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ルーナの冒険 白黒の世界  作者: 北野玄冬
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21. サンガ村

「マーコール、この人はボスの客人だから」


叫びながら走ってきたジャッカルが、到着するなり私とマーコールというらしい人の間に割って入って、焦ったような早口でそう言った。


「手出ししないでくれよ」


「ふぅん」


どういうこと?


状況がさっぱり分からなくて、黙って二人を交互に見比べていると、つまらなそうな返事をしたマーコールが、後ろ手で客室のドアをバタンと閉めた。


それから、じろりとジャッカルをにらんで、


「あなた、僕が手を出すと思って飛んできたの?」


「いや、そういうわけじゃ……」


言い訳するように、ジャッカルはしどろもどろに答えた。


「お前、気に入らない相手にはすぐ手を上げるから……」


なぜか手に汗をかいている?

……変なの。


知り合いのようだけど、ジャッカルはなんだかすごく緊張している様子。

どういう関係の人なんだろう? 疑問に思っていると、


「ま、いいや」


そのうちマーコールはくるりと背を向けて、興味を失ったかのように去っていった。


……うーん? ちょっと変わった人なのかも?


「危なかったな」


マーコールの後ろ姿が廊下の角の向こうに消えると、ジャッカルが振り向いて、ほっとしたような笑顔を見せた。


「さっきの奴はマーコールっていう、仕事の関係者なんだ。でも血の気が多くて、すぐ手が出る奴だから、あんま近付かないほうがいいぜ」


「そうなんだ」


あ、助けてくれたんだ。なんか意外。

確かにちょっと怖い雰囲気の人だったから、注意しておこう。


ライオネルに紹介された場所だからって、少し油断していたけど、過信するのはよくないね。ここには危険な人も泊まっているようだから。


うっかり遭遇しないように、気を引き締めて探検しないと。


「ところでルーナさん、すごい田舎の出身らしいけど、こっちには何しに来たんだ?」


「え?」


よーし!


と、気合を入れなおして、探検を再開しようとしたら、歩き出す前にジャッカルにそう尋ねられた。え、何しに来たって……。


「元気かなって、友達を探しに来たの。挨拶もしないで別れることになっちゃったから」


「それってライオネルのことだよな?」


「うん」


うなずいて、それから私は物分かりのいいふりをした。


「でも忙しそうだから、会えただけで満足だよ」


「もう帰るのか?」


そしたら、ジャッカルが急に真剣な面持ちになった。

……なんで?


「うーん。今すぐではないけど、今日中には帰ろうと思う」


「そうなのか……。もう少し泊まっていけないのか?」


「どうして?」


まさか引き留められるとは思っていなくて、私は面食らった。


ライオネルは仕事があるんだよね?

大人の仕事は、邪魔しちゃいけないんじゃないの?


「実は、ライオネルの奴もルーナさんを探していたんだ」


頭にいっぱいハテナを浮かべていると、少し気まずそうにジャッカルが言った。


「アイツがここに戻ってきて、ルーナさんがもう帰ったって知ったら、すげぇがっかりすると思うんだ。忙しい奴で、あと二、三日は帰ってこられないと思うんだけど、できたら待っていてくれないか? もちろん時間があればの話だけど」


「時間は問題ないけど……」


ライオネルも私を探していた? それは喜んでいいこと?


嬉しいようで、よく分からなくて、確認するためにグリームを見る。

すると目が合う前に、あからさまに顔を背けられた。


何その反応! しゃべりたくないってこと!?


「時間以外に、何か問題があるのか?」


「うーん……」


問題はある。大有りだ。

ダリオンたちが、いつ追いかけてくるか分からない。


私が白の領域へ行ったことは、もう間違いなく気付いているはずで、遠からず連れ戻しにやって来るだろう。二、三日もここにいられる気がしない。


でも、それを言うわけにはいかないから……。


「お金がないのに、このまま泊めてもらうのは申し訳ないから……」


「ああ、それなら問題ないぜ」


心配無用だというように、ジャッカルはからりと笑った。


「この建物はライオネルが所有しているんだ。俺やマーコールもタダで泊まらせてもらっているし、待たせる相手に金を請求したりしないって」


「……少し考えてもいい?」


そうなんだ。それなら、別の言い訳を考えないと……。


「もちろん。ところで、今日の予定は決まっているのか?」


どぎまぎしていると、ジャッカルが笑いながら探りを入れてきた。


「一応、お客様をもてなすよう言いつかっているんだけど」


「決まっていないよ。とりあえず、この建物のどこに何があるのか確認しようって思っていただけ。昨日説明してもらったけど、あんまり覚えていなくって」


「そっか。まぁすぐに覚えられると思うぜ、簡単なつくりだから。案内しようか?」


「えっ……。じゃあ、お願い」


本音を言えば、ひとりで探検したいんだけど。


断ったら、もっと怪しまれるかもしれないと思って、私はジャッカルに案内を頼んだ。


マーコールもそうだけど、ジャッカルにも気を付けないといけない。

よく笑うジャッカルだけど、たまに目つきが鋭くなって、私のことを疑っているんだなって感じがする。笑いながら怒るアースとおんなじだ。笑顔に騙されちゃいけない。


拠点の入り口に向かって、並んで歩きながら、


「ねえ。ジャッカルってクシャラ村にいた子供だよね?」


「そうだぜ。覚えていた?」


「うん、名前を聞いて思い出した。こっちに移り住んだの?」


「ああ。黒の領域につながる門が開いたらしくて、クシャラ村は廃棄されたからな」


「廃棄?」


尋ねてみたら、そんな返答をされてびっくりした。

確かに、この前のクシャラ村には誰もいなくて、おかしいなと思ったけど……。


捨てられたからだったの? 黒の領域につながる門が開いただけで?

え、どうして? 白の領域の人間は、何を考えているの?


「立ち入り禁止区域に指定されて、俺たちは村から追い出されたんだ」


少し悲しそうな様子で、ジャッカルは話を続けた。


「お偉いさんが来て調査した結果、それっぽいものは見つかんなかったみたいだけど、今でも規制はそのまんま。俺はあの村に特別な思い入れがあったわけじゃないから、そんな気にしてないけど、長年あの村に住んでいた年寄りたちは、今でも帰りたいってたまに嘆いているよ。ま、もうほとんどこの世の人間じゃないけどな」


「そうなんだ」


ちょっと悪いことをした気分になる。

白の領域の人間が、門にそんな過剰反応をするなんて知らなかった。


でも門の痕跡を見つけられていないってことは、黒の領域に移動する瞬間を目撃されたり、私が門を開けてやって来た黒の領域の人間だってバレたりしない限りは、大丈夫ってことだよね。うん、気を付けていれば問題なし。


と、楽観的に考えながら歩いていると、不意にお腹が鳴った。


昨日、何も食べないで寝てしまったせいだ。

今日のご飯、どうしよう……。


「飯にするか」


いったん帰るか、森で調達するか迷っていると、ジャッカルが軽く笑って、拠点の出入り口を素通りした。そうして、食堂だと教えてもらった部屋に入っていく。


そこは食堂というか、食事するところと料理するところが同じ部屋の中にある、ダイニングキッチンみたいな部屋だ。手前の右側に調理台があって、空間のほとんどを大きな四角いテーブルが占領している。テーブルの上には、籠に入った果物が置かれている。


「ほい」


ここに何の用があるんだろう?

疑問に思いながら、黙ってついていくと、赤くて丸い果物を渡された。


「もらっていいの?」


「もちろん」


聞くと、当然のようなうなずきが返ってくる。ラッキー!


遠慮なくもらって、その果物をかじると、酸っぱいリンゴの味がした。

人間だけじゃなくて、リンゴも黒の領域とはちがうみたい。


でも、朝に果物を食べるのはおんなじだ。小さいリンゴは切らないで、丸ごとかじっちゃうのもおんなじ。同じだったりちがっていたり、面白いなぁ。


お腹を満たすと、改めてジャッカルに建物の中を案内してもらって、ついでに村の案内もしてもらうことになった。


去年サレハさんと見て回ったから、大体は知っているつもりだけど、大人の私は初めてこの村に来た設定だから、知らないふりをしないといけない。


「ライオネルたちって、どんな仕事をしているの?」


「んっ!?」


でも知っているふりをするのは退屈で、話が途切れたタイミングで、私は自分の知りたいことを尋ねてみることにした。


するとジャッカルはぴくっと肩を揺らして、むせるように咳き込み始めた。


うーん? そんなに驚くことじゃないと思うんだけど……。


「それは本人から直接聞いてくれないか?」


「どうして?」


「本音と建前があるっていうか……。まぁ表面的には、黒の領域から攻め込んできて、取り残された悪魔たちを駆除しているんだけど」


私の顔色をうかがうように、ジャッカルがちらちらと視線を向けてくる。


「それよりルーナさんは、今まで何していたんだ? もう少し泊まってほしいって言っといてなんだけど、仕事は大丈夫なのか?」


「あ、えっと、休みをもらっているから大丈夫」


聞かれて、思わずぎくっとした。


そうだ、大人は仕事をしているものなんだ。答えを用意していなくて、心臓がバクバクするのを感じながら、私はなんとか取り乱さないでしゃべった。


「特に何事もなく過ごしていたよ。仕事って言っても、他の大人たちの手伝いだし。相変わらず同い年の人はいなくて退屈。ジャッカルたちは、これまで何をしていたの?」

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