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ルーナの冒険 白黒の世界  作者: 北野玄冬
104/176

104. 緊急会議

「それで、どうして床で寝ていたの?」


他の人に見つかったら大変だから、とりあえず魔法で大人の姿になる。


それから、まだ答えをもらっていない質問を繰り返すと、


「知らないよ」


ゆっくり立ち上がって、マーコールはどうでもよさそうに答えを返してきた。


え、知らない?


最初とあんまり変わらない答えに、私は少し驚いた。


知らないうちにここで寝ていたの? 起きたらこの部屋だったの?


そんなことある?


ていうかそれ、すごく怖い状況だね。

寝ているうちに別の場所に移動させられているなんて……。


誰が? なんのために?


妙なことになっているなって、頭をひねっていると、


「ついて来な」


部屋のドアを開けながら、マーコールが声をかけてきた。


「ボスたちが待っている」


「え? ……あ、うん」


突然そう言われて、私はちょっと戸惑った。


でもそういえば私は、私に聞きたいことがあるからって理由でマーコール邸に案内されていたんだよね。話を聞くために、ライオネルたちが待っていてもおかしくはない。


だけど、すごく意外で不思議なこともある。


マーコールって、私のことを呼びにきていたんだ?

そんなシュピみたいな使いっ走り、すぐさま拒否しそうな人なのにね。


あの中で一番年下だから? 一番背が低いから?

変なの。


違和感を抱きながら、私はすたすた歩いていくマーコールを追いかけた。


ほんとよく分かんない人。

ま、秘密を守ってくれるならなんだっていいけど。



   * * *



ところで、私はひとつ、忘れかけていたことがある。


とても重要なこと。

それなのに、なんで忘れていたんだろう?


私がそれを思い出したのは、ライオネルの声を聞いてからのことだった。


部屋を出たマーコールが、無言で階段を下り、静かな通路を歩いていく。

そして、とある部屋の前で立ち止まると、躊躇なくそのドアを開け、


「エリアス。どこに行っていたんだ?」


直後、部屋の中から怪訝そうなライオネルの声が聞こえてくる。


……どうしよう!


その声を聞いた途端、私は動揺して、まずいよまずいよってすごく焦った。


ライオネルがいる! 気絶したせいか忘れかけていたけど、私って今、ライオネルとの約束を破って王都に来ている状態なんだよね。


すぐに謝らなくちゃ! 怒られるかな?


考えて、不安と恐怖がせり上がってくる。

緊張がこみ上げて、心臓がどくどく騒いでいる。


どうしよう、まだぜんぜん心の準備ができていないよ!

こんな重要なことを、今になって思い出すなんて!


忘れっぽい自分を呪いながら、嫌われたくないなって、私はマーコールの後ろでびくびくしながら立ちすくんでいた。すると間もなく、


「あなたには関係ない」


素っ気なく返事をしたマーコールが、さっと部屋の中に入っていく。


あ……。


視界のほとんどを埋め尽くしていたマーコールの後頭部が、なくなってしまう。


見つかっちゃうよ!


でも逃げるわけにはいかないから、私はそのまま、その場に突っ立っていた。

開けた視界の先にあったのは、見覚えのある部屋だった。


初めてマーコール邸に来たとき、ライオネルに案内されたのと同じ部屋。床には毛足の長い深緑の絨毯(じゅうたん)が敷かれていて、革張りの深紅のソファーには、貴族然とした格好のライオネルとマシューが向き合って座っている。


へぇ、マシューもいるんだ……。


ちなみにダクトベアはいない。


今日は休みだって話していたから、私を送り届けてどこかに行っちゃたのかな? ダクトベアが休みってことは、もしかしてライオネルも今日は休みなのかな?


……なんて、緊張のあまりどうでもいい思考が頭をよぎる。


もうちょっと隠しておいてよ、私に対する配慮が足りていないよって、無表情で部屋の壁際へ移動したマーコールに、心の中でこっそり八つ当たりしていると、


「ルーナ?」


私を見て、ライオネルが目を丸くした。


まぁ見つからないわけないよね。

気まずくて、今からでも逃げ出したい気分だ。


うんともすんとも言わず、目を逸らしてじっとうつむいていると、


「起きたの? 急に倒れたって聞いたけど、大丈夫?」


「大丈夫だよ」


かけられたのは、心配そうな優しい声。


……よかった。いつものライオネルだ。


思っていた以上に穏やかで、私は心底ほっとした。


ライオネルのことだから、激昂(げっこう)するとか、罵声(ばせい)を浴びせてくるとか、そういうことはしてこないだろうって思っていた。でも本当に嫌な感情を一切ぶつけてこないなんて。


安心だけど、なんでだろうってちょっと不思議。


「来てくれてありがとう。ルーナに確認したいことがあるんだ」


と、もじもじ突っ立っていると、ライオネルがさっそく話を切り出してきた。


……私が王都にいることへの突っ込みはなし?


謝らなきゃいけないのに、約束そのものを忘れているかのような態度を取られて、私は少し困惑した。


覚えていないの? そんなわけないよね?

きっと触れないでいるだけだ。


ダクトベアが覚えていたんだから、ライオネルだって覚えているはず。それに、覚えていなかったとしても、破った約束のことは謝らないといけない。


「この前まで、ドングリの詐欺事件を追いかけていたんだけど……」


「あの!」


まじめな顔で話し始めたライオネルをさえぎって、私は声を上げた。


このまま話が進んだら、そっちに答えなくちゃって意識が大きくなって、謝るタイミングを逃してしまいそうだ。それはまずい。すごく気が重いけど、悪いことをしちゃったんだから、ちゃんと謝らないと。やったことのけじめはしっかりつけないと。……うん!


「あの、……」


ところが、いざとなると謝るための言葉が出てこない。『ごめんなさい』って、ただそう言えばいいのに、すごく言いにくくてうまく声にならない。


どうしよう……。


謝りたいのに、心が揺らいでためらってしまう。


だけど、ずっとこの罪悪感にさいなまれるのは嫌だ。嫌なんだよ!


また少しもじもじしながら黙ったあと、私は覚悟の息を吸って、


「王都にはもう来ないって約束していたのに、来ちゃってごめんなさい」


つぶやくようにそう謝罪した。


ふぅ。

これでライオネルの態度が豹変したら、恐怖でしかないけど……。


心配無用。どんなときでも、ライオネルはライオネルだった。


おそるおそる顔を上げて、ライオネルの顔色をうかがうと、


「いいよ。来ちゃったものは仕方ない」


ライオネルは優しくほほ笑んでいた。


その表情には、呆れも怒りも微塵も浮かんでいない。

仕方ないよって、ほがらかに私の過ちを受け入れている。


……好き。


その反応を確認すると、すっごく安心して、緊張でガチガチに固まっていた体と心が、どちらもふっと解けていくような感じがした。


好き。ライオネルって、ほんといい人だよね。


もっと一緒にいたいなって思う。

その優しい態度に接していると、心がほわほわして、安らいでいく。


だけどそれと同時に、私の心のふちには、本当によくないことをしちゃったなっていう罪悪感が改めてわきあがってきて、


「本当にごめん」


「気にしなくていいよ。ルーナが無事ならそれでいい」


もう一度謝ると、ライオネルはちょっと困ったような顔をした。


「確かめたいことがあったし、来てくれてちょうど良かったよ。俺はいま王都に引き留められていて、サンガ村に戻れないんだ。それで、ドングリのことなんだけど……」


「まずは座ったらどうです」


不意に、ソファーでゆったりくつろいでいたマシューが口を挟んできた。


ちらっと目を向けると、マシューはうさんくさい笑みを浮かべながら私と目を合わせ、そのままの表情でライオネルに視線を移し、


「女性を立たせておくのは失礼ですよ。たとえ彼女がフラットシューズだとしても」


「あ、ごめん。気が回っていなかったね」


申し訳なさそうに腰を浮かせたライオネルが、ソファーの端に詰めて座る。


「座って話そう。少し長くなるかもしれない」


「そうですね」


私が返事をするより先に、マシューが肯定を返した。


なんだか会話を妨害されている気がしないでもないけど……。


確証はないから黙っていると、マシューはまっすぐ前を見たまま、


「紅茶でも準備させましょう。エリアス」


「そのくらい自分で準備できるでしょ」


後ろの壁に寄りかかっていたマーコールが、名前を呼ばれて不機嫌そうに言い返す。


「給仕係になった覚えはない」


「いま私が任命しました。すぐに用意を」


「……」


忌々(いまいま)しそうにマシューをにらみつけると、マーコールは無言で部屋から出ていった。


あれ? 従うんだ?

すごく意外な行動だ。


他人に指示されたくありません、断固拒否ですって雰囲気なのに、マシューに言われたことには従うんだ? 頭が上がらない感じ? えぇ? どうして?


この二人って、どういう関係なんだろう?


マーコールについては、この前のウパーダーナに行っちゃった事件のおかげで、少しは詳しくなったつもりでいるけど、マシューについてはまだよく分かっていないんだよね。


そもそも二回……、三回しか会ったことないし。

 

王都の貴族で、子供の姿になってウパーダーナにいた人で、やたら難しい言い回しをしてくる人。分かっているのはそれだけで、今のところ顔以外は好きじゃない。


そう、顔立ちは整っていてきれいだなって思うんだけど、それ以外はダメダメ。


多分私のことだましていたし、変な圧をかけてきたし、バカにしてきたし……。

はっきり言って、どちらかというと嫌いだ。苦手な人。


……はぁ。


マシューとはあんまり一緒にいたくないんだけどな。


嫌なこと聞かれそうだなって少し憂うつになりながら、私はライオネルの隣に腰を下ろした。そして、向かいに座るマシューは見ないで、ライオネルのほうに顔を向けると、


「ついこの前まで、ドングリの詐欺事件を追いかけていたんだ」


私に聞きたいことがあるという、事件の説明が始まった。


だけど、ドングリの詐欺事件って?


聞き間違いじゃなかったんだね。

初っ端から頭の中にハテナが大渋滞だ。


意味わかんないよ。まじめな話?


ドングリなんて探せばあっちこっちに落ちているのに、それで詐欺事件?

いったいどうやって人をだますっていうの? ていうか、だまされる人がいるの?


困惑していると、ライオネルは愛想笑いのような笑みを浮かべて、


「心当たりはない? 吹けば魔法使いになれるとうたって、ドングリの笛を一つ1000万WC(ホワイトコイン)で売りまわっている男がいたんだけど」


「1000万WC(ホワイトコイン)⁉」


うそでしょ⁉


いきなり飛び出た巨額な数字に驚いて、私は目をむいた。


何それ。ドングリの笛が1000万WC(ホワイトコイン)

なんでそんなに高いの? 絶対おかしいよ!

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