4.人外vs人外
3時間ほど休んだとき、何やら不気味な視線が自分に向けられていることに気が付いた。
どこからだろう。耳をゆっくりと動かしたが、特に気配はない。
考え過ぎだろうかと思ったが、角が少し光ったので目を開けてみた。
すると角が細い光である場所を指し示している。その場所は岩場なのだが、よく見ると誰かが視線を向けてきていることに気が付いた。
ダンジョンの中にダンジョンゲートが出現するのか。
ゲートの先から、視線を送ってきているヤツがモノを投げようとしていたので、水塊を放ってみると「ぎゃあ!」という音と共に、何かが転倒する音が聞こえてきた。
立ち上がると、転がっていたのは転がっていたのは魔族を思わせる女で、手元には細工をされた縄が落ちていた。
「誰だ?」
魔族の女は、顔に付いた水滴を払いながら起き上がった。
「あなた……とても苦悩にまみれた顔をしていますね」
僕はじっと女を睨んだ。ろくでもないことを考えていることは明白だ。
「でも大丈夫です。神はいつでもあなたを受け入れます」
思い出した。確か人外の中では、様々な邪教が流行っているという噂がある。そんなものに関わったら最期。骨の髄までしゃぶりつかれることは間違いない。
「神? そんな者の助けなど必要ない……我こそが神だ!」
そう切り返すと、今度は魔族のような格好をした女の方がポカンとしていた。どうだ。こっちの方が一枚上手だとわかっただろう。さっさと帰れ!
そう思っていたら、この女……なんてかわいそうな人。きっと差別のされ過ぎで頭がどうかしてしまったのね。と言いたそうな顔をしてやがった。
「貴方はきっと悪い霊にとりつかれているのです。怖がらずにいらっしゃい……神は必ずあなたを幸せにしてくれます」
僕は、冗談じゃないと思いながら切り返した。
「悪い霊にとりつかれているのはお前の方だ、現在に蘇った一角獣を侮辱するな小娘!」
一角獣だから神。我ながら上手くこじつけたと思う。頭のおかしい相手を黙らせるには、その3倍は頭のおかしい奴だとわからせるに限る。
僕の狙いは功を奏したのか、女も恐々とした表情をした。
「これは……重症のようですね。こうなったら……縄の神キンバークの名において貴方を拘束し、神の力によって浄化し、手綱を付けたいと思います!」
か、完ぺきに……ヤバい宗教じゃないかそれ!
「しばくぜ……ひょおぅぅぅぅぅぅう!」
急に奇声を上げはじめた魔族女は、縄を持ったまま特攻してきた。
「狂ったのなら……殴って正常化だ。昔の家電のように!」
そう思った僕は、まずは角を光らせて水塊を女の顔面に放つと、女の前には目に透明な壁のようなものが現れた。
――マジックシールド確認
角の解説によると、この透明な壁はマジックシールドという代物で、冒険者や魔獣の身体を守るバリアのようなものらしい。
なんだかうざいものが出てきたと思いながら、連続的に水塊をぶつけていると、やがてマジックシールドがヒビだらけになって崩れ、女は顔面に水塊を受けて転倒した。
僕は止めと思いながら「馬っ気だーーーーーー!」と適当な叫び声を上げた。
すると、女は叫び声をあげながら逃げ出していく。カムバックだかハンバーグだか知らないが、そういうヤバいカルト教団に関わる気はない。
「はぁ……気が休まることがないなぁ」
そう言いながら、再び体を休めた僕だったが、一人になると風が木々を揺らして、夜の静けさだけが周囲を包んでいることを実感した。
考えても見れば、こんな孤独な生活を人外と続けているのだとしたら、おかしな宗教くらい出てくるのは当然かもしれないと思えた。
それくらい、孤立無援の状態というのは精神的に堪える。
眠気もないため起きて草を食んでいると、表の雑木林から足音が聞こえてきた。
また、冒険者が偵察しているのだろうか。今度はどんな奴だろう。そう思いながら耳をそばだててみると、1人しかいないことがわかった。
しかも足取りも、あまり強そうには感じないし、どこか頼りなく思える。
「……偵察係を脅かせば、容易に雑木林に近づくこともなくなるかな。試しに近づいてみるか」
ダンジョンから雑木林に出ると、歩いていたのは少女……それも人外と呼ばれる人だった。
キンバークのしもべ(女)
固有ギフト:
デーモン化 B ★★★★★★
硬い皮膚と、いつまでも老いない身体、コウモリのような翼と、サソリの尻尾が生える能力。もちろん世間からは人外とみなされる。
近距離戦 C ★★★
魔法戦 B ★★★★★
飛び道具戦 D ★
マジックシールド C ★★★★
防御力 B ★★★★★
作戦・技量 B ★★★★★
索敵能力 C ★★★★
行動速度 B ★★★★★
勝利への執念 B ★★★★★★
経験 C ★★★★
好きなモノ:縛ること、縛られること
嫌いなモノ:縄の在庫切れ
使用可能スキル:飛行、緊縛
一言:
縛ることも縛られることも好きという、少しどころでなく変わった趣向を持つ少女。
ヤバい宗教にはまっており、自分の体に飾り縄をつけることで能力を上昇させるという、主人公もドン引きする能力を持っている。
真夜中のダンジョンで、こんな少女が自縛プレイで楽しんでいるところを目撃したら、大抵の冒険者は悲鳴を上げて逃げ帰るだろう。