商売は”ずるく親切に” 【樺太編】
これは、みっちゃんがお父さんから聞いたお話です。
みっちゃんは洋服の仕立て屋の孫として生まれましたが、その時すでに創業者のおじいさんは亡くなっていました。しばらくはおじいさんの妻であるおばあさんが店を仕切っており、数年後におじいさんとおばあさんの息子、つまりみっちゃんのお父さんが店を継いだのです。
なぜすぐに継がなかったのかについては、また別の機会のお話と致します。
さて、みっちゃんのお父さんは、直接自分の父親から洋服の仕立てを習ったわけではありません。ある親方の店で修業をしていました。そして修行を終えて実家に戻る時、次のようなアドバイスをされたそうです。
「いいか、商売は”ずるく親切に”という事を忘れるな」
はて、一体どういう意味でしょうか。
みっちゃんのお父さんによると、それは次のような事でした。
仕立て屋には実に色々なお客さんがやって来ます。中には職人がどれだけ要求通りに仕立てても、必ず文句をいう大変気難しいお客さんもいたそうです。
そういう場合は反論せずに「わかりました。次回までには必ず直しておきます」と言うのです。
でも実際には何も手を加えません。そして次に依頼主が来た時には「言われた通り、きちんと直しておきました」と話します。そうすると大抵のお客さんは、満足してお金を払い帰って行くのでした。
何か現在のクレーマー問題に通じるところもありそうですが、人の心は今も昔も余り変わらないという事なのでしょうね。