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おっさんのごった煮短編集

悪意の白昼夢

思い付きで書きました。



 「あなたっ!! 早くしてよっ!! 」


そんな何気な無い一言に俺は激昂し、感情を抑えられなかった。

 結婚して15年になる妻の言葉にカッとなった(まま)に衝動に任せて玄関先に転がしていたゴルフクラブで思い切り打ちのめした。


 頭が割れて血を流した妻が、驚愕の表情の儘に崩折れていく。


 とんでもないことをしてしまったと頭を抱えて死体をどう処理するかと焦っていると、妻の声が聞こえてきた。




 ~


 「もうっ、早く起きてよっ!! 」


 目を覚ますと同時に混乱した頭に唐突に可笑しな言葉が飛び出す。


 「お前、生きてたのか」


 「はぁ、なに寝惚けてんのっ、休みだからって、何時までも寝てないでよね。朝ごはんの片付け終わんなくて困るんだから」


 あー、夢だったのかと安堵すると、何故か罪悪感から、いつもなら出てくる憎まれ口が鳴りを潜めた。


 「ごめん、すぐに食べるよ」


 「そっ、そう、ならいいの、まだパートまで時間あるし、もう少しゆっくりしても大丈夫よ」


 普段と違う俺に拍子抜けしたのか、思いの外、優しい言葉が妻から返ってくる。あー、素直に謝れば良かったのか、なんて変な感想が頭をもたげて、手に握ったゴルフクラブの感触を気のせいだと思うことにした。



 ~~


 リビングの横を通る。

 何と無しにふと中に目をやると妻がスマホを弄って何かしている。

 

 「あっ、あなた、丁度良かった」


 俺に気付いた妻に声をかけられる。


 「言いづらいけど、あなたも収入が減ったじゃない。電気代も高くなったし、何でも値上げでしょ。美佳も来年には中学でこれから高校に大学にとお金かかるし、私もパートじゃなくて、復職しようかなー、なんて」


 妻が机に置いたスマホをチラッと見れば家計簿をつけてたようだとわかる。


 「扶養から外れると色々面倒だろ」


 「でもほら、復職してある程度の収入があればさ、楽になるでしょ、そりゃ、家事とか大変かもしれないけど、今までもパートしながらだったし、ほら、結婚前の同棲時代はそうだったんだしね」


 俺は妻を椅子から引き摺り倒すと馬乗りになる。


 「ちょっ、何するのっ 」


 やめてと言いかけた妻の顔面に拳を振り下ろす。


 上体を起こそうとしていた妻は、殴られた勢いの儘、拳に押し付けられるようにフローリングに後頭部を叩き付けられる。


 肉が押し潰される感触と固いものが砕けるような感触がしたが、怒りは冷めずに喚き散らす。


 「俺の給料が少ないってのかっ。 働き方改革だか知らねーが、残業減らされたのは俺のせいじゃねーし、結局はサビ残が増えただけで、こっちは毎日無給労働させられてんだぞっ 何が復職だよっ たいして稼げやしないくせにっ! 」


言い切ると少し冷静になる。

 ニチャッとした感触で手に血がついていると気付く、恐る恐る妻の顔を見れば、左頬が潰れて眼球が飛び出していた。

 はぜた皮膚から血が吹き出し、口から泡を吹いている。後頭部を強く打ったのか、フローリングに血溜まりが。


 俺は口を押さえて妻から飛び退いた。

 吐き気が酷い、そんな強く殴ったつもりは無かったが、血の気が引くと拳の痛みが追い付いてくる。

 さっき迄は興奮して気付いて無かったが、拳が痛く、見れば中指と人差し指の付け根から腫れ上がっている。


 「また、殺しちまった。どうする」


 そんな譫言めいた一人言が口をつくと同時に世界が暗転した。



 ~~~



 「そんなとこで寝てたら風邪引くわよ」


 目を覚ますとリビングのソファーで横になっていた。体を起こして横を見れば、一人掛けの座椅子に座って妻はスマホを片手に呆れた顔をしている。


 「ごめん、少し疲れてたみたいだ、飯食ったらうたた寝しちまったみたいだな」


 「あんまりキツいなら、会社にかけあって残業減らして貰ったら、名目上は残業してないことにされてるんでしょ、何なら労基にでも通報したら」


 真顔でとんでもないことを言われて驚くが、流石にそれはとなる。


 「そんなこと、出来るわけないだろ」


 「……そうね」


 何か言いたげにしながらも、一言だけ呟いて妻はスマホを弄り出した。


 「家計簿か」


 「よくわかったわね」


 さっきの夢のせいで、もしかしてと問い掛けると正解だったようだ。


 「何と無くだよ。お前こそサビ残なんてなんで知ってるんだよ」


 「酔っ払って愚痴ってたじゃない。まぁ、その後は爆睡してたから覚えて無いのかもしれないけど」


 そう言われるとばつが悪い。

 酒に弱い俺はたまにしか飲まない。飲むとだいたい、すぐに寝ちまうんだが、そん時に愚痴ってたなら記憶にないが、そういうこともあるだろうってのは予想はつく。


 「なぁ、家計が厳しいなら、俺が会社に掛け合ってダブルワークとか」


 「バカ言わないの、今だって無理してるんだから、体壊したら元も子も無いでしょ。大丈夫よ、切り詰めればやってけるし、私だってパートしてるんだから」


 「そうか」


 「でも、ありがとう、そんな風に心配してくれるのは嬉しいわ」


 明るい笑顔を見ると、安心した反面、何かモヤモヤした気持ちにもなった。



 ~~~~



 「近寄んないでよね。臭いんだし」


 娘の美佳に心底嫌そうに言われる。

 最近はずっとそうだ、娘は私を嫌っている。


 「美ー佳ダメでしょ、パパにそんなこと言っちゃ」


 そう言いながら、妻は笑っている。

 何が面白いんだ。


 美佳の頬を張り倒すと、妻を蹴る。

 妻が育てている観葉植物の鉢を持ち上げると倒れている妻に投げつけた。

 止めようとしてくる娘の首をありったけ締め上げる。


 「誰が臭いって、ふざけやがって」


 どうせこれも夢だ。

 また、目覚めたら、今度はどんなふうに巧く修正されるんだか、早く目覚めてくれ。

 

 早く……早く目覚めてくれ。




 ~~~~~



 

 昨日未明、自宅にて妻と娘を殺した男性について、続報です。

 物音と悲鳴、言い争う音に近所の方の通報で駆け付けた警官によって逮捕された42歳、会社員の男性は警察の取り調べに「夢だ、夢なんだ」と譫言のように繰り返すばかりで、精神疾患の可能性もあるとして精神鑑定にかけられる予定とのことです。





 


 


 


 


 

良ければ感想お待ちしてますщ(´Д`щ)カモ-ン

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