3.ダンジョン内の煽り合戦
どうしよう。そう思いながら僕は後ろに下がったが、足音は少しずつ近づいてきた。
こうなったらもう覚悟を決めて飛びかかるしかないだろうか。だけど、本能的に人間が怖い。まるで昼間に葬式ごっこをしてきたクラスメイト達が、刃物を手に迫ってきているかのようだ。
僕は更に雑木林の奥へと逃れたが、ここを目掛けて追っ手は迫っている。
それだけでなく、けたたましいサイレンの音と共にパトカーまでやってきた。本当にこの世界は僕を否定しているんだと思う。それこそ、今すぐに存在を消すと言わんばかりだ。
バタンというパトカーのドアが開く音が聞こえてきたら、声も聞こえてきた。
「相手は危険な魔獣だ……見つけたら構わん、射殺しろ!」
「はい!」
もはやこれまでか……。
そう思ったとき、角が不思議な光を放った。
角の先から現れた一筋の光は、木の根元へと向かっている。何だろう、この光はいったい何を伝えようとしているのだろう。
その直後に「いたぞ……!」という声と共に懐中電灯が向けられた。
身の危険を感じた僕は本能的に駆け出すと、木に正面からぶつかって……なかった。
「……!?」
木に突っ込んだはずの僕は、初めて見る樹海の中にいた。
その直後に銃声が響いたが、僕の脚を掠めただけでまだ走れる。とにかく突然出てきた樹海の中を駆けると、人もまたこの空間に乗り込んできたことがわかった。
「こ、これは……ダンジョンじゃねえか!」
「くそ……追え、逃がすと厄介だ」
冒険者たちは迷わず僕を追ってきたが、後からやってきた警察官たちは愚痴った。
「くそ……ここだと拳銃の威力がオモチャになるんだよな」
「警棒でもなんでも使え。人外を取り逃がすと面倒だぞ!」
無我夢中で走っていくと、ダンジョンにも行き止まりがあるという、ごく当たり前なことを僕は理解した。確かに延命にはなったかもしれないが、このままじゃ後がない。
「戦うしかない……」
そう言ったが、僕は元中学生だ。
相手は魔獣を倒すことを目的に訓練している冒険者に、補佐役の冒険者学校の学生が2人。それとは別に拳銃などを持っている警察官までいる。
これ以上は逃げられないと思ったとき僕は、これ以上逃げる必要はないという気持ちになった。やけくそになったのだろうか。いや、なんとなくだけど……この場所に立っていると、何だかボスキャラになった気になる。
「そういえば、あの手紙にもボスエリアを目指せと書いてあったな」
最初に現れたのは、プロ冒険者のバッジを付けた戦士と学生2人だった。
「やっと追い詰めたぜ……クソウマヤロー」
「いや待て……ここはボスエリアだ。気を引き締めないと返り討ちだぞ!」
「どうして僕を追う!? 僕が何をした!」
そう聞き返すと、プロ冒険者は残忍な笑みを浮かべた。
「わかり切ったこと聞くんじゃねえ。てめえら人外がダンジョンに逃走した時点で魔物と一緒なんだよ。俺様たち冒険者は……テメーらのような存在を駆除するためにいる!」
「駆除駆除いうんじゃない……そんな冒険者なんて叩き潰してやる!」
プロ冒険者が剣を構えると、僕も対抗するように角を構えた。
このままでは殺される。だけど、こんなことで死んでたまるか。そう自分に喝を入れながら敵を睨むと、どうしたことだろう。力が湧いてくる。
「…………」
僕は今まで誰かを殴ったこともなかったが、こうやって角を構えると、何年も剣道か何かをやってきたように思える。
近くにいた学生冒険者も武器を構えたが、プロ冒険者は構えたまま一歩も動かなくなった。
「な、何だコイツ……まるで隙が無い」
プロ冒険者は、苦々しい顔で言った。
「こいつ、遂に本物のモンスターになりやがったか……気を付けろお前ら!」
「モンスターはお前たちの方だ! 弱い者いじめの専門家がぁ!」
言い返すと、プロ冒険者は苛立った様子で叫んだ。
「この……ふざけやがって!」
「ぶっ潰せばいいんですって!」
学生のひとりが槍を突き出してくると、僕は目を大きく開いて左前脚で地面を強く叩いた。すると、水塊が飛び出し、学生冒険者の顔面にぶつかって藪の中まで吹き飛ばした。
「てめえ、このウマヤロォ!」
もう一人が斧を振り上げると、僕は今度は右前脚で地面を叩いた。同じように水塊が学生冒険者の顔面にぶつかって、こちらも低木に突っ込んでジタバタと暴れていた。
「弱いクセに偉そうに、まずはザコになってからモノを言え!」
その直後にプロ冒険者が斬りかかって来ると、僕は角で攻撃をいなした。
「くそ……なんだコイツは!? 俺は……プロ5年目だぞ!?」
わずかな隙を見つけた僕は、左前脚を蹴り上げると、プロ冒険者の体勢を崩すことに成功した。
続いて角を光らせ、正面に水塊を放ってプロ冒険者の顔面にぶつけた。
「ごぼはっ!?」
「弱い者いじめを5年もしてきた動きだ……よくわかるぞ!」
プロ冒険者が目を潰しているうちに、一気に畳みかける。
僕は再び左前脚を蹴り上げて、脇に一撃を加え、冒険者が目元をいじっている隙に、更に角から水魔法を放って、プロ冒険者の顔面に水塊をぶつけた。
冒険者は横転すると、僕は左前脚の蹄を冒険者の鼻先につけた。
「ま、参った……や、やめてくれぇ……殺さないでぇ……」
「虐められる人間の気持ちが、少しはわかったか!」
警察官2人が姿を見せると、彼らは返り討ちに遭った冒険者たちを見て愕然としていた。
「早く、不法侵入者たちを連れ帰って!」
そうまくしたてると、警察官たちは冒険者たちを連れて立ち去っていった。
冒険者たちの気配がなくなると、僕はやっと体中の力を抜くことができた。
これでとりあえず、安心して休むことができるだろうけど、どうにか逃げ道を見つけておかなければ、すぐに新手が出てくることは明白だ。
ゆっくりと身体を休めてから、これからのことを考えよう。
こうして、やっと休息をとることができたが、捕食者は人間社会だけではないということを、この時の僕はまだ知らなかったのである。
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次回は、性格が少しアレな、人外キャラクターとの戦いです。
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