時計は決して巻き戻らない
私達の婚約は、よくある家同士の約束だった。生まれたその時から婚約者だった貴方は、ある日私の妹に恋をした。その瞬間から、私達の関係は終わりに向かって進んでいた。
妹は父の後妻の子で、所謂腹違いの姉妹だ。我儘を言わない、聞き分けの良い優しい良い子。気遣いの出来る、周りをよく見ている子でもある。だから、姉の婚約者が自分に好意を寄せていると気付いたその時、心底驚いたのだろう。そして、妹は何も悪くないのに自分を責めたのだろう。
妹は、私の婚約者を突き放すような態度を取るようになった。
ー…自分も本当は、私の婚約者を愛していた癖に。
やがて、妹にも婚約者が選ばれた。私の婚約者と違い、容姿や能力は特別優れてはいない平凡な男性。けれど、心も体も美しい可愛い妹を心底大切にしてくれそうな誠実な人。
妹は幸せそうににこにこと笑い、結婚するのが楽しみだと言っていた。けれど、私と私の婚約者の結婚が決まり、自分達も近々結婚することになると、沈んだ表情を見せるようになった。
周りはマリッジブルーだと思い励ましていた。妹は何も言わず黙って励ましの言葉を受けていた。
そして私と私の婚約者の結婚の日。
ー…妹は、私の婚約者と心中した。
私はその報告を受けると、壊れたように笑っていたらしい。あまりのショックで壊れたようだ。けれど、その心の傷など知ったことではない父に治癒魔法を施され無理矢理正気に戻された。
そこからは地獄だった。社交界では醜聞が流されており、家はお通夜状態。友達だと思っていた人達からは見放された。そして…妹の婚約者と、結婚することになった。
彼は自分も傷付いたはずなのに、私のことを気遣ってくれる。本当に誠実な人だ。けれど、それでも彼と結婚するというのは、抵抗がある。でも、拒否権なんてなかった。
結局私達は結婚した。彼が婿養子に来てくれたおかげで、領地経営はこれまでよりも上手くいくようになった。子宝にも恵まれた。大切にもされている。
ー…ああ、どうして。どうして最初からこの人が婚約者じゃなかったのだろう。どうして妹が居たのだろう。どうしてこの人を真っ直ぐに愛せないのだろう。
私は今日も、この傷を抱えて生きていく。本当に愛した人を心の中で思いながら、偽りの愛を取り繕って。




