過去と家族
「風斗ー、迎えに来たぞ」
モニターの向こうには、幼馴染の優馬がいた。
「完全復活したみたいだな、いきなり可憐ちゃんにお前の家を聞かれたときは、びっくりしたぞ」
俺は先週の金曜日から風邪を引いていた。家に帰ってすぐに寝て、気がつけば、隣には天使様がいた。
「おかげさまでな」
「学校についたらお礼したほうがいいぞ」
「ああ、分かってる」
他愛もない会話をしつつ、教室についた風斗は、真っ先に、人の中心である可憐の元に向かった。
「ちょっといいか?」
「え、ええ」
可憐を呼び出して屋上に向かおうとした俺は、周りにいた男子たちに、冷たい目線を浴びせられた。
周りから、いろいろな声が聞こえる。告白するのではないかと心配する声や、なぜあの二人が一緒にいるのかという声もあった。
そんな声を気にせずに堂々と歩いてる可憐を見て、俺は素直に感心していた。
そんなこんなで屋上についた俺達は、少しの間、静寂に包まれていた。
その静かさが嫌だったのか、可憐が、口を開く。
「なにか用ですか?」
そこに普段の学校生活で見せるような天使の笑顔はなく、とても冷たい眼差しでこちらを見ていた。
「いや、その、こないだの礼を改めて言いたくて」
「ああ、あれはもういいですよ。傘を借りた恩を返しただけですから。話はそれだけですか?」
「ん?ああ」
可憐は「それでは」と、ぺこっとお辞儀をして教室に帰っていった。
数日後の体育の時間、隣から「きゃあ!」と、悲鳴が聞こえてきて、目を向けるとそこには、倒れている可憐の姿があった。
数時間して、六時間目の途中に教室に帰ってきた可憐はなんともないような凛とした顔をしていた。
授業が終わり、みんなが傘をさして帰っていく中、可憐は、玄関の前で立ち尽くしていた。
リュックを片方の肩にしかかけていないことに違和感を覚えつつ、何をしてるのかと話しかけると
、困ったような表情で「帰れないんです」と、返された。
なぜ帰れないのか察した風斗は、可憐からかばんを奪ってそそくさと、あるき出した。
後ろからちいさなこえで「ありがとうございます」と聞こえたが、それには反応せず、可憐の歩調に合わせて、ゆっくりと歩いていった。
翌日、今度は可憐が風斗を呼び出してきた。周りが口々に風斗への嫉妬の声を漏らす中、可憐の天使の笑顔を見せると、男子たちは、次々に黙っていった。
屋上についた風斗たちは、前回とは違い、雑談を交わしていた。更に、前回は冷たい目線を送り続けた可憐だったが、今回は、天使の笑顔ともまた違う笑顔をみせていて、つい、ドキッとしてしまった。
「昨日はありがとうございました。おかげで助かりました」
「全然いいぞ。俺はただやりたいことをやっただけだ」
「優しいですね」
ふふっと微笑む可憐を見ていると、顔が少し熱くなった気がした。
「なぁ、なんであの時、傘もささずに公園にいたんだ?」
つい、聞いてしまったその質問を俺は直ぐに後悔した。可憐の顔から笑顔が消えた。俺は、彼女の地雷を踏んでしまったのかもしれない。
「別に、ただいたかったからっていうだけですよ」
彼女は、そそくさと教室に戻ってしまった。
それから数週間がたったが、隣の席である風斗たちは、一度も会話をかわさなっかた。
「お前らー、来週から中間テストが始まるけど、範囲が狭い今のうちに貯金しとけよー」
めんどくさそうに話す担任の和歌山先生、通称ワカちゃんは、テストの注意事項を話していた。
ワカちゃんは、今回のテストはかんたんだと言っているが、勉強嫌いの俺は、頭を抱ええずにはいられなかった。
どうしようかと悩んでいると、隣から声をかけられた。あなりに珍しいことでびっくりしていると、可憐はどうしたのかと心配してくる。
「あ、いや、なんでもない。それで、どうかした?」
「だから、勉強を教えてあげましょうか?」
「え、いいのか、そんなことしてもらって」
「嫌なら言いませんよ」
ふふっと微笑んでいる可憐を見て俺は、安堵のため息を漏らした。
「ぜひ、お願いしたいです。場所はどうする?」
「天野くんの家じゃだめですか?」
「いいいけど、そんなかんたんに男の家に上がって大丈夫か?俺が襲ったりしたらどうするんだ」
「あら、あなたは私を襲うんですか?」
「いや、ないな」そう言って苦笑いを浮かべる。
「じゃあ、明日の午前中にお伺いしますね」
返事をしつつ俺は前を向いた。
翌日、家のチャイムを鳴らされた。可憐を出迎えて風斗の部屋に案内する。
「なにからやりましょうか、数学か、英語が好ましいです」
「じゃあ数学をお願いしてもいいか?」
そう言って数学の問題集を取り出す。
何時間たっただろうか。部屋にかけている時計を見ると時刻は午後1時を回っていた。勉強を始めたのは9時頃だったから、いかに集中していたかがわかる。
「そろそろ休憩しようか。何か御飯作ってくるけど、食べれないものある?」
「うえ、何でも食べられますよ」
「りょーかい」
そう言って風斗は1階に降りて、ご飯の準備を始める。今日の昼ごはんはふわふわのオムライスだ。
二人分のオムライスを作り終えて二階に上がると、そこにはクッションを抱えて眠る可憐がいた。
まるで小動物のような寝顔をしており、つい頭を撫でたくなるが、流石に我慢した。
あまりにぐっすり寝ているので、起こす気にもなれず、風斗は、寝顔を観察することにした。
3時間ほど立っただろうか、机の上でシャーペンを走らせていると、可憐が起きて大きなあくびをする。その後、風斗と目が合い、状況を整理した可憐は、顔を真っ赤にして、クッションに顔を埋める。しばらくして顔を見せると、
「ごめんなさい、屋内でこんなに安心できるのは久しぶりで、、つい寝てしまいました」
「気にしなくていいぞ?、冷めちゃったけど、オムライス食べるか」
そう聞くと、大きくうなずくので、俺はレンチンして、オムライスを可憐に渡した。
「風斗くん、料理お上手なんですね、毎日食べたいぐらい美味しいです」
「じゃあ、食べに来るか?親は仕事でたまにしか帰ってこないし、俺人に料理出すの好きだから、好きなときに食べに来たらいいよ。事情はわからないけど、家に居づらいんだろ?」
「、、はい、じゃあ、お言葉に甘えて、好きなときに食べに来ますね」
可憐はこれまでで一番の笑顔を浮かべた。
「今日は寝てしまったので、明日また来ますね。今日はもういい時間なので帰ります」
そう言って帰りの支度をする可憐。支度が終わったところで「送ってくよ」といい二人は家を出た。
翌日も、一日中勉強を教えてもらい、テスト当日、すべての教科を終えた生徒たちは、帰りに遊びに行く計画を立てたりしていた。
「今日も来るか?」
そう聞くと、可憐は首を横に振った。なぜか暗い、寂しそうな表情を浮かべて、チャイムが鳴ると、そそくさと、早足で帰っていた。風斗も、久しぶりに優馬とともに帰り、延々と、惚気を聞かされていた。
一人で夕食を済ませ、ゆっくりと寛いでいると、家のチャイムが鳴らされる。モニターの向こうを見ると、泣きじゃくっている可憐の姿があった。走って玄関に行き、ドアを開けると、可憐が困った顔でこちらを見てくる。
「とりあえず上がって」
家に可憐を上げた風斗は、先に部屋に行った可憐のココアと、タオル、ブランケット、一応ティッシュを持って、部屋に急いだ。部屋に入ると、お気に入りのクッションを抱えた可憐が、床に座っていた。とりあえずブランケットを渡して、落ち着かせる。しばらくして落ち着いたのを確認すると、風斗は、話を切り出した。
「何も聞かないわけには行かないからさ、何があったか教えてくれる?」
可憐は小さくゆっくりとうなずいて、霞んで消えてしまいそうなか細い声で話し始めた。
「私は、母と浮気した男との間に生まれた子供なんです。母と父は望んだ結婚ではなく、その親同士が決めた、一種の政略婚でした。なので、父は、私には無関心で、母は私のことが大嫌いでした。
浮気相手との子供である私は、祖父母からも毛嫌いされていて、逃げ場がありませんでした。小さい頃から、現実を突きつけられていた私は、それでも、なんとか愛されたくて、ただ、ひたすらに、いい子であることを決意しました。ですが、そんなことをしたって無駄だったんです。数ヶ月前、母に、お前はいらない子だと、そう告げられました。」
あぁ、それで公園にいたんだ。
「いらないなら、産まなければよかったのに、、、私は産んでほしいと頼んでないのに、、、」
可憐は、今にも壊れそうな声で、心の声を漏らした。
「ついさっき、母が久しぶりに話しかけてきました。なぜだと思いますか?母はお酒お飲んでました。その勢いで、お前はなんおために生きてるんだって、そう言われたんです。そしたらもう、前が見えなくて、息がしづらくて、気づいたらこの家に来てました。」
風斗は、優しく可憐を抱きしめた。可憐は少し体を震わせたが、状況を理解したのか、安心したように、泣き始めた。「私のせいで、母と父は離婚するんです。私はいらない子なんです、、もう辛いよ、、、」
あまりの言葉に、何を言えばいいかわからなかった風斗は、ただただ、可憐の頭を優しく撫で続けた。
「自分のことをそんなふうに言うな。遠藤との付き合いは、別に長くないけどさ、俺はお前が必要だよ。だからそんなこと言って、それ以上自分を傷つけないでくれ、な?」
そうやって可憐をなだめていると、いつの間にか寝てしまった。よっぽど疲れていたのだろう。風斗は可憐をそっと抱えて、ベットに運んだ。しばらくして、可憐のスマホに着信がはいった。画面を見ると、母、と映し出されている。気づけば風斗は電話を切っていた。そして可憐のスマホの電源を切りもう一度頭を優しく撫でる。
「可憐よく頑張ったね」
そうつぶやくと、急に可憐の目が開く。
「え、遠藤さん起きてたの?」
「可憐って呼んで、風斗くん」
「いや、流石にまだ早いかなーみたいな、、」
風斗は苦笑いを浮かべる。可憐はそんな事を気にせず、もう一度言う。
「可憐って呼んで」
「か、可憐、、これでいい?!」
「うん、ありがと、やっぱここは落ち着く。家ではまともな居場所がないし、学校では気を張り詰めっぱなしだから」
そんなことを言いながら、可憐は苦笑いを浮かべる。
「こないだも言ったけどさ、うちはいつでも来ていいからな?俺が可憐の居場所になるよ。可憐が居たいだけいればいいし、帰りたくなったら帰ればいい」
そう言って風斗は可憐の頭を、今度はわしゃわしゃとかき回すように撫でる。こころなしか気持ちよさそうに見えるのは気のせいだろうか。髪を乱してしまって申し訳ないと思い、手を離すと、あっ、と小さな声を出して、寂しそうな顔をするので、もう一度撫でると、可憐は嬉しそうにうなずいた。
「私、風斗くんの手、すき。すごく落ち着くの」
そう言って可憐は、深い眠りについていった。
今回も読んでくださり本当にありがとうございます!!
可憐の過去と家族を題材に書かせていただきましたが、楽しんでいただけたでしょうか?
今後もどんどん出していくのでぜひそちらもお読みください!!
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最後まで読んでくださり本当にありがとうございました!!!!!