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〜同級生とデブ町長〜

 積田立志郎、高校生。身長は170センチ。

 本日、異世界で同窓会に参加している。共に死んだ仲間たちとの再会である。


「はい。こちら出席番号17番の積田くん」


 そう言って、死んでも笑顔を絶やさない狂咲は、長い黒髪を揺らしながら回る。

 俺の前で一回転する意味はあったのだろうか。そもそも同じクラスの相手に紹介をする意味があるのだろうか。


「(せっかく人を集めたからには、何か言わないとまずいよな……)」


 ワクワクしている狂咲の顔を立てるべく、一応話を合わせることにする。


「森で彷徨っているところを、助けられた。五体満足だ。よろしく頼む」


 数人からの、まばらな拍手。

 ……空気が乾いている。事務的な対応だ。

 反応に困るだろうな。クラスにいた時から、目立つタイプではなかった。印象が薄いのだろう。


 俺はさっさと部屋の隅に移動し、体育座りをする。

 ここは宿屋の大部屋。共同で金を出し合い、拠点として借りているらしい。


「(ここにいる面々は、既に職を見つけているのだろう)」


 ひとりだけニートの俺は、ほんのりと肩身の狭さを感じる。

 まあ、他の面子も昔は同じ境遇だったはずだ。あまり気にしないことにしよう。


 俺がぼんやり座っていると、水空が体育座りのまま寄ってきて、肩をぶつける。


「積田くんよ。もうちょっと言うべきことがあるんじゃない?」

「趣味か」

「いや……ステータスとスキル」

「ああ、そうか。あったな、そんなの」


 今までの人生において、自分のステータスを紹介したことがなかったため、忘れていた。確かに、これは伝えておかなければなるまい。


 俺は立ち上がり、真っ黒なステータス画面を取り出して、再度皆の注目を集める。


「俺のスキルは『呪い』だ。神から押し付けられた」

「おお。強そうだな!」


 大部屋の真ん中にいる長身の男が、声を上げる。

 確か、バスケ部の飯田(いいだ)狼太郎(ろうたろう)だったか。狼のような、鋭さと愛嬌を併せ持った面構えだ。


「過去一ヤバそうなスキルじゃね?」

「そうなのか」

「みんなが貰ったスキル、一覧にしてあるよ」


 そう言って、狂咲が部屋の隅にあるやたら分厚い本を持ってきて、手渡してくる。

 クラスの人数分、記録をつけるためのものなのだろう。ほとんど白紙だ。


「みんなのスキルも見ながら、自分の分を書いてね」

「わかった」


 俺は筆記用具を受け取り、引っかかりが多く書きにくい紙に、自分のステータスとスキルを書いていく。


 積田立志郎    レベル1

【ステータス】  【スキル】

 攻撃…6     呪い(1/1)

 魔力…13

 防御…6

 魔防…6

 速度…7


「これでいいのか?」


 隣の水空に尋ねると、彼女は覗き込んで頷く。


「そんな感じ。スキルの内容は、後半に専用のページがあるから……」


 水空は横から栞をつまんで、それを示す。

 開いてみると、確かにスキルのみがまとめられたページがある。


「どういうスキルがあって、どんな効果なのか。魔物とかも使ってくる可能性があるみたいだし、辞典みたいにするといいかもって、キョウちゃんが言ってた」

「人以外もスキルを使うのか」

「もち。芋虫がブレス吐いたりする」


 予想通り、危ない世界のようだ。

 俺がプレイしていたゲームに火を吐く芋虫はいなかったが、氷のツノを持つクワガタはいた。スキルを纏めたページは必要だろう。


 俺は呪いについての現在の考察を記入する。


「呪いは回数式。何らかの条件で溜まる。襲ってきた動物を退治することで溜まったものの、まだ確定ではない。肉や骨を溶かす力がある」

「こわー」


 水空がドン引きしている。

 俺も他人が呪いのスキルを持っていたら、同じ反応をするだろう。知り合いにこんな顔をされる効果が、正直一番きつい。


 俺が記入すべき内容を書き終えると、話し合いが終わったのか、それとも純粋な興味が理由か、狂咲たちが周りに集まってくる。


「この世界、HPとかMPがあるっぽいけど、ステータスに載ってねえんだ。クソ不便」


 飯田は隣にいる背の低い男子生徒に同意を求める。


「なあ、サスケ」

「だな」


 願者丸(がんじゃまる)サスケ。帰宅部。俺と同じく内向的なようだが、趣味や性格が微妙に噛み合わない。

 彼は対戦アクションゲームや格闘技観戦を好むが、俺はあまり興味がない。故に、あまり話したこともない。向こうは好意的だが、親しいとは言えないな。


「毒や属性への耐性。現在受けている弱体、あるいは強化。色々と項目が足りていない。不満だ」

「強化のスキルがあるのに、強化をちゃんと受けてるか、ちゃんと見ないとわからないもんねえ」


 そう言って、水空は狂咲の方を見る。

 どうやら彼女は、他人を強化するスキルを持っているようだ。


 神に頼んだのだろうか。他人を助けたい、と。

 なかなかできることではない。普通は自分の力を高めることを望むはずなのに。


 狂咲は照れ臭そうに微笑む。


「積田くんには、絶対に死なないでほしいから……」


 なるほど。重い。受け止めきれない。


 バスケ部の飯田は苦笑いと共に、長身を生かして俺を見下ろす。


「探しに行ったのも、お前に会うためだってよ。いつのまに付き合ってたんだ? 教えろよ」

「飯田ァ。口閉じろ」

「お、おう」


 水空の凄まじい威圧により、飯田は引き下がる。

 代わりに願者丸が前に出て、ページを勝手に捲り始める。


「狂咲のページはここに。スキルは『思慕』。味方一人の防御と魔防上昇。ついでにリジェネ効果も付与されるらしい。回数など、その他の条件は不明」


 確かに、誰かの命を守るためのスキルだ。リジェネは体力の回復という意味合いだろう。

 ありがたい解説だが、不明な点が多すぎる。詳しく突いてみよう。


「どうやって検証したんだ?」

「ステータス画面の数字が変わる。回復の方は、表記が無い……が、怪我が治ったとの報告がある」


 視界の隅で、水空が小さく手を挙げる。

 なるほど。怪我をしたところを助けられたことがあるのだろう。2人だけで行動していれば、そういうこともあるのは想像がつく。


 願者丸はいつも通りのどんよりとした目で水空の方をチラリと見て、話に戻る。


「他のスキルについても、オイラが解説する」

「別にいい。書いてあるんだろう?」

「語りたいから勝手に語る」


 そうだ。コイツは喋りたがるタイプのオタクだ。だからどうにも調子が合わない。俺は静かな場所が好きなんだ。食事も一人の方が落ち着く。


「いいか、積田。先輩であるオイラの話をよく聞け」


 ——その後、俺はずいぶんと長い時間をかけて皆のスキルを聞き終える。

 額に手を当ててみると、ずいぶん熱っぽい。体調が悪くなりそうだ。

 半分は異世界の森で無理をしたせい。もう半分は、願者丸の長話のせいだろう。


「本はいつでもここにあるから、忘れても大丈夫。好きな時に読んでいいよ」


 共に長話に付き合った狂咲は、そう言って俺に思慕のスキルをかける。


「ひっ」


 肩に何かがのしかかったような心地と共に、俺の熱はぐんぐんと引き、寒気を覚えるほどになった。

 この震えは、きっと……ストーカーに狙われている感覚によるものだろう。スキルを受けている間、異様な視線を感じるのだ。


 ああ、神様。どうしてこの女にこんなスキルを。

 誰か助けてくれ。


 〜〜〜〜〜


 陽が落ちて、夕食の時間になる。


 この宿はずいぶん大きく、食堂も併設されているようだ。メニューが少ないが、贅沢は言うまい。


「(ちょっと観察してみるか……)」


 俺は初めて触れる異世界に見入る。

 客層は男が多い。服や髪型は日本より大雑把。髭を伸ばしている者が多い。髪の色は派手だったり黒かったり。


 酒を提供しているからか、大声で会話をする集団がちらほら見受けられる。


「あの辛気臭い奴ら、いつから出入りしてんだ?」

「上の客だとよ。同じ髪色に似たような服。親族か何かかねえ」

「いや、異世界からの流れ人だそうだ。気の毒なこった。親も生きてる歳だろうに」


 なるほど。転移や転生でここに来る人間は、たまにいるようだ。


「(それでも、黒髪の集団は浮くだろうな)」


 異国情緒。あるいは、異世界情緒。


 良くも悪くも賑わいを見せる店の片隅で、俺たちは話し合いを続ける。


「ここにいないけど、飛田(ひだ)もこの世界にいた。ヘリはあいつのスキルだ」

「へえ。レンタルと言ったのは、そういうことか。今はどこに……」


 その瞬間、空気の変化を感じ取り、俺は慌てて口を閉じる。

 この世界に()()。過去形だ。


「(そうか……)」


 飯田は木のコップでジュースを飲みつつ、重い空気を無理やり動かす。


「そのうちな。今はここにいる奴で話そうぜ」

「今後の話でもしよっか」


 水空は魚の揚げ物をパクパクと食べながら、俺の肩を叩く。


「ウチとキョウちゃんは捜索班。生存能力高いから」

「俺と願者丸は金策。組むと強いんだぜ」

「……まあな」


 詳しく覚えていないが、願者丸はクラフト系のスキルだった気がする。材料があれば道具を生み出せる。

 飯田のスキルは複製。魔力量が少ない物なら、簡単にコピーできる。なかなかの無法だ。

 なるほど。この2人が揃えば、荒稼ぎできそうだ。


 ……だが、外部から見ている分にはともかく、実際にやる側の視点に立つと少々不安だ。


「何らかの法に触れるんじゃないか?」

「その心配はご無用!」


 突然、俺たちがいるテーブルに向けて、とてつもない大声が発せられる。

 びくつきながら横を見ると、立派な髭を蓄えた大柄な男が。


「うおっほん! ワタシこそが町長……キャメロンであーる!」

「あ、はい」

「歓迎するぞツミダくん! キミたちの雇い主であり宿の管理者でもあるこのワタシが、たっぷり庇護してあげようとも!」

「あ、はい」


 うむ。うるさい。個人的には、まったく好きになれない類の人種だ。酒場の人目を集めている。俺は一人が好きなのに。


 だが、個人的な好き嫌いで皆を危険に晒すわけにはいかない。


「ありがとうございます。感謝しています」

「おべっかが上手い! ワタシの好きな人間だ!」


 相手の目の前でおべっかと言い切る精神性、俺は嫌いだよ。そう言いかけて、飲み込む。

 この男に悪気は無いのだ。日本でも、社会に出ればこんな男のひとりやふたりくらい、相手にすることになっただろう。


「(日本の社会人は、結局未経験だが)」


 俺は溶けかけた愛想笑いを見せながら、テーブルの方に振り向く。

 水空も、飯田も、願者丸も……苦笑している。この男を苦手に思うのは、俺だけではないようだ。


 一方、隅に座る狂咲だけは、あまり変わらない笑顔だ。何故だろう。

 彼女はにっこりと微笑み、挨拶をする。


「ご足労いただき、ありがとうございます」

「うむ。娘もキミに会いたがっていたから、そのうち屋敷に顔を見せてくれると助かるぞ」


 どうやら上司と部下として以外の関わりがあるらしい。そのうち聞き出した方がいいだろう。


「(今後の生活のためにも、媚びは売れるだけ売っておこう)」


 俺はこの町で安全に生き残るために、性格の合わない町長と付き合う覚悟を決める。


積田立志郎。

呪いのスキルを持つ、不思議な雰囲気の少年。


表情に乏しく、近寄りがたい印象を他者に与えてしまう。

しかし、話してみればわかるだろう。彼はずいぶんとお人よしな、普通の少年でしかない。


挿絵(By みてみん)

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