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6.ブレイブファイター

 その冒険者の気配を感じたのは昼頃だった。

 僕はハルカのゴブリン作りを見守っていたとき、ミニユニコーンから片言のテレパシーが送られてくる。

【ホウコク、テキ……1】


 その直後に、ハルカはぴくっと体を動かした。

「今……ゴブリンが1匹やられました」

「ミニユニコーンも襲撃を伝えてきた」

 およそ7秒くらい開けて、彼女は再び言った。

「2匹目……やられました」

「意外と時間がかかってるね」

「ええ、今……3匹目……やられました」

「ミニユニコーンも撤退をはじめたよ」

 その直後に4匹目がやられ、最後の1匹がやられるた時間はトータルで29秒といった感じだった。


「ゴブリン……全滅」

「ミニユニコーンは倒されてない。ということは近距離武器の使い手かな?」

 これ以上のモンスターは配置していないため、敵はまっすぐにボスエリアに向かって進んでくる。ミニユニコーンは駆けてくると、危険を知らせるように嘶いた。

「ご苦労様。君はハルカを守って」


「ググググググ……」

 ミニユニコーンは、ハルカの側に駆けよると安心させるように優しく嘶いていた。そして自ら彼女の盾になるように立っている。


 側にいたゴブリンも、威嚇するように目の前を睨みはじめた。

 遂に足音が聞こえてくると、中世風の甲冑に身を包んだ冒険者が現れた。恐らく、ゲートの中では現代の武装をしても強くないため、このような冒険者チックな姿となってしまうのだろう。

 その冒険者はじっと僕を睨んできた。

「コイツが……プロ冒険者を撃退したという魔物か……魔物にしては美しい」


 そいつは手を差し出してきた。

「おい、せっかくだ……俺の愛馬にならないか? 悪い話じゃねーだろ」

 どこか挑発的に言ってきたが、こういう勧誘は嫌いではない。僕も礼儀正しく答えることにした。

「ありがたいお誘いだ。参考程度に言っておくけど……僕は1日に10キログラムの飼い葉を食む」

 冒険者の表情は曇った。

「それだけでなく普段過ごす場所も必要だね。納屋なら……ワンルームアパートと同じくらいの広さ。もし、そのような場所を用意できないのなら、専門の施設に預けることになる。そうだな……月に15万円ほど払えば預かってくれる場所も現れるかもしれない」


 さすがに割高だと思ったのか、その冒険者も慌てていた。

「か、考えてみたら……俺には愛車のシルバーがあった。浮気はいかんな……はははは」

「洒落のわかる吾人で助かるよ。ところで、ゴブリンを壊されたけど……これはわが社が丹精込めて作った品物……1体当たり5000円ほど弁償して」

 そう言いながら挑発してみると、冒険者は調子に乗るなと言いたそうに剣を抜いた。

「調子に乗るなウマ、今からバラバラにしてお前の角で支払ってやる!」

「それ、なんて分割払い?」

「行くぞウマ!」


 啖呵を切ると同時に、冒険者は襲い掛かってきたので、僕は水塊を男の顔にぶつけて転倒させた。

「お、おのれ……こけおどしを」

 腕は大したことは無い。このまま適当にあしらっていけば、そのうち降参するか逃亡するだろう。そう思いながら僕は、角でいなしたり、蹴りで防具を蹴ったりしたが、この冒険者はしぶとく立ち上がった。

「……まだ、まだだ!」


 再び斬りかかってきたが、僕は水塊で目つぶしをしてから、再び鎧を蹴って転倒させた。

「いい加減に諦めなよ」

「駄目だ……俺は、お前を倒して……一人前になるんだぁ!」

 僕は再びかかってきた冒険者を蹴飛ばして追い払った。これでいい加減に実力差を理解して帰って……。

 いや、この冒険者は再び立ち上がった。

「まだ、まだだ……!」


 そう言いながら、冒険者は鼻から流れ出た血を拭った。まだまだ闘志を燃やしていて、これで僕を倒して名を上げるんだという執念を感じる。

「帰れ!」

 あまりにしつこいので、怒気を放って追い払おうとしたら、冒険者は全身からオーラを放出した。恐らく、全身に殺気を受けたことで、本当に死ぬかもしれないという危機感が全身を刺激したのだろう。


 戦士の体周りにはマジックシールドが出現し、彼は目を剥きながら剣を振り上げてきた。

「くたばれぇぇぇぇっ!」


 戦いの中ではこんなことも起こるのか。

 僕は蹴りで男の身を守っていたマジックシールドを破壊すると、バランスを崩したところを見計らって水塊をぶつけ、再び目つぶしと転倒をさせた。


 今の攻撃は彼にとっても決定的な一撃だったようだ。すっかり自信を失った表情をしている。恐らく、何年にもわたって我流で剣の腕を磨いてきた自信が脆くも崩れようとしているのだろう。

 それでも、冒険者は自分を奮い立たせるように剣を握って向かってきた。

「だりゃあああああ!」


 僕はそれを自分の周りにあるマジックシールドで防いだ。冒険者の攻撃を受けてもマジックシールドはビクともしない。再び振り上げたところで、僕はタイミングよく水塊を放って冒険者を転倒させた。

 冒険者は泥まみれになっても、まだ顔を拭いながら上半身を起こし、剣を握ろうとした。そこに再び水塊を放つと、冒険者は再び仰向けに倒れて、剣も飛ばされて遥か後ろの木に突き刺さっている。


「これ以上は動かないで」

 そう伝えると、冒険者はやけくそな表情で叫んだ。

「こ、殺せ! 一思いに踏みつけろぉ!」

 僕は小さく息を吐いた。

「断るよ。僕には君を殺める理由がない」


 その言葉を聞いた冒険者は、愕然とした様子で僕を睨んできた。

「……俺はこれでも、まじめに冒険者をしている。お前の身体に剣を突き立てて殺そうと思っていた……なのに、お前にとって俺は……殺すにも値しない存在ということなのか?」

「君にどんな理由があったにしても、僕が殺したくないと思うのだから殺さない」


 今の言葉を伝えると、冒険者は力なくつぶやいた。

「つまり、お前にとって俺は……飛んできた蚊ほどの価値もないという……ことか……」

 更に脱力した雰囲気で冒険者は笑った。

「殺されるよりもひどいよ……こんなの……殺すことなく相手の心をズタズタにする悪魔……」

 冒険者は涙目になった。


「……だけど、俺の心は……ミスターブレイブは折れないぞ。また、もっと強くなって……お前を叩き潰す!」

 冒険者は一方的にそう宣言すると、僕の前から立ち去っていった。

 正直に、迷いなく向かって来れる彼が羨ましいと思えた。僕にはまだ戦うべき理由というものがはっきりしない。彼はいずれはもっと強くなって、僕の前に現れるだろう。


 いや、僕はそれまで……生き延びることができるのだろうか?

ブレイブファイター

固有ギフト:

ブレイブファイター C  ★★★★

弱気になった味方に言葉をかけることによって、闘志を燃え上がらせる能力。声の届く範囲全ての味方に対して有効という有用な能力だが、まだまだレベル不足のためグレードは低め。



近距離戦      C  ★★★★

魔法戦       E  

飛び道具戦     D  ★  

マジックシールド  C  ★★★

防御力       C  ★★★★

作戦・技量     C  ★★★

索敵能力      C  ★★

行動速度      C  ★★★

勝利への執念    B  ★★★★★  

経験        C  ★★★  



一言:

単身で主人公ショーマに挑戦してきた者。冒険者のプロ試験に3度落ちており、現在は冒険者浪人となっている。

どうやら、小学校と中学校は地元の学校を卒業し、高校は冒険者科に在籍していたようだが、夢のプロ試験に合格するまでは、フリーターとして筋トレに打ち込む日々を送っているようだ。

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