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親になる。前作主人公は師匠キャラになる

 戦争が終わり、裏儀式による王都動乱も収まり、国は落ち着きを取り戻していく。


 帰還から最初の一年目。

 俺たちは生活リズムを整えながら、子作りに励んだ。

 結果、調と願者丸サスケが妊娠した。矢羽より暇で愛し合う機会が多かったのだから、当然の帰結である。

 2人は大いに喜び、母親になるための準備を整えた。ベビーグッズを手編みしたり、名前を考えたり。

 出産時期をずらすため、矢羽のとの行為は控えめになった。ただでさて子育ては大変だというのに、3人も赤子を抱えていては、家が回らなくなってしまう。


 冬が来て、春になり、2人の腹は大きくなった。

 元々体力のある調は嗜好の変化くらいで済んでいるが、小柄なサスケは大変そうだ。血管や神経に不具合が出ているのか、常に顔色が悪い。

 俺たちは力を合わせて彼女を支え、無事に出産を迎えられるように祈る。


 やがて、夏が来る。

 この世界に来て、二度目の夏。日本ほど暑くはないが、それでも汗ばむ日が続く。当然、体調に影響が出るだろう。

 サスケは絶えず胎児の足で内臓を蹴られているようで、常に吐きそうな顔をしている。実際、日に3回の食事をほとんど戻してしまっている。

 反面、調はハイになっているのか、双子神たちと遊んでは大笑いを繰り返す。子供に悪影響は無いようだが、調の精神状態が少し心配なので、扶養者として丁重にケアする。


 ……そして。

 秋の初め頃。

 ついに調が産気づく。


 〜〜〜〜〜


「ん……んー……」


 信じがたいことに、調は痛みに喘ぐこともなく、何の苦労もしないまま出産を終えた。あっさり終わるならそれに越したことはないが、一大事だと身構えていた身としては、拍子抜けだ。


 生まれてきたのは、元気な男の子。やや重い。髪質は調より俺に近いか。顔はくちゃくちゃで、よくわからない。


 俺たちは顔を見合わせて、半ば呆然としたまま、喜びを分かち合う。


「人間って、こうやって生まれてくるんだね」

「知識として知っていても、実際に見ると格別だな」


 感動した様子の矢羽。眠そうに目を細める調。赤子を抱いて号泣する工藤。無言でしんみりしているサスケ。


 俺たちは感動を交わし合い、子供の面倒を見るルーティンを決め、調の回復まで交代で世話をすることになる。


 ——出産から2日後、赤子の前に浮かぶ小さな光が2つ。


「……ぼくも」


 万が一に備えて待機していた双子神の弟、天見。

 彼は赤子を優しく見守りながらも、赤子より小さな顔いっぱいに悲哀を浮かべる。


「ぼくもママから生まれてきたかった……」


 双子神は本来なら命を授かることができなかった存在だ。当時の願者丸サスケは精神的に弱っており、小さすぎる母体も悪さをして、まともに子供を産むことができなかった。


「情けない母親でごめんよ。謝罪が欲しいなら、いくらでも……」


 サスケが子に向けて頭を下げようとしたところで、高嶺が割って入る。


「ふふっ。じんせいはあっちにいったりこっちにいったり、なのだよ」


 高嶺はいつもと変わらないクールな雰囲気を醸し出しつつ、綺麗に整った顔を願者丸サスケに向ける。


「ママはがんばった。神さまもきまぐれでたすけてくれた。パパのおかげで、こっちにこれた。みんなはっぴーだろう?」

「……オイラを、赦してくれるのか?」

「おとうとだって、けんかなんかしたくないのだよ。だろう?」


 高嶺に促され、天見は理知的な瞳を潤ませながら、サスケに縋りつく。


「ごめんなさい、ママ。ぼくは我儘でした」

「そんなことはない。当たり前を望むのは、当然の権利だ」

「でも、過ぎたことだから……。それに、ママに心配かけちゃった。ママも大変なのに……」


 双子たちは、サスケの腹を丁寧に摩る。


「たぶん、いもうとなのだよ。たのしみだねえ」

「人間の妹……。頼れるお兄ちゃんになりたいな」


 家族の絆。神であろうと人であろうと、情があるなら繋がれる。


「これからは、母親として自信を持て」


 俺が主人として命ずると、サスケは家来として頷く。


「はい。そのお言葉を心に刻み、生きていきます」


 〜〜〜〜〜


 サスケの陣痛が始まったのは、次の日のことだ。

 予定より早い出産。やはり、母体に限界が来たのだろう。


「う、ぐぎぃぃぃっ! ひいいいぃぃっ!」


 調のときとは比べ物にならない、凄まじい迫力の悲鳴が轟く。

 願者流の開祖であり、鍛え上げられた肉体を持つサスケ。そんな彼女でさえ、出産の苦痛には耐えられないのか。


 サスケの口に木材を噛ませ、歯を食いしばらせる。


「師匠。踏ん張りどころだ」

「ひー、ひー、ふん……ぐーっ!」


 聞き齧りのラマーズ法を実践しつつ、3時間ほど格闘する。

 しかし、成果は頭が僅かに見える程度だ。


「ある、じ、さまぁ……」

「どうした」

「お願いが、ある……」


 サスケの提案で、江戸時代の日本で行われていた方法を用いることにする。

 天井から太い布を垂らし、全身全霊でしがみつくことで、力むのだ。

 当時は声を出さない決まりだったようだが……ここにそんなしきたりは無い。


「ふぐうぅぅっ!!」


 野太い声と共に、恐ろしい量の汗と涙が流れ落ちていく。膀胱や腸の中身は、とっくに排出されて枯れ果てている。


 更に3時間ほど経った頃、ようやく赤子の頭が顔を出す。


「おお……」


 歪んだ頭部を覆う、黒い髪。日本人の血を引く証。

 俺たちは慎重に赤子を掴み、スキルによる補助を全力でかけ、新たな命の芽吹きを手伝う。


「肩が! もう少しで、肩まで抜ける!」

「ひー、ひー、ふ……んぐぎぃいいいぃぃっ!!」

「サスケくん! あたし、ずっと想ってるから! サスケくんの未来を『思慕』してるから!」

「ひん、ふひ、ふんぎぃぃぃぃっ!!」


 獣のような咆哮を、何度繰り返したことだろう。どうして生と死はこんなにも近い位置にあるのかと、世を恨みたくなる心地だ。


 半日が経過したところで、願者丸サスケは諦めたような顔で、提案を持ちかける。


「砕いてくれ」

「……何を」

「オイラの、骨盤を」


 出産の邪魔になる骨と肉を、全て切除する。

 ……そんなことをしたら、矢羽の『思慕』と巫女名の魔力球があっても、無事で済むかわからない。最悪死に至る。たとえ命が助かっても、重篤な後遺症が残る可能性が高い。


 だが、俺はサスケの苦しみを知っている。半日ずっと、付き添ってきたからだ。


「わかった」


 この提案を飲んだ時の俺の顔は、どんなに悲痛で、情けないものだったのだろう。

 よりにもよって双子の手を借りながら、俺は……鍛え抜かれたサスケの体を、粉砕した。


 そうして、子供が生まれた。

 静かな女の子だ。


 産声をあげながらも、まるで天使のような優しい顔つきをしていた。


 〜〜〜〜〜


 願者丸サスケの出産から時が経ち。

 調は早々に立って歩き、育児に参加し始める。

 体力が有り余っているようで、夜泣きにも文句を言わず対応し、立派な母親として働き続けている。


 ある日、調はサスケの病室を訪れた。


「おう、サスケ。しょんぼりしてる場合じゃないぞ。ウチなんかここんとこ毎日、赤ちゃんのオムツ替えてるんだ。なんでか知らんけど、緑色してるんだぜ? ウケるでしょ」

「……オイラも今、オムツ生活だ」


 下半身がぐちゃぐちゃになったサスケは、今や座ることさえできない。

 巫女名の魔力球で骨折や肉離れを癒しながら、少しずつ形を整えてはいるものの……この調子では全快までどれだけかかるかわからない。

 そもそも、完治することはあるのだろうか。一生このままなのではないか。そんな不安も拭えない。


 しかし、調は断言する。


「サスケ。あんたは必ず戻ってくる」

「何を根拠に」

「創意工夫を凝らす頭脳と、成果を出すまでしぶとく続ける根性」


 調らしくもない理論的な答えに、サスケは面食らったようだ。

 だが、調はサスケを尊敬している。いつからかはわからないが、今は確実に。


「ウチもさ、スキル強化してもらったんよ。『鳥籠』の本来の用途……小さな命、幸せの青い鳥を守るための、鉄の檻。そういう感じにした」


 調の『鳥籠』は探知スキルだった。自身を中心に鳥籠状の領域を広げ、範囲内にあるものを五感で感じ取る。

 しかし、今は調の人生観と共に拡張された。鳥籠の内にあるものにステータスの加護を与え、守る機能が追加された。

 つまりは、赤子を危険から守るためのスキルになったのだ。


「願者丸。いい加減、戻ってこいよ。またウチに挑んでこい。秒殺してやるからさ」

「……おうよ」


 調との会話で何かを掴んだのだろう。サスケは口元に僅かな希望を滲ませる。


 ……サスケが分身と魔力球を活かし、自らの手で完治させたのは、次の日の朝のことだった。

 魔力でできた分身から、魔力でできた肉と骨を剥ぎ取り、自分の体に貼り付ける。その後、魔力を肉に変える魔力球の作用で、分身の魔力を本物の骨肉に置換。これを繰り返して、体を取り戻したのだ。


 麻酔なしでの移植手術。尋常ではない痛みだったろうに。

 だが、病室から出たサスケは、とても誇らしげな顔をしていた。体の痛みよりも心の痛みの処置の方が、彼女にとっては大事だったのだろう。


 〜〜〜〜〜


 赤子の世話は大変だ。昼だろうが夜だろうが、お構いなしに赤子は泣く。ろくに寝る暇がなく、みるみる体力が削られていく。

 我が家には工藤や双子神がいるため、これでもずいぶんと楽をしている方だ。世の中の母親たちには頭が上がらない。


 しばらくして、赤子の授乳に困ることになった。

 調はともかく、サスケは母乳が出ないため、調に2人分頑張ってもらうことになる。


「りっくんの分がなくなっちまうよ……」


 何故俺の分を確保しようとしているのか。問いただす気力はない。


 調に負担がかかりすぎているのは確かなので、アネットの勧めで、脱脂粉乳に糖を加えたものを飲ませてみた。

 一応赤子たちには好評のようだが……それでもサスケの娘は、母親に乳を求め続ける。


「しゃぶりたいんだろう」

「ああ、そういう……。おしゃぶり、作っておけばよかったな」


 胸の代替品が必要だ。魔道具がいいだろう。オリバーに教わってみるか。


 〜〜〜〜〜


 そうして、子育ては続く。


 調の息子は『氷魚凛(ひおり)』に決まった。

 水空氷魚凛。実に涼しげな名前である。赤子の外見が凛としていることから名付けられた。珍しい名前であり、日本に生まれていたら読み仮名を振られることうけあいだが……この世界なら誤差の範疇だろう。


 サスケの娘は『志月(しづき)』だ。

 俺の立志郎という名前から一文字取り、月を加えたもの。何故月なのかと問うと「忍者といえば夜。夜にひとり輝く月は、孤高に生きる忍者の友であり、夜道を照らしてくれる味方であり……」という小一時間の語りが付いてきた。


 ……子供たちの存在を、名前と共に町長へ伝える。

 彼は神の使徒の子という立場の難しさを語り、慎重に守るよう助言してくれた。


 ただでさえ今の俺たちには敵が多く、国からも政治的に利用されがちな立場だ。俺たちへの交渉材料として、氷魚凛や志月たちが狙われないとも限らない。

 また、彼らが大きくなった後、どんな人生を歩むにしても……俺たちの立場や行いへの言及は避けられない。神の使徒としての振る舞いを求められることになるやもしれないのだ。


「君たちの子供が健やかに育つよう、町長としてできることは最大限やらせてもらう」


 そう言って、キャメロン町長は学校教育への投資に力を入れ始めた。

 子供が集まる場を確保し、整備すれば、自ずと子供の未来は守られる。子供同士で交流し、社会を生き抜くだけの知力と判断力と養うのだ。


 つくづく思う。俺は周りに恵まれている。

 ならばきっと、子供たちが育つ環境も、きっと恵まれたものになるだろう。

 与えられた土壌を腐らせることのないよう、俺は俺で努力を重ねなければならないな。

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