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〜マネーゲーム〜

 熱狂するボードゲーム大会。


 俺と狂咲、水空、アマテラスの4人で行った1回戦は……水空の圧勝で終わった。

 狂咲が仕掛けてくるタイミングを完璧に見抜き、その財を巻き上げたことによる勝利だ。


 最下位は、俺だ。

 アマテラスを侮った結果、ボコボコにされた。

 ……無念だ。


「よーし。じゃ、罰ゲームね」


 水空は当たり前のように追加ルールを提示する。

 罰ゲーム。嫌な予感しかしない。


「積田くん! チューして!」


 やめろ。なんだこいつ。みんなが見てる前だぞ。

 俺は狂咲に止めてもらう。


「これは横恋慕にあたるのでは?」

「みっちゃん。考え直して」


 俺は狂咲によって四肢を押さえつけられる。

 ……言っていることとやっていることが矛盾しているぞ。何をやってるんだ。


「あたしの恋人だよ? みっちゃんにチューされたら嫉妬しちゃうよ?」

「大丈夫。チュー以外はしないから」


 それが問題なんだよ。この世界でも他人の恋人にちょっかいを出すのはよろしくないことだ。


 俺は願者流で抜け出し、他の面々の意見を借りることにする。


「飯田。どう思う?」

「爆発しろ」

「そうじゃない。罰ゲームの内容だ」


 飯田は水空の前でカバディのような動きをして妨害しながら、答える。


「口じゃないなら、いいんじゃね?」

「いやだ!」

「嫌じゃないと罰ゲームにならねえだろ!」


 まあ、それはそうだが……水空の唇を罰としてカウントするのは……。

 俺は後ろから馬場に叩かれる。


「まあまあ。あんまり拒否して長引くとアレだし」

「ぐっ……」


 俺のせいで白けると困る。俺は空気の読めない男になりたくない。この和やかな場を壊したくない。


 俺は甘んじて水空のキスを受け入れることにする。


「煮るなり焼くなり、好きにしろ!」

「いいの?」


 水空は俺の口に突撃してくる。

 やめろ。口はやめろ。そんな俺の願いも虚しく、口を塞がれる。


「むぐっ!?」

「うわ、やりやがった」


 1秒。3秒。5秒。

 長い。舌で歯を押すんじゃない。こじ開けようとするな。怖い。


 飯田は俺の前で合唱し、謝罪している。馬場はアマテラスの目を塞ぎに行っている。


 視界の端に、赤面するアネットと興味深そうなキャベリーが映る。


「あわわ……大人だ……」

「大人ですわね。……あれほど奔放な方は、日本でも珍しいのかしら?」

「まあ、そうだな……」


 飯田はキャベリー向けに弁明を始める。

 そうだ。水空がおかしいだけだ。これが日本の標準だと思われては困る。


 俺が襲われている間に、次のゲームが始まる。

 キャベリー、アネット、馬場、飯田の4人だ。


「ルール、わかるか?」

「わたくしはずっと見ていましたから。アネットに教えてあげてください」

「お願いします……」


 アネットはまだこちらをチラチラ見ている。

 見るな。見ないでくれ。恥ずかしい。


 俺は息が苦しくなってきたところで、ぎりぎり水空に開放される。


「ぷはぁ……。ファーストキス、うめえ!」

「お前……俺と同じ人間か? 違う生態で生きてないか?」


 ファーストキスで舌を使うな。性欲が強すぎて気持ち悪いぞ。


 俺は水空から逃げつつ、次のゲームの様子を見る。

 まだ始まったばかりだが、キャベリーが優勢だ。


「ふふふ……高級住宅地が狙い目と見ましたわ」

「果たしてそうかな?」


 しかし、馬場が反撃を仕掛ける。

 妨害札の購入だ。


「序盤に全てが決まる程度のゲームなら、僕が勧めることはありませんよ」

「手強そうですわね」


 普通に遊んでいるアネットと飯田は、2人の熱量に押されてたじたじだ。どの程度踏ん張れるかで、最下位が決まるだろう。


「見ているだけでも面白いですね」


 今回不参加の工藤は、皆がゲームに興じる様子をずっと眺めている。

 自分では加わるつもりがないようだ。何故だろう。


 俺は工藤に話しかけることにする。終始一人で過ごさせるのは良くないと判断したのだ。


「工藤。馬場とキャベリー、どちらが勝つと思う?」

「馬場くんですね」


 工藤は即答する。

 どちらにも詳しいからこそ、彼女なら簡単に判断できるのだろう。


「何故言い切れる?」

「キャベリーさんは聡明な方です。しかし、この分野では馬場くんの独壇場です。盤上のように考えるべきことが限定された環境でこそ、彼は輝く……」


 工藤の目は、ボードゲームの隅にある一軒の家を射抜く。

 特に高くも安くもない、普通の家。今はキャベリーの持ち物だ。


「あれが今回の焦点ですね」

「高くはないぞ?」

「後半になって、奪える場所が減ってから……手を出しやすい場所なんです。アネットちゃんか飯田くんが手を出したなら、キャベリーさんが勝ちます。馬場くんが横取りしたら、馬場くんが勝ちます」


 ……よくわからないが、そういうものか。

 工藤はよくこのゲームで遊んでいる。俺とは経験が違うのだろう。

 きっと、元の頭の出来も……。


「おや。3番目の妻が欲しいようだね」


 水空が寄ってくる。

 俺は逃げつつ、返答する。


「俺にも工藤にも失礼だぞ」

「ウチも思った。ごめんね、工藤さん」

「……いえ。3番目でも……」

「言うな」


 工藤が水空と俺の間に割って入る。

 盾になってくれるつもりか。反転して俺に襲い掛かってこないことを祈ろう。


「水空さん。私、わからないんです」


 何やら深刻な顔で、工藤は相談を始める。

 水空も空気を察しとり、わざとゲームの喧騒を遮るように位置を変える。


「何かあった?」

「私、積田くん以外の人を好きにならないといけないんだと思います」


 良かった。工藤はまだ倫理観が無事だ。流石は委員長である。


「一度好意を自覚してしまうと、簡単には拭えないものですね。……はじめてだったので、わかりませんでした」

「ウチも。こんなに人を好きになったの、キョウちゃん以来なんだ」


 2人はスキルで作った人形を手に、ままごとのようなことをしている。

 ……よく見たら俺の姿をした人形じゃないか。呪われそうだ。やめてくれよ。


「私はもっと、外に出なければいけません。違う人間関係を構築して、他の人に愛し愛される土壌を築かなければなりません」

「そうだねー。今、工藤さんが盗聴石を預かってくれてるのは助かるけど……無理しなくていいよ」


 そうか。願者丸の代わりを押し付けたことで、工藤が外に出る機会も奪ってしまったのか。

 俺は申し訳なさを覚えつつ、工藤の様子を見る。


「でも私、まだ日本が忘れられないんです。ここにいるみんな以外の……この世界の人たちと恋仲になれる自信がなくて……」

「まあ、素駆くんみたいに老けてる可能性もあるからねー。積田くん以外の日本人となると、飯田か馬場くんくらいだし……」


 水空は馬場の方を意味深な目で見つめる。

 彼はゲームに夢中だ。


 工藤はほんのり申し訳なさを滲ませつつ、首を横に振る。


「彼は、その……背の低い人が好みらしいです」

「そうらしいな」

「お、積田くん証言ありがと。あー、そっか。そっちかー」


 水空は手のひらを額に当てて、天を仰ぐ。


「そういう性癖かー。しゃーない」

「私も納得しています。実際に暮らしてみると、身長差は響くと思いますから」


 実感が伴った言葉だ。工藤は学年の女子では1番の高身長。苦労した経験も多いのだろう。


 俺はなんとなく、工藤に問いかける。


「工藤も、身長は自分に近い方がいいのか?」

「はい」

「俺は背、高くないぞ」

「そうですね……。でも、あくまでポイントのひとつですから」


 工藤はまた色目を使い掛け、ハッとしてそっぽを向く。


「あ、いや、その……」

「うわー、重症。思春期って感じだねー」


 水空が茶々を入れる。

 ……お前の方が重症だろうに。


 〜〜〜〜〜


 2回戦の勝者は、馬場。工藤の読み通り、やはり強かった。接戦の末にキャベリーを制し、終盤で例の家を確保して逆転勝利。


 ビリはアネットだ。まあ、仕方ないな。


 3位の飯田は、何故か焦って弁解している。


「手は抜かない方がいいかと思って、つい……」


 子供に罰ゲームを受けさせてしまう罪悪感か。

 だが、アネットは緊張しながらも、皆と対等に扱われることを望んでいるようだ。


「アネットも罰、受ける。……誰がキスするの?」


 内容をキスで決定させるのは、流石にまずい。

 俺はアネットの(みさお)のために、当たり障りのない提案をする。


「罰の内容はみんなで決めよう。紙を用意してくれ」

「お、そうきたか」


 俺は適当な箱を持ってきて、それぞれの案が書かれた紙を突っ込む。

 要するにくじ引きである。


 アネットは紙を一枚取り出して、内容を読む。


「遠くのガンジャマルに、何かひとこと」


 これなら問題ない。……と、信じたい。

 願者丸は彼女の初恋の相手。掘り返されるのは嫌かもしれないが、罰ゲームだ。一瞬だけ我慢してくれ。


 彼女は窓の方を向いて、叫ぶ。


「ニンジャがなんなのか、よくわかんない!」


 そんなことを思っていたのか。

 願者丸のガッカリする顔が目に浮かぶ。


「あいつ以上に忍者を体現している奴は、この世界にはいないからな……」


 忍者道具。忍びの技。隠れ里。

 ……再現するために、どれほどの能力が必要になるだろうか。


 俺は願者丸の生き様だけを参考にして、下忍止まりの人生を送ることに決める。


 〜〜〜〜〜


 決勝戦。

 1位と2位で抜けた面々が集い、白熱の勝負が繰り広げられる。


 水空、アマテラス、馬場、キャベリー。

 俺たちは盗聴石を応用し、別室で観戦中。


 優勝候補の馬場は、先ほどの試合と同様に、序盤の攻防を捨て、妨害札を狙う。


「あれ?」


 しかし、あまり有効な札を得られていないようだ。

 ……これは、まさか。


「『不運』が牙を剥いてきたな」


 飯田が解説を入れてくれる。

 今の流れは、あいつのスキルによるものだろう。つくづくツイてない男だ。


 対して、順調なのはキャベリー。運に左右されない堅実な立ち回りが光る。


「ふふふ……。資金運用は得意でしてよ」


 時折悪いマスに止まりながらも、致命的なダメージを負うことなく、切り抜けている。


 一方、強者たちを妨害する動きをする水空。

 数で攻めるつもりのようだ。安い土地を確保し続けている。


「安い駒は取られても痛くないし」


 殴り合いを想定している。怖い。


 ……そして、ひとり出遅れているように見えるのはアマテラス。


「アミーちゃん……」


 アネットが固唾を飲んで見守る中、アマテラスはいつも通りの平然とした顔。

 何か策があるのだろうか。わからない。


「おっ」


 中盤に差し掛かったところで、飯田が声を上げる。

 アマテラスが妨害札を手に入れたのだ。


「うん」


 やはり顔色を変えないアマテラス。読み通りといった表情。

 俺はそっと、その中身を覗いてみる。


『災害が起きる。各プレイヤーは所持している土地の数だけ銀貨を失う』


 これと同じ内容の妨害札が、もう1枚。

 更に、隣にはこんなものも。


『商機到来。これを使用してから10マス進むまでの間に、他のプレイヤーが妨害札で金を失った時、それと同額が自分の財布に入る』


 なるほど。凶悪なコンボだ。


 〜〜〜〜〜


 優勝はアマテラスだ。

 決勝戦のビリは水空。妨害の嵐に吹き飛ばされる形となった。


「罰ゲームは何になるかなー」


 楽しそうだ。罰ゲームの言い出しっぺとして、甘んじて受け入れる覚悟があるようだ。

 ……こういう部分が、水空の良いところだ。狂った一面もあるが、友達としては捨てがたい。


 皆が記入したところで、シャッフルし、いざ開封。


「おお……これはなかなか」


 罰ゲームの内容は、こうだ。

 一発ギャグ。


 ……達筆だ。工藤の字だろう。


「シンプルにきついの来たな」


 飯田が期待しながら見守る中、水空は勢いよくステータス画面を取り出し、指で回す。


「ピザ職人っ!!」


 ……日本勢にはウケた。

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