10.2人だけの夜(後編)
すっかり眠りについた僕だったが、隣で寝ているハルカが寝返りを打ったことで起きた。
いや、正確に言えば僕の胸部に抱き着いてきたのだ。今は5月だから、今日のように夜に冷え込む日もある。
僕のような一角獣はウマと体温は同じだ。人間よりも1度から2度ほど高いので、寝ぼけた彼女にとっては、丁度よい湯たんぽなのだろう。
そっと前脚を彼女に近づけて、抱きかかえるような格好になると、彼女は満足そうに寝言を口にした。
何を言っているのかはよくわからないが、相変わらず寝顔が可愛い。
そう考えて幸せに思っていたら、風が吹いて枝葉を不気味に揺らしはじめた。なんか、幸せな一時を邪魔されたような気分になる。
いや、邪魔された気分ではなく……実際に邪魔をしてきているんだ。森の中の一角に、人の影のようなものが見える。
だけど人ではないものだとはっきりとわかる。なぜわかるのかと言えば、人間のにおいが全くしないからだ。
僕はゴーストか……と、心の中だけでつぶやいた。
目を瞑って気づかないふりをしていても、向こうも僕が気づいていることを察しているのだろう。命ある僕やハルカを恨めしそうに睨んでいる。睨んでいるが襲ってこないのは、僕の角の霊力で消し飛ばされてしまうからだろう。
何だか、そのことがわかると、無性に怒りが込み上げてきた。
僕が細やかな幸せを感じることも許さないと、この世界は言っているのだろうか。確かに僕はまだまだだ。
だけど、この幸せなひと時を守るためなら、僕は本物のモンスターにだってなる。
そう固く心の中で誓うと、その影は舌打ちでもしたそうに踵を返すと、そのまま立ち去った。
やっと邪魔者が消えたか。そう思いながら、僕はゆっくりと目を瞑った。
安心すると、まどろみは徐々に濃くなってきて、いつの間にか頭の中を包み込み、僕は夢の中に入ったことを理解した。
自分という湖のなかを深く潜っていくと、水中から一つの光景が浮かび上がってきた。
そこでは、僕の葬式が行われていた。
クラスメイトたちは、教壇に立てられた僕の遺影を見て、嘲り笑い、罵り、側にいた本物の僕を無視している。
そこに担任がやってきて、僕の遺影には目もくれずに出席を取りはじめた。
次々とクラスメイトの名前が呼ばれるが、僕の名前は飛ばされて次の生徒の名前が呼ばれていく。
まるで、僕は最初から存在していなかったかのように、クラスメイトたちは振る舞っている。
じゃあ、ここにいる僕は誰だ?
そこの遺影は何のために立てている?
こんなことをして、何が楽しい?
キリキリと胃が痛み始めたとき、僕の身体を揺すりながら、呼びかける声が聞こえてきた。
「ショーマさん!?」
「…………!」
目を開けると、ハルカが心配そうな表情で僕を見つめていた。どうやら、うなされていたようだ。
「ありがとう……心配をかけたね」
そう言いながら再び瞳を閉じたが、夢の中へと入ると……同じように僕の頭の中には、家の前に貼られた誹謗中傷の張り紙の山が出てきた。
人々の暗く歪んだ視線が、どこまでも追ってくる。その手が無数に伸びて僕の身体にまとわりついてくる!
思わず泣きだしそうになったとき、僕を優しく抱きかかえてくれる手があった。
「今夜もこんなにうなされて……だけど大丈夫。決して独りではないよ」
そっと目を開くと、それはハルカであることがわかった。彼女は僕がうなされると、こうして抱き寄せて悪夢から僕を守ってくれていたのか……。
そう思うと、今までの辛かった記憶が山のようによみがえってきた。
家に戻ったら出て行けと書かれた紙が貼られていたこと。家に帰ったら母親がいなくなっていたこと。家の周りを大勢の人に囲まれて出て行けと言われたこと。それが僕が小さいころからよく知っている人たちだったこと。道行く人たちが冷たい視線を向けてきたこと。雑木林に隠れていたら、パトカーまで来て僕を殺そうとしてきたこと。
もう、僕はおしまいなんだと心の中で常に思ってきた。本当はつらかった。今にも泣きたかった。もう絶対に味方は誰もいないと思っていた。
だけど……味方はいた! たったひとりだけど……僕の側にいてくれる……
そう思うと、僕の目からは次々と涙がこぼれ落ちた。
目を彼女の太ももに押さえつけると、彼女はそっと僕を抱き寄せて、その涙を隠してくれた。
府中翔馬 男/牡 15歳/2歳馬
固有ギフト:
ウォーターホーン A ★★★★★★★
水の加護を得ることによって知力や精神年齢を上昇させ、穏やかな性格にする。
また、ユニコーンの基本能力と言えるヒーリングとキュアコンディションの効果量を増やし、消費MPを半減させる効果もある。
??????? ?
情報不足により仔細は不明。
近距離戦 B ★★★★★
魔法戦 B ★★★★★★
飛び道具戦 E
マジックシールド B ★★★★★★
防御力 C ★★★
作戦・技量 C ★★★★
索敵能力 A ★★★★★★★
行動速度 B ★★★★★
勝利への執念 C ★★★
経験 C ★★
好きなモノ:甘いモノ、子供
嫌いなモノ:ピーマン、セロリ
体重:450キログラム 肩までの高さ:160センチメートル
使用可能スキル:ヒーリング、キュアコンディション、350度監視、嗅覚1000倍、ナイトビジョン
一言:
エリアボスとして、追撃者たちを退けた主人公の能力。
まだまだ精神的に脆いところはあるが、少しずつ過去のトラウマを克服しつつある。彼が真に強くなるのは、これからだろう。