9.鬼の襲撃
何とかプロ冒険者ブラックジンを追い返した、僕とハルカはゆっくりと腰を下ろした。
今回は彼女が隙を作ってくれなければ生き残れなかったかもしれない。そう思うと本当に彼女が来てくれてよかったと思う。
「ありがとう」
そう声をかけると、彼女は嬉しそうに笑った。
「よかった……私、役に立てたんですね!」
喜んでいる顔を可愛いと思っていたら、角が光を放った。
僕はハッとしてマジックシールドを展開すると、ハルカに飛んできたナイフを彼女の眼前で受け止め、ナイフは音を立てながら地面に突き刺さった。
「誰だ!?」
そう叫びながら攻撃のあった場所を睨むと、ダンジョンゲートが開いて鬼のような姿をした男が乗り込んできた。
「誰でもいいだろう。お前は間もなく俺様にぶっ潰されるんだ」
男はそういうと不敵に笑いながら襲い掛かってきた。
「何で僕とあなたが争わないといけない!?」
「殺し合いに理由なんているのかよ。弱肉強食……てめえの肉を食いたい……それだけで十分だろ!」
そう叫びながら男が拳を振り下ろしてくると、僕はマジックシールドで攻撃を防いだ。先ほどブラックジンがやったように、攻撃を受ける場所を補強すると、男の拳を受け切れた。
僕は左脚から水塊を放つと、鬼の顔面にぶつかって目つぶしをした。その間に蹴りといういつも通りの攻撃を加えたが、効き目があまりない。
「が、頑強だ……!」
先ほどの戦いでの疲れもあるのかもしれない。だけど、それ以上にとても硬いものを蹴ったような感触が蹄を通して伝わってきた。
「へっ……」
そう言うと鬼は笑った。
「攻撃が軽いねぇ……お前さん、さては相手を殺したくないとか思ってるだろ」
僕ははっきりそうだと思った。僕は傷つけられたくない。だから傷つけたくない。そう思いながら睨み返すと、鬼は見透かしたように笑ったまま睨んできた。
「聖人君子殿が相手で助かるぜ……じゃあ、遠慮なく肉にしてやるよ、そこの女ともどもなぁ!」
そう叫びながら鬼が向かってくると、僕は生まれて初めて憎悪という感情を感じた。ハルカは僕にとって、何よりもかけがえのない唯一の仲間だ。それを奪おうとする奴は……地獄に行け!
その直後に、角は青白い光を放っていた。
僕を守っていたマジックシールドは、左脚に集まるとしっかりと鬼を睨んだ。そして、お前を殺すとはっきりと意識して鬼の脇腹に一撃を見舞っていた。
「うごがっ!?」
攻撃を受けた鬼は錐揉みで飛ばされながら、頭から樹木に突っ込んでいた。
「今のは警告だ! 彼女に手を出したら……本当に殺すぞっ!」
鬼は口元から血を流していたが「へへっ……」と笑うと、再び起き上がった。
「上等……これくらいの力のあるやつじゃねーと、なぶり甲斐がないってもんだ!」
そう言うと鬼は、右手にオーラを集めはじめた。
「おいウマ……」
「なんだ?」
「俺様が好きなものは何だと思う?」
意外な質問だったので、僕はキョトンとしながら隣にいるハルカを見ていた。もちろん彼女も意味がわからないから教えてと言いたそうに僕を見ている。
鬼は能力で具現化した金棒を担ぐと僕を左手で指さしてきた。
「左利きキャラだよ!」
唐突なことを言われて僕は首を傾げていた。
「確かに僕は左利きだ。だけど……他にもたくさんいるはず……」
「それがいねーんだよ。冒険者ってのは人気の職業だが、その大半は右、ついでに人外連中もほとんどが右利き、ついでにそこの女も右利きだ」
そこまで言うと、鬼は金棒を僕に向けてきた。
「だから、貴重な左利きウマ……テメーは俺様を満足させろ、そして死ね!」
鬼は金棒を振り上げると、再び襲い掛かってきた。
こんなのを食らう訳にはいかない。僕はマジックシールドを一点に集中して防御を固めたが、それでも衝撃を受けたマジックシールドは一撃でヒビだらけになった。
しかも、両足で踏ん張っていたから反撃できない。鬼は笑いながら再びこん棒を振り上げた。
「どこまで持つかなぁ!? そおらあー!」
二撃目を受けると、僕のマジックシールドは粉々に粉砕されて崩れ落ちた。何とか防ぎ切ったがもう後はない。角で防ぎきれるだろうか、首の骨をやられるかもしれない。
僕は可能な限りの力で持ちこたえようとしたとき、鬼の金棒はマジックシールドに阻まれた。
「……!?」
このマジックシールドは僕のではない。後ろにいたハルカが前に出て、僕の身を守っていた!
「役に……立ってみせる!」
「無駄だぁ、次でお前のガードも打ち崩してやる!」
鬼は目を赤々と光らせると、再び金棒を振り上げてきた。
僕は頭をざわつかせながら鬼を睨んだ。角が青白い光を放ち、先ほど壊れたマジックシールドを修復していく。金棒が振り下ろされるよりも速く、マジックシールドはヒビだらけだったが現れ、僕の右脚へと集まっていく。
「うおおおおおおおおおお!」
金棒が撃ちおろされた次の瞬間に、僕の右脚蹴りが鬼の右あばらに命中した。どうやら鬼は直前でマジックシールドを張ったようだが、僕の右蹴りはマジックシールドを破壊して、鬼のあばらに命中。
鬼は再び叫び声と共に、樹木に頭から突っ込んでいた。
「今度は右からか……全く、攻撃が読めないってのは……良いモンだ」
鬼が再び起き上がったとき、角の辺りから血を流していた。この様子だと骨にも異常がありそうだが、痛みはないのだろうか。
「決めたぜ……一から鍛え直す。そうしたら今度こそ、確実にテメーをぶっ潰してやる!」
「理解できないな。どうしてそこまで戦うことを望む?」
そう質問を返すと、鬼は笑いながら言った。
「好きに理由なんているかよ。俺様は戦いが好きだ……殴られるのも快感だし、殴るのはもっとイイ!」
鬼は金棒を消すと僕たちに背を向けた。
「おいウマ。このタンバー様に倒されるまで……誰にも殺されるんじゃねーぞ」
「君にも倒されたりしないよ」
そう伝えると、鬼は不敵に笑ってゲートの奥へと消えた。
赤鬼タンバー
固有ギフト:
ジャパンデーモン B ★★★★★★
日本の昔話に出てくる鬼のような姿となる能力。腕力、耐久力、索敵能力が上昇する。また、デストロイハンマーが使えるようになるが、これはジャパンデーモンの付属能力なので合わせて1つとカウントする。
デストロイハンマー B ★★★★★
広範囲を攻撃する金棒を出す。要は鬼が持っている金棒のことである。
近距離戦 A ★★★★★★★
魔法戦 D ★
飛び道具戦 D ★
マジックシールド C ★★★★
防御力 A ★★★★★★★
作戦・技量 C ★★★★
索敵能力 C ★★★★
行動速度 B ★★★★★★
勝利への執念 A ★★★★★★★★
経験 A ★★★★★★★
好きなモノ:左利きの強敵、敵に殴られること、敵を殴ること
嫌いなモノ:平和主義者、偽善者
一言:
戦闘狂ともいえる人物。特に左利きの猛者と会う機会がないため、ショーマを見たときは、たいそう気に入った様子だった。将来が有望な使い手だと、あえて止めを刺さないで強くなることを待つこともある男である。
鬼は体がとても硬く、何も装備していない状態でも並みの拳銃では傷くらいしかつけられないほど。ダンジョン内に籠城されると、強烈な鈍器系の攻撃か、鋭利なレイピアで防御を打ち崩しかない。