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10.2人だけの夜(前編)

 周囲もすっかり暗闇に包まれたとき、ユニコーンである僕は、角を光らせてボスエリアを照らした。

 夜の森というだけで不気味なのは当然として、何もしないでいると、蚊やアブといった虫が寄ってきて、ハルカを狙ってくるからである。


 彼女は僕の角の側で、食べられる草を千切ったりして食べやすい大きさに調整してくれている。

 僕は何だか、申し訳なく思いながら言った。

「今度、ダンジョンに温泉がないか探してみようかな?」


 温泉という言葉を聞いたハルカは、懐かしそうに何かを思い出していた。

「そういえば、温泉にはしばらく行っていませんね……一緒に入るのもいいかも……」

 その言葉を聞いて、俺は思わず顔を赤らめていた。確かハルカは同じ歳のはずだ。

 女の子と混浴なんて、それだけで……なんというのか……


 僕の様子を不思議そうに見ていたハルカだったが、やがて元々は同じ意味中学生だったことを思い出したのが、口元を隠していた。

「す、すみません……私ったら……」

 

 どうやら、僕のことを喋るウマだと思っていたようだ。そう思われるのも仕方ないコトかもしれない。

「いやいや、君に喜んでほしいと思ってるだけだから……とにかく、食事が終わったら一休みしよう」


 角を近づけながら、ハルカの料理をサポートすることにした。

 彼女は取った野草をきれいに洗って、僕の持ってきたバケツに盛ってくれた。タンポポ。オオバコ。ナズナ。ヨモギ……他にも様々な野草の青葉がバケツに入ると、それだけで幸せな気分になる。


 思わずうっとりとしていたら、ハルカは更に黄色いタンポポや青いスミレなどの花を飾ってくれた。

「あとは……これですね」

「そ、それは!」

 彼女はなんと真っ赤な野イチゴをいくつか盛り付けてくれた。基本的にあと2週間くらいは手に入らないはずだが、どこかに生えていたのだろうか。

 少し考えると、このなぞなぞも理解できた。

「もしかして……大地魔法を使った?」


 そう聞くと、彼女は少し笑みを浮かべて頷いた。

「はい。花をつけている苗に働きかけて、少し早めに実になってもらいました」


 僕はそっと鼻を近づけると、青菜のみずみずしい香りと、野イチゴの優しく甘酸っぱい香りがスッと鼻腔を通り抜けていった。

 ああ……何と幸せな気分だろうか。


「できました。ショーマさん」

「あ、ああ……いただきます」

「いただきます」

 2人で野草を口にすると、若葉の新鮮な風味が口の中に広がった。

 例えるなら、柔らかいベビーリーフと新鮮な春キャベツを細かくして、口の中で交じり合うような触感が近いだろう。微妙に振りかけている塩がアクセントになっているのが野草の旨味を引き立てている。


「美味しい!」

 そう言いながら笑うと、ハルカは恥ずかしそうに顔を赤らめた。

「そ、そう言って頂けると……嬉しいです……」

 再び野草を口にすると、今度は野イチゴが一緒に口に入り、甘酸っぱさが口中に広がった。

 不思議なものだと思う。この野イチゴが1粒あるだけで、先ほどの野草たちが違った風味を出し、また塩が違った感じのアクセントを生み出す。


 次々と箸を進めるように、僕は飼い葉にがっつくウマのように野草を食べていくと、いつの間にかバケツの中は空っぽになっていた。

「ありがとう……とても美味しかったよ」


 そう言いながら、思わず舌で口元についた塩分まで舐め取っていた。

 家から持ってきた塩はまだあるが、毎日使っていくといずれはなくなってしまう。そう思うと、ついこうやって1粒でも無駄にしたくないという気持ちになる。


 その様子を見ていたハルカは、申し訳なさそうに言った。

「そういえばうっかりしていました……」

「どうしたんだい?」

「人外として追い出される前に、塩とか食器くらいは家から持ち出すべきでした」

「それはしょうがないんじゃないかな。いきなり家族に追い出されたんじゃ……僕よりも立場が悪いよ。僕は一応、母親がさらわれたことくらいはわかったからね」


 母親がさらわれたという言葉を聞いて、彼女は目を丸々と開いた。

「そ、そんなことが!?」

「うん……詳しいことは後で話すけど、ヒーロースレイヤーとか名乗るヤツの仕業さ」

 僕はそう言いながら夜空を睨んだ。奴も今……この星のどこかにいるのだろう。

 まずは生き延びること。生きて力をつけることが必要不可欠だ。だけど、その前に……


 ハルカも食事を終えたところで、僕は大気から水分を集めて角から水を出した。これで彼女は、口をゆすいだり、顔などを洗えるようなる。

「ありがとうございます! 水があるだけでもありがたいのに、常に浮いている状態にして頂けるなんて……」

「もう、僕たちは友達なんだから、敬語は使わなくても大丈夫だよ」


 彼女は嬉しそうに笑うと「はい、わかりまし……」と、つい丁寧な言葉を使ってしまったようだ。

 やがて、横倒しになると、ハルカは僕の肩の上に頭を乗せてゆっくりと目を瞑った。

「おやすみ」

「おやすみなさい」


 幸せな気分のまま、僕はゆっくりと目を瞑った。これならきっと、いい夢を見られるだろう。

【作者からのお願い】

 ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

 【ブックマーク】や、広告バーナー下の【☆☆☆☆☆】への評価や、いいね、感想等を頂けるととても励みになります。


 序盤のエリアマスター潰し期間がひと段落したので、これからはダンジョン発展期へと話が移っていきます。

 続きが気になる……と思われたら是非、ご協力をお願いします!

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