ……なんだ、これ」


眉をひそめたダクトベアが、私の前に表示された《在り処を示せ(サーチ)》の結果を見て、いっそう怪訝そうに顔をしかめた。


え? 見て分からないの?

もしかしてみんな、《在り処を示せ(サーチ)》を知らない?


「光が動いている?」


「悪魔の反応だよ」


うーん?

おかしいな。本当に知らないような反応だ。


在り処を示せ(サーチ)》って、私でも使える簡単な魔法のはずなんだけど……。


もしかして私、ライオネルたちよりすごい?


「これがグリームで、ほら、他の二つがこっちに近付いてきている」


「どういうカラクリだ? 縮尺は?」


「……えーっと、分かんない」


ライオネルたちが知らない魔法を知っていることに、ちょっと優越感を覚えていたら、次の瞬間、知らないことを聞かれて私は困った。


難しい質問はしないでほしい。

できる、イコール、仕組みを理解している、とは限らないのだから。


「これは《在り処を示せ(サーチ)》って魔法。近くに黒の領域の人がいるかなぁって、魔力を薄く広く伸ばしたら、こういう結果が表示されたの。探す範囲を狭くしたり、広くしたりもできるけど、シュクシャクのことは分かんない。一キロ圏内の反応だってことは分かるけど」


魔法のカラクリなんて、考えたことがない。

難しい話は苦手だ。


表示された反応が一キロ圏内にあるかどうかだけは、シャックスと特訓して分かるようになったんだけどね。教えてもらったとき、距離感があまりにも分からなすぎて、このままじゃ危険な相手の位置を割り出しても、ちっとも役に立たないってなったから。


「点の色がちがうのはなんでだ?」


顔にシワを寄せたまま、ダクトベアがまた質問してくる。


「魔力の大きさがちがうからだよ。白が一番弱くて、すごく強いと真っ赤になる」


「黒い表示は?」


「計測不能ってこと。グリームは特殊なの。この星の生物の体を借りている、普通じゃない生き物らしいよ。そのせいじゃない? よく分からないけど」


「はぁ? お前、わけわかんねぇ生き物と一緒にいるのかよ」


信じられないような顔をして、ダクトベアはあきれ果てたように言った。


「危機感のねぇ奴だな」


「そんなことないもん。グリームはぜんぜん危険じゃないもん!」


失礼な人!

グリームに謎が多いっていうのは事実だけどっ。


三柱と同じくらい強くて、城の使用人じゃないのにお母様の城で暮らしていて、たまにお母様と言い争いをしているグリームは、自称、この星の外から来た高級な生命体だ。


それが本当か嘘かは分からない。

でもお母様が受け入れている時点で、危険な生き物ではないってことだから、謎が多くてもあんまり気にしていない。私の味方だって分かっているなら、それでいいんだよ。


「なあ。この気配、上級悪魔じゃないか?」


むっとしてダクトベアをにらんでいると、落ち着きなくきょろきょろしていたジャッカルが、ふと遠くの一点を見つめて緊張のにじんだ声を出した。


誰かがやって来る方向。

へえ。《在り処を示せ(サーチ)》しなくても、近付いてくる気配が分かるんだ。


「オレンジが上級悪魔ってことか?」

 

ちらっとジャッカルを見てから、ダクトベアがさらに聞いてくる。


「うーん? 上級、中級、下級って分けるなら、オレンジは中級だと思うけど」


「……そうか。上には上がいるのか」


暗い表情でつぶやくと、ダクトベアは《在り処を示せ(サーチ)》の結果から目を離した。


そしてライオネルと目で何か合図をすると、緊張していますって感じでクロスボウを構えて、誰かがやって来るほうを向く。


「離れていて」


少しピリピリした雰囲気で、ライオネルが私にそう言った。


「巻き込みたくないんだ。できれば先に、拠点に戻っていてほしい」


「えっ」


思いがけず心配されて、私は驚いた。


確かに私は弱いけど、グリームがいるからまったく問題はなくて、心配なのはむしろライオネルたちのほうなんだけど……。


それを言ったら失礼だよね。困ってグリームのほうを見ると、


「ウォン!」


あれ? 思っていた反応とちがう。

どうやらグリームは、早くここから立ち去りたいようだ。


ライオネルの言葉を肯定するように吠えると、ついてきなさい、と言うように尻尾を振って、拠点のほうへ歩き出す。面倒ごとはごめんだってこと? ええっ……。


それはちょっと薄情なんじゃない?


「これはこれは」


嫌だなぁと思って、動くのを渋っていたら、急に知らない声がした。


こっちに向かって動いていた誰かが、ついにここまでやって来たらしい。

ぱっと振り向くと、そこには奇妙な二人組がいた。


片方は焦げ茶色のタキシードを着た普通の人間っぽい人で、黒々としたステッキをついている。もう片方は空中でホバリングしている小柄なハエ人間で、充血したように真っ赤な目と、背中に生えた茶色っぽい透明な翅が特徴的だ。


またキメラ人間。しかもすごく変な組み合わせ。


「まさか本当にいらっしゃるとは」


え? もしかして、私のことを見ている?


なんでこんなにウパーダーナの人が多いんだろう、と思って眺めていたら、タキシードの人が私を見てしゃべったような気がした。


でも知らない人だ。黒の領域で《在り処を示せ(サーチ)》して、オレンジで表示されるのはナユタとかシュピくらいだし、ウパーダーナの偉い人がオレンジ表示なわけないし。


「何をしに来た」


考えていると、ライオネルが怖い声でそう問いかけた。


フクロウ人間のときとはちがって、余裕がないのかなって感じだ。

ほら、やっぱり見ておかないと危険なんじゃん!


なんで見捨てようとしたの、とグリームに目で問いかけると、


「……」


知らんぷりしてそっぽを向いて、グリームは地面のにおいを嗅ぎ始めた。

ちょっと! 無視しないでよ、もうっ。


「うぬらに用はない」


グリームをにらんでいると、タキシードの人がステッキを取り出し、地面を軽く突いた。


殺る気満々って感じの雰囲気だ。

別に戦う必要はないと思うんだけど、戦うのが好きな人なのかな?


嬉々とした表情で、タキシードの人がタクトのようにステッキを振ると、


「脆弱な小ネズミたちよ。わが命の糧となれることを喜びなさい!」


次の瞬間、一陣の風が吹いた。


森がざわめき、鳥たちがいっせいに飛び立ち、木の葉が舞い上がる。

ライオネルたちはよりいっそう警戒を強め、タキシードの人たちを注視した。


と、タキシードの人のそばにいたハエ人間が、


「ブブブ~」


「任せろ!」


上機嫌に動き出し、その場から離れようとしているのを見て、すかさずジャッカルが追いかけた。ちょっと気になるけど、まぁそっちは黄色だから大丈夫だよね。


ダクトベアが迷うようなそぶりを見せていたけれど、結局、ハエ人間のことはジャッカル一人に任せるみたい。ハエ人間が遠くに行くと、タキシードの人はまたステッキを振り、


「《風よ、荒れ狂え(ストーム)》! 《木の葉よ、敵を斬れ(カッター)》!」


私にとって、馴染みのある魔法を使った。


風が激しさを増し、地面を離れた木の葉が鋭利な輝きを放つ。

ひと目見てまずいと悟ったのか、


「《守りたまえ(シールド)》!」


ライオネルは魔法で、防御の構えを取った。


凶器と化した木の葉が、風に乗って森のあちこちを駆け巡り、木の枝を落としたり、木の幹を傷付けたりしている。


私のほうにも飛んでくるのが見えて、痛い! と、反射的に目をつぶった。

ところが、痛みを覚悟していたのに、いつまで経っても痛くならない。


あれ? どうして?


不思議に思って目を開けると、目の前にグリームがいて、魔法で守ってくれている。

さすがグリーム! 頼りになるね!


「ありがとう!」


「ウォン!」


お礼を言うと、グリームが吠えた。


どういたしまして、の返事じゃなくて、さっさと避難しなさいっていう催促だ。

振り向いて、面倒そうな顔をしながら私の体を押してくる。


はい、はい。もっと下がればいいのね。

本当に危なそうだし、言われたとおりにいたしますよ。


「まずい相手に見つかったわね」


風がビュウビュウ吹いている危険なところから離れると、グリームが危機感をにじませた声でそうつぶやいた。どうやら、タキシードの人に心当たりがあるらしい。


「知り合いなの?」

「いいえ。知り合いではないし、彼は私のことは知らないと思うわ。でもルーナのことは、間違いなく知っているはず。七空(しちくう)子爵って分かるかしら?」


「聞いたことはあるよ」


昔、アースの授業のテストに出てきた気がする。

よその黒の領域の、そこそこ強い人たちをまとめた呼び方のことだ。


九糖衆(くとうしゅう)とかクロストリニティとか、よその領域ではおしゃれな呼び名をつけられた集団がいくつかあるんだよね。


「あんまりよく覚えていないけど」


「そう。七空子爵というのは、ガネットの領域にいる七人の子爵階級の貴族のことよ」


戦闘が始まって、またたき始めた白い光を嫌そうに見つめながらグリームが言った。


「あれはそのうちの一人、ウインド子爵。見てのとおり、暴風を巻き起こす魔法使いとして知られている人よ」


「強いの?」


「強いわ。もちろんダリオンに比べたら弱いけれど、彼らにとってはかなりの強敵」


「白魔法があっても?」


「ええ。ウインド子爵なら黒魔法で対抗できるもの」


「あ、やっぱり逆もあるんだ」


そうじゃないかとは思っていた。


白の領域の人だけが、黒の領域の人間を消せる魔法が使えるって不公平だから。

でも、そうなると……。


「ライオネルたち、まずいんじゃないの?」


「そうね。このままだと、彼らはおそらく負けるわ」

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