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14.翔馬に付いた通り名

 僕が入口に向かうと、そこには確かに冒険者が座り込んでいた。

 顔色が悪く、身体からは血の臭いがする。どうやら出血しているらしい。


 その冒険者は、こちらを見ると警戒した様子で険しい顔をしていたが、僕はすぐに話しかけた。

「怪我の様子を教えてください」

 冒険者は、自分の肩を睨みながら答えた。

「魔物との戦いで肩をやられた。骨に異常があるかもしれん……」


 僕は冒険者の肩に角を近づけると納得した。

 確かに重傷と言うべきケガだ。この状態で魔物に戦いを挑まれれば、抵抗も出来ずにやられてしまうだろう。


 ただ、今の状況を難しくしているのが、僕のような人外と、冒険者は敵同士ということだ。

 治療すれば、彼が僕やハルカにいずれ危害を加えてくるかもしれないし、かと言って見殺しにしても、それはそれで後味が悪い。


 さて、どうするべきか。

 ミニユニコーンを見ると、彼もまた困った顔をしている。なるほど、たしかにこれは判断に困る話だ。

 ここはオリジナルである僕が決断するしかない。


「…………」

「…………」


 ここにわざわさ冒険者が来たということは、雑木林には別の人外。それもかなり好戦的な奴が徘徊している可能性が高い。匿った時点で敵対する危険性がある。

 さらに、僕は人間そのものには危害を加えられたが、彼自身には何もされていない。

 そのうえ、治療能力は使わないと向上しない。


 出た結論は、治療すべきである。

「じっとして……」

 そういいながらヒーリングをかけると、プロ冒険者は驚いた顔で僕を見ていた。

「!? 人外が……なぜ?」

「運がいいことに、僕は仲間に恵まれてね……こうやってけが人がいたら治癒術をかけていかないと、技術が向上しないんだ」


 ユニコーンの光で痛覚の軽減と、傷口を消毒。

 次に免疫能力の強化を行って体内に入り込んだ雑菌への対策。骨の異常……なし。

 さらに内出血の処置。傷んだ筋肉のケア。皮膚や血管や神経など重要な器官の修復。ここまで治療を施すと、さすがの冒険者の免疫機能にも疲れが見えはじめた。

 僕はここまでだなと思いながら頷く。


「ここまで応急処置をすれば、後遺症も残らないと思う。後は念のため病院で診てもらってほしい」

「ありがとう……だが、どうして治療を? 僕は君から見れば危害を加える存在のはず」

「さっきも言った通り、ヒーリングは使わないと上手くならない。それに……貴方はまだ僕に危害を加えてはいない」


 そう答えると、その冒険者は唸った。

「僕は冒険者……レジストデーモン。君の名は?」

「府中翔馬」

 そう答えると、彼は苦笑した。

「そうか……まだ君はダンジョンの住人になったばかりだから、通り名がないんだな」

 彼はじっと視線を上げた。

「ならば、碧眼の角端……と呼ばせてもらおう」


 あおめのかくたん。

 どうやら彼は碧という、青緑色や深い青を意味する言葉を使っているようだ。

 だけど、かくたんとはどういう意味だろう。きっとダンジョンにいる人外だから、怖いものを象徴するような言葉なのだろう。

「素敵な名前をありがとう!」

 そう伝えると、レジストデーモンは笑顔になった。

「ダンジョンの中には、異世界に通じるモノもあるという。君ほどの力の持ち主なら、未知のモノを発見できるかもしれないね」



 レジストデーモンを見送ると、俺はハルカと一緒にボスエリアへと戻った。

 すると、そこには先日と同じように手紙が置かれて、中を開くと……差出人は例によってヒーロースレイヤーと名乗る者からだということがわかった。

 ハルカも固唾を飲んで見守る中、僕は中に目を通してみた。


 翔馬にとってのヒーローとは何かと、奴は今回……問いかけだけを残していった。


 一般的に見れば、弱い人々を守って平和をもたらすものがヒーローである。送り主がヒーロースレイヤーだけあり、なかなかに踏み込んだ質問だ。

 隣を見ると、ハルカは困った顔をしながら僕に視線を向けていた。難しい問いかけだけに困惑しながらも、僕がどう答えるかを知りたがっている……そんな感じがする。


「前にも話した通り、ヒーロースレイヤーは……僕の母親をさらっている。そして、奴はヒーローという存在が許せないと手紙に書いていた」

 ハルカは頷いたので、僕は手紙を睨んだ。

「奴だけじゃない。世間も……言葉にとらわれ過ぎている。不気味な見た目だけに惑わされて、人外というレッテルを貼って多くの人を差別し、テレビでしか見たことのない強そうな人を英雄と呼んですがりつく」

 自分でも驚くほど、声が低くなっていた。

「英雄や悪魔という言葉は、人の思考を単純なものにする……」

 ハルカは不安そうな顔をしていた。もしかしたら、僕が暗く絶望的な答えを口にすると思っているのかもしれない。


 だからこそ、僕はまっすぐにハルカを見た。

「だから僕ははっきり言うよ。ヒーローとは……希望を絶たれて立ち上がれなくなった人を、再び立ち上がらせる……勇気づけられる人。本物の英雄になれる人は……まず自分自身を救い出せる」


 その言葉を聞いたハルカは、瞳を大きく開いたまま僕を眺めていた。

 彼女の大きな瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちると……僕は慌てた。


「ご、ごめん……世の中のことがわかってないくせに、偉そうなこと言って……」

「いいえ、違います……」

 彼女は、まっすぐに僕を見た。

「きっと、本物の英雄も……同じことを言うような気がしたんです」


 どちらともなく近寄ると、僕とハルカは抱きしめ合った。

 特に理由があったわけではない。ただ感情が高ぶってしまったから、なんとなく一緒にいてくれるハルカが恋しくてたまらなくなったんだ。彼女も……きっとそうだったんだと思う。

 彼女は目を細めると、そのまま僕の唇に自分の唇を重ねてきた。

「…………」

「…………」


 ウマの形になってしまったから、こんなことをする機会は絶対にないと思っていた。だけど、違った。僕を見てくれている人がいる……こんなに側で、彼女のことを感じられる。

 そう思うと、目尻からは涙があふれ出した。それらは、地面へと降り注ぐと……僕のダンジョンに一筋の光が差し込み……

「…………」

「………!」

 セーブポイントと呼ばれる空間が出現していた。

ハルカ

固有ギフト:

サモンガーディアン B  ★★★★★★

土と自分のオーラを合わせることで、ガーディアンを作ることができる。その性能や強さは作り手のレベルに比例して上がっていき、より強いオーラを込めることで強力で頭のいいガーディアンを作れる


分身製作サポート  A  ★★★★★★★★

側にいるだけで、仲間が分身を作り出すことを可能とする。主人公ショーマがミニユニコーンを作れたのは、彼女のサポートがあったおかげである。



近距離戦      C  ★★★★

魔法戦       B  ★★★★★★

飛び道具戦     D  ★  

マジックシールド  B  ★★★★★★

防御力       C  ★★★

作戦・技量     B  ★★★★★

索敵能力      B  ★★★★★★

行動速度      C  ★★★

勝利への執念    C  ★★★★ 

経験        D  ★★


好きなモノ:フィギュア作り、編み物、あやとり、デッサン、料理(指先を使う作業全般)

嫌いなモノ:遊びグセの強い男子、うるさくて知性のない男子、パーソナルスペースを侵害する男子(イケメンも不可 ※ただしショーマは除く)

使用可能スキル:錬金術(石英からクリスタル、樹液から琥珀を精製することが可能)



一言:

セーブポイントの出現によって使える魔法が増えただけでなく、近づいた敵に鱗粉を吸わせて軽度のアレルギーショックを引き起こすことができるようになっている。

具体的には涙目になったり、クシャミが止まらなくなるという戦闘能力に影響の出る類のものだ。また、製作できる魔物型ガーディアンの数も増えたため、より確かなサポートを行えるようになっている。

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