1. プロローグ
昔、世界には神様がいた。
病気を治し、雨を降らせ、あらゆる災害から人間を守ってくれる、優しい神様。
人々は神様を慕い、敬っていた。
そして同時に、神様の力をめぐり、争いを繰り広げていた。
神様の近くにいれば守ってもらえる。特別な力を授かれる。けれどそれは、裏を返せば、神様から遠いところにいると、何も恩恵を受けられないということであって。
自分こそが神様のそばにいるべき人間だと、人々はみにくい争いを続けていた。
人々が争う様子を、神様は静かに見守っていた。
神様はただ平等に、己のもとへとやって来た者たちに奇跡の力を授けた。
結果、神様から遠い土地は奇跡の能力者に侵略され、征服された。
争いは何百年、何千年と、途絶えることがなかった。
しかしある時、見かねた神様が立ち上がり、こう言った。
「争いのない世界をつくりましょう」
そうして誰も乗り越えられない高い壁を築き、世界を十二の領域に分割した。
世界は混乱に陥った。
自分の領域に神様がいないことを知ると、人々は絶望に打ちのめされた。
後悔し、懺悔した。けれど神様は戻ってこなかった。
人々は神様を探そうとしたが、誰も高い壁を越えることはできなかった。
しばらくすると、人々は神様のいない世界に慣れた。
分割された世界に適応し、神様に求めることをやめた。
現在、分割された十二の領域は、領域を囲む壁の色にちなんで、それぞれ白の領域、黒の領域と呼ばれている。
行方知れずの神様は、海ばかりが広がる黒の領域に島をつくり、今もそこでお休みになられているのだという。