13.温泉エリア発見
僕の分身であるミニユニコーン1号は、ため息を付きながらダンジョンの出入り口を見ていた。
そこには、虫取り網や虫かごを持った、近所の子どもたちの姿がある。
「だからね。ここから先は、毒ヘビとか、イノシシとか、クマとか、ユニコーンがいるから入ったら危ないの!」
子供のひとりが反論した。
「なんでお前は良くて、ぼくたちはダメなんだよ!?」
「僕にはゴブリンという護衛がいるから」
「ボクたちだって、4人もいるぞ!」
「ダメなものはダメなの! 家で大人しくゲームでもしてなさい」
「なんでオマエがゲーム知ってるんだよ?」
「狡猾で、獰猛で、陰湿で、残忍なモンスターだから」
「むずかしい言葉を並べれば、ボクたちがなっとくするとでもおもったか?」
「ゴチャゴチャいってると、お母さんと学校の先生に言いつけるよ! 人外と話をしたらいけませんって言われなかったの?」
「そんなのがこわくて、ワルガキやってられるかー!」
「そうだそうだー!」
「そういうこと言う悪い子には……仔馬ビーム!!」
そう言いながらミニユニコーン1号が角を光らせると、近所の子供たちは一目散に逃げ出した。
【お疲れ様。初号機】
そう彼を労うと、ミニユニコーン1号はため息をつきながら木に寄りかかった。
「最近の子供たちは、本当に知恵が回るから追い返すのが大変だよ」
【そうだね。僕が子供の時はダンジョンなんて怖くて近寄れなかったくらいだ】
その直後に、ミニユニコーンは耳をピクリと動かした。どうやら新手がやってきたようだ。
「今度は金属バット持ちの不良中学生たちか……」
今までは退屈そうに頬杖をついていたゴブリンたちも、相手が不良中学生たちとなると、一瞬で身構えていた。
相手が最初から実力行使で来ると話も早い。
ミニユニコーンは、テキパキとゴブリンたちに指示を送りながら、水魔法で相手の目を潰し、近接系のゴブリンが中心となって、不良中学生たちを袋叩きにした。
今日は来客が多く、30分後にはプロの冒険者が手下を率いて乗り込んできたが、叩きのめした不良中学生たちを見せると、渋い顔をしながら彼らを回収していく。
「プロ冒険者って、本当に便利だね」
【ははははは……】
笑っていたら、ミニユニコーン2号から連絡があり、1号と交代することが決まった。
こうして疲れた部隊を後方に下げられるのはいいことだが、さすがに2交代では何か大きな被害が出たときにやりづらい。
――――――――
――――
――
―
ちょうどハルカも僕ことオリジナルを見たことだし、少し相談してみることにした。
「ミニユニコーンの3頭目って作れるかな?」
彼女は僕の頬に手を当てたまま目を瞑ると答えた。
「……今の状況ではまだですね。もう少しダンジョンを大きくしないとダメなのでは?」
「な、なるほど……」
僕はハルカと共にダンジョン内を見て回ることにした。
前は、入り口とボスエリアの中腹くらいに宝箱付きの広場を見つけたけれど、今度はどのあたりを調べればいいだろうか。
ん、角がいま光を放った。
「……この臭い……もしかして」
角を頼りに進んでいくと、今まで単なる茂みだと思っていた場所には、獣道が隠れていることがわかった。その先を進んでいくと硫黄の臭いがより強くなり、岩ばかりの川原へと出た。
「これって……」
岩肌からは湯気とお湯が沸き出し、その熱湯は泉となって溜まりながら川へと流れ落ちており、少し工夫して川の水を加えれば丁度よい温度になりそうだ。
「ここを整備したら……後で入ろうか?」
そう提案すると、ハルカは嬉しそうに微笑んでいた。
「そうですね」
2人で笑いあっていると、ミニユニコーン2号がテレパシーを送ってきた。
「……どうしたんんだい?」
【大変だよオリジナル。大怪我をしたプロ冒険者が……保護を求めているんだ】
「え……?」
僕はハルカを見ると、ここを彼女に任せて、すぐに現場に急行することにした。
【ダンジョンの種類】
ダンジョンには様々な空間があり、翔馬の守護している森林エリアにさえ、幾つかの種類がある。
ダンジョンのマスターとなった者の力量が上がると、ダンジョンそのものも進化し、複数の地形を持つような場所や、異空間に直接つながるように代物となる場合もある。どのような最終形態となるかは、マスターの人格次第だ。
森林エリア
日本に発生するダンジョンでは雑木林タイプが多いが、中には針葉樹林タイプや、亜熱帯のジャングルに通じる場所もある。
山岳エリア
大抵の場合は森とセットで登場するが、高低差が多く疲れやすい。場所によっては天候も変わりやすくなるため冒険者の多くが山岳エリアを嫌がる。
河川エリア
森林エリアに多く出現する。特徴は水分をいつでも補充できることだが、対岸に行くことに苦労したり、モンスターの出現率が高いという有り難くないところもある。
洞窟エリア
山岳エリアに多く出現する。視界が利かないうえに、中には獣や魔物が住んでいることが多く、冒険者の多くが身構える場所。ゴーストやゾンビといったアンデッドも出現しやすい。
荒野エリア
日本では比較的珍しいエリア。わずかな植物が生えているだけで、ほどんどが赤土と岩ばかりという場所。冒険者にとっても人外側にとっても過ごしづらい有り難くない場所。
廃墟エリア
市街地に出現することがあるエリア。人間系の人外キャラクターにとっては有難く、一般人にとっては最も身近に出現する魔境である。市民団体はこのエリアの出現を警戒し、人外となった人間を追い出す。
異空間エリア
どこに出現するかわからない謎の多いエリア。七色の光が歪んだまま停滞し、全ての時間が止まっているとも、逆にいびつな動きをしているとも言われる。一度入ったら二度と戻れない場所とも……