11.3日目の朝
ゆっくりと目を開けると、ダンジョンという異空間にも朝日が差し込んでいた。
それを見て、ああ僕たちはまだ生きているんだと実感がわいてくる。考えてもみれば、こんな気持ちで朝日を見つめたことがあっただろうか。
しばらく朝日を眺めていたら、側で寝ていたハルカも起きた。
「……おはようございます」
「おはよう。よく眠れたかい?」
そう聞くと、彼女は伸びをしながら半目を開いてブサイクな顔をしていた。こんな表情もするのかと何だか可笑しくてわらってしまう。
「私の顔……そんなにおかしいですか?」
「うんおかしい。僕の次くらいにね」
そう冗談を言うと、彼女はクスッと笑った。
「せっかくだし、こういう顔をしたガーディアンでも作りますか?」
「いいや。これは僕だけが知っていることにしたいな」
そう伝えると、彼女は恥ずかしそうで嬉しそうな顔をしていた。
「ショーマさんがそういうのなら……」
間もなく彼女は起き上がると、近くに生えている野草を見ながら言った。
「そういえばショーマさん、少し思いついたことがありまして……」
「なんだい?」
「見ていてください」
彼女は野草に両手をかざすと、少しずつ草が成長していった。
「こ、これ……」
「大地系の魔法を、少し応用してみました」
僕は凄いと思いながら、ハルカの伸ばした草を眺めていた。
今までは半年後にやってくる冬をどう乗り切るかが問題だったけれど、彼女さえいれば何も不安はない。
「味見してみますか?」
「うん……」
食べてみると普通の野草と同じ味だった。
「凄いよ! 自然と育った野草と同じ味だ……これほどのことができるなんて、さすがだね!」
思ったことをそのまま伝えてみると、彼女は嬉しいけれど恥ずかしそうに顔を赤らめていた。こういう表情もするのだから、やはり可愛いものだ。
十分に食事を終えると、ハルカは僕を見た。
「毛を頂けませんか?」
僕は頷くと、たてがみの毛と尻尾の毛を彼女に抜いてもらった。それだけでは何なので、僕自身のオーラも角へと集めてみる。
「ショーマ……さん?」
「僕のオーラ……MPの一部だよ。役立てて」
ハルカが両手を差し出したので、僕は角をゆっくりと下げて彼女にMPを渡した。
彼女は僕のMPを持ったまま地面へと手を下ろして行き、土を練り込んで僕の分身を作り出していく。
すると、以前と同じ仔馬サイズのユニコーンが出てきた。
しかし、以前とは比べ物にならないくらいオーラが身体……特に頭の辺りに現れている。彼は首を動かしたり、軽く辺りを歩いたり走ったりしながら、体の性能を観察しているようだ。
「……ハルカさん、もう少し関節部が滑らかに動くように調整してくれない?」
「は、はい!」
その喋り方や動きは、まるで僕を縮小コピーしたかのようだった。
小さな僕は調整を終えると、再び歩いたり走ったりしながら動作チェックをすると、今度は角を光らせてから僕を見た。
「オリジナル。もう少しオーラを僕の角に分けて欲しいな」
「わかった」
角を少しだけ光らせると、僕は分身にMPを先ほどの3分の1ほど分け与えてみた。
「……これで十分だね。やることは入り口の見張りかい?」
僕は頷いた。
「ああ、ゴブリンを数匹護衛につけるから……敵冒険者の足止めと、子供が侵入した時の時間稼ぎをお願い」
「わかった」
ハルカも頷くと、ゴブリンを1匹ずつ作りはじめたが、すぐにミニユニコーンが口出ししてきた。
「ハルカさん。ゴブリンたちにこん棒やバックラーとか、弓矢を装備させることって……できない?」
「やってみるね」
ハルカはゴブリン型ガーディアンを作ると、枝を材料にこん棒を作り出した。
ガーディアンを作る技術がある彼女にとって、こん棒を作るくらいなら朝飯前のようだ。ミニユニコーンも喜んでいる。
「ありがとう! 前の戦いでは……噛みつきしかできなかったからさ……これじゃあ通用しないと思ってたんだ」
その言葉を聞いておや……と思った。
「ねえ、もしかして君……前のユニコーンの記憶を……?」
そう質問すると、ミニユニコーンは頷いた。
「うん、前に壊れたのも僕だよ。僕の本体はオリジナルの中にあるから……たとえ倒されてしまっても、記憶自体は引き継ぐことができるんだ」
それは凄いことだと思った。たとえ敵に壊されても失敗として彼の中で記憶が残るのなら、その失敗を糧に更に強く賢く立ち回れることとなる。
「それに、僕の経験は君の中で蓄積される。だから……どんどん分身である僕を出して活用してほしい」
僕は満足しながら頷いた。
間もなくハルカは注文通りに、こん棒とバックラーを持ったゴブリン3匹。弓矢やナイフを持ったゴブリン2匹を作り出した。
「じゃあ行ってくるよ」
「頼んだよ!」
そう言いながら見送ると、ミニユニコーンはゴブリン5匹を連れて入口へと向かった。
編成自体は、前に送り出した時と同じだが、ゴブリンは武装しているし、ミニユニコーンも前とは比べ物にならないくらい賢くなっているし、水系魔法を使えるくらい魔法力も高まっている。
実際に彼らがどれくらい強くなったのか気になるところだ。
彼らを送り出して1時間ほどが経つと、遂にテレパシーが送られてきた。
【敵冒険者が侵入! 戦士2、弓使い1。これより迎撃する!!】
【幸運を!】
ミニユニコーン
固有ギフト:なし
翔馬が作り出した自分の分身。自動的に戦況を判断して手下のモンスターに指示を出す。
近距離戦 C ★★
魔法戦 C ★★★
飛び道具戦 E
マジックシールド C ★★★★
防御力 D ★
作戦・技量 C ★★★
索敵能力 B ★★★★★
行動速度 C ★★★★
勝利への執念 C ★★
経験 D ★
体重:50キログラム 肩までの高さ:85センチメートル
使用可能スキル:命令、テレパシー(同一ダンジョン内に有効)、ナイトビジョン
一言:
ハルカの作り出したボディに、ショーマのMPを練り込んで改良した分身。
作戦や索敵能力が上昇したのに加えて水魔法を使えるようになっている。また、これ自体を倒しても本体のショーマがいる限りは何度も出て来るし、経験も蓄積されていくという、人間側から見れば厄介な存在。