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俺はその日、魔法少女になった。

頭空っぽにしてくださぃ。

 野村(のむら) (つかさ)齢28は、今日も上司に理不尽に怒られていた。

 「おいぃぃ!野村!今月もノルマが達成できてないじゃないか!やる気あんのか?えぇ!?」

「も、申し訳ありません‥‥」

「謝ってノルマが達成できんのかぁ?あぁ?」

 課長は、不必要に声を荒らげて司を他の同僚が見ている前で司を罵っている。

達成できるはずのないノルマを掲げられ、それを達成できなかったら、こうやって罵られる。

これが司のいつもの月末の恒例行事だ。

 課長が満足するまでしばらく耐えなければならない。

この課長もノルマなんて達成できるわけがないとわかっていて、自分のストレス発散と上の立場なんだぞと教え込むためにわざとやっているのだ。

実にくだらないが、実際不況の今の世の中、転職するにしても他の仕事が確実に見つけられるという自信が司にはなかった。

 「お前の代わりなんていくらでもいるんだぞ!わかってんのか?」

「‥‥‥はい」

 不服そうな態度を見せると長引くので、素直な態度で「はい」という。これが基本だ。


 やっと課長からの束縛が終わり、司は帰路につこうとした。

 (はぁー、やっと今月が終わった‥‥しっかし、あのクソ課長、今日はかなり虫の居所が悪かったな‥‥奥さんと喧嘩中か?)

 司は、全ての課長からの罵倒を受け流せればよいのだが、人間そんな器用なことができるわけではない。

 「ふぅー‥‥代わりはいくらでもいる、か‥‥‥」

 「お疲れ様です!」

「おわっ!」

「あはは、びっくりさせちゃいました?」

 司の背中をツンとして、挨拶してくれたのは、この会社の唯一の癒しである鈴木(すずき) (りん)さんだ。

 苗字に「鈴」という文字が入っているにもかかわらず、さらに名前でも「鈴」といれたご両親は、きっとすずのように可愛らしく育ってほしいと願ったのだろう。きっとそうだ。

その名前の通り、ふわっとまかれた髪に可愛らしい容姿で鈴木さんは性格もよくて、つまりめちゃくちゃ可愛い。

さらに、素晴らしいことにお胸もある。

 ちゃんとこうやって挨拶したり話しかけてくれるあたり、ちょっと脈ありなんじゃないかと期待してしまう。

 「あ、お疲れ様です、鈴木さん」

「さっきは大変でしたね‥‥課長が」

鈴木さんはこっそりと手で口元を隠して囁いた。

司は、鈴木さんに話しかけられて嬉しかったが、先ほど怒られていたところを見られたと思うと、実に情けないところを見られて恥ずかしい思いがこみ上げてくる。

すると、鈴木さんはにこっと笑って「手、出してください」と言ってきたので、司は言われるがまま手を差し出した。

鈴木さんから渡されたのは、いちご味の飴玉だった。

 「ごめんなさい、今これしか持ってないんですけど、いやなことがあった時は甘いものですよ、ね?」

そう言って笑いかけてくれた彼女は天使かと思った。

 「あ、ありがとうございます」

昔っから泣き虫の司は、鈴木さんの優しさで少し泣きそうになった。

 「じゃ、また来週ですね。お疲れさまでした」

鈴木さんは、鞄を持って退社していった。

 司は、飴玉をじっと見つめてしばらく動けなかった。

 (お、おわーーーーー!貰っちゃった!俺、顔がにやけてなかったかな?やばい!嬉しい!これは好き?好きなんじゃないか?)

さっきまで課長に怒られてむしゃくしゃした気持ちが一瞬でなくなってしまった。

 可愛い鈴木さん最高!


 帰り道、週末ということでコンビニによってビールをいくつか買い、家であるマンションに向かった。

 「~♪」

暗く誰もいないというのをいいことに、上機嫌に鼻歌を歌う。スキップも追加したいくらいだなんて考えていたら、ふと暗いはずの夜空が明るく光った。

 「ん?なんだ、あれ?」

上を見上げると星のような青白い光が見えた。

 「おいおい、嘘だろ?」

青白い光は、何故かどんどんこちらに向かってきている。

 「うああああ!」

踵を返して、逃げようとしたが遠くにあったはずの光はあっという間に落ちてきて、司は光に包まれた。

 (俺、まさか隕石に直撃されて死ぬのか?あぁ、これでよくある異世界転生したりして‥‥‥)

(辛い人生だけど、でも、まだ死にたくないな‥‥)

 「‥‥‥?」

「あれ?俺死んで、ない?」

 頭を守るように縮こまっていた司が何の痛みも感じないことを不思議に思って、恐る恐る顔を上げたが周りは先ほどと変わらない。

 「野村 司さんですね」

ダンディーな男性の声で名前を呼ばれて後ろを振り返った。

そこには、なんとも摩訶不思議な青いトイプードルがいた。

その犬がいるだけで周りに人間の姿はない。

 「犬が青い‥‥青い犬?誰かが悪戯したのか?首輪はしてるから迷子?」

「いえ、色はもともとです」

「へ?」

また先ほどと同じ声が目の前から聞こえてきた。

しかも、青いトイプードルの口から。

 「あ、はは‥‥俺、疲れてんだな、うん、そうだ、鈴木さんから貰った飴舐めよう」

司は乾いた笑いがでて、ポケットから飴玉を取り出して口に放り込んだ。

鈴木さんの優しさのような甘い味が口に広がる。

道のど真ん中に座り込んだ28歳男性が飴玉を口で転がしながら青い犬を見ているというなんとも不思議な画ができた。

 「お疲れのご様子ですね。からだは一番の資本と言いますから、大事にしないと」

まだ、犬から言葉が聞こえてくる。

もう、疲れすぎて幻聴が聞こえてくるのかと悲しくなって泣きたくなり、鼻の奥が痛かった。

 (あぁ‥‥今日は早く寝よう)

立ち上がって、家に向かって歩いて行った。

隣にぴったりと青いトイプードルが付いてきている。

 「本日はお疲れのようですので、また明日お話ししましょう。申し訳ないのですがこちらの都合上、滞在先は司様の家にさせていただきます。お世話になります」

「あぁ‥‥そう‥‥」

もう何も考えたくなくて、てきとうに返事をした。


 次の日、目が覚めてスマホで時間を確認すると昼過ぎになっていて、さすがにベッドから起き上がった。

昨日は帰ってきてすぐにシャワーだけ浴びて、さっさと眠りについてしまった。

 周りを見ても寝室にあの青いトイプードルはいなかった。

 「はは‥‥さすがに変な夢だったな。隕石に青い犬なんて‥‥」

「あれ?いいにおいがする」

 寝室から出てダイニングキッチンにでると台所に見知らぬ男性が立って何やら料理を作っていた。

それだけでも衝撃的なのだが、さらにその男性は皮膚が青く服装もぴっちり白タイツだ。

 司は、一旦寝室のドアを閉じた。

(なんかいる‥‥)

ほっぺをつねってから、もう一度ドアを開けた。

だが、やはりいる。

 あまりの恐怖でからだが硬直していると青い男性が司を見て、柔らかく笑った。

皮膚は青いがよくよく見ると司よりも年上でイケおじのような渋いカッコよさが溢れている。

筋肉質でタイツ越しにその筋肉が見える。

 「おはようございます。と言っても、もうお昼は回ったのですが‥‥勝手ながら昼食を作らせていただきました。お疲れのようですが、食べられそうですか?」

「あなた誰ですか?警察呼びますよ!」

スマホを握りしめて、肩を震わしながら叫んだ。

というか、こんなやり取りせずにさっさと警察を呼べばよかったのでは、と叫んだ後に気付いた。

 「これは、失礼しました。ご挨拶もまだでしたね」

すると、青い男性が突然眩しいほど光り出して、司は眩しさに目をつむった。

目を開いたときには、そこには昨日の青いトイプードルがお座りしていた。

 「私、宇宙パトロール所属のプ・ルルンテテスと申します。野村 司さん、あなたを魔法少女としてスカウトしに来ました」

「は?」

 情報が多すぎて司は脳みそがフリーズした。


 「つまり、あなたは宇宙人で犯罪者を捕まえるために地球に来たと」

「はい」

「でも、大気圏に突入したときに事故で武器のほとんどが消失してしまったと」

「はい」

「それで、残ったのが魔法少女になるための装置だけ‥‥」

「そのとおりです」

 せっかく作ったので食べてくださいと用意された食事を食べながら、司と犬の姿の宇宙人、プ・ルルンテテスは机をはさんで向かい合って座っていた。

机の上には作ってくれたお昼ごはんの他に青いパステルカラーの可愛らしいコンパクトがある。

 「いや、全部意味わからん!というかなんで、そんなの持ってるんですか!というか、魔法少女になる装置って何なんですか!?」

「魔法少女、と言った方が地球人の方には想像しやすいかと思いまして、正確には対宇宙犯罪用肉体換装装置です」

「駄目だ‥‥どっちもわけがわからない‥‥」

司は、訳が分からなさ過ぎて、現実逃避しようと泣きそうになりながらも昼食を口に運んだ。

 「うわぁ‥‥美味しいです」

「それはよかったです」

プ・ルルンテテス、もう面倒なのでテテスは穏やかににこりと犬の口が上がった。

 (うぅ、温かい食事がうまい‥‥)


 「それでどうでしょう?野村 司さん、私たち宇宙パトロールに協力していただけないでしょうか?もちろん、お仕事していただく際には報酬がでますよ」

「い、いやです‥‥だって、犯罪者を捕まえるんですよね?危ないに決まってるじゃないですか!?魔法少女も意味わからないし!しかも、ただのサラリーマンの俺に何ができるって言うんですか?」

「いいえ、あなたはただのサラリーマンじゃないですよ。可能性を秘めた人です」

「これは、あなたにしかできないことなのです」

「俺‥‥にしか?」

自分にしかと言われた時、胸の奥がじんと熱く感じた。

 ピピピピ‥‥

突然、テテスのしている首輪から信号音が流れ出した。

 「なっ、なんですか!?」

「宇宙犯罪者が現われたようです。では、お試しということで、一度やってみましょう」

「やってみるって?」

 テテスが咳払いをして、キリっとして叫んだ。

 「んんっ‥‥きらきら!はぴはぴ!平和を守る魔法少女になっちゃうぞ♡」

「対宇宙犯罪用肉体換装装置!バッテリーオン!」

テテスの掛け声でコンパクトがひとりでに開き、その中の鏡から光線が放たれて司に直撃した。

 「うわぁ!?」

昨日から驚いたのは何度目だろう。

 「う‥‥ん?」

何故か女の子の声が聞こえた。

恐る恐る目を開くとまさかと思い、手のひらを見る。

 「ち、小さい‥‥っつ!?声が!」

のどぼとけがあった場所を触るとつるんとしている。

 「わ‥‥あわ‥‥うわぁ‥‥」

机の上に置いてあるコンパクトをひったくるように取って、自分の顔を確認する。

そこには、28歳の仕事に疲れた男性ではなく、20代前半くらいの髪がふわっとしていて肩まである顔立ちの整った可愛い女の子がいた。

 「わぁーーーーーーー!」

叫んでコンパクトを床に落とした。

視線が下に行くと視界が豊かな胸で遮られた。

 「う、ああああ!あ、あ、ある!」

「いや、ない!大事なものがない!」

男の時にはあった大事なものを確認するために掴んだがない。

 「う、う、うぅ‥‥ないぃ‥‥生まれた時からの相棒がいない‥‥」

「あっはっは、うまいですね!司さん」

「くっそ、腹立つ‥‥」

もう、怒りと恐怖で我慢に我慢を重ねていた堰が崩壊して涙がとめどなく流れた。

 「うぉ、女の子に‥‥なって‥‥うぉぉ」

「すごいでしょう?完全にからだが変わってしまうんですよ。ちなみにコンパクトの中にあるボタンを触ると服装も変化します。気分に合わせて、おしゃれできますよ!」

テテスが嬉しそうにコンパクトの機能を話している。

司はコンパクトを拾って、中のボタンをぽちっと押すと言っていた通り服装が変わった。

ふんわりとした白のワンピースでどうやら下着も変わったらしく胸が締め付けられる。

 「う‥‥うぅ‥‥変わったぁ‥‥ひっく」

司は混乱しすぎて、自分で何をしているかわからなくなってる。

 「それでは、現場に向かってみましょう。転送!」

テテスが指示をだすと泣きじゃくっている司と嬉しそうなテテスの姿はマンションの一室から一瞬で消えた。


 「ゆけっ!怪人ゴミチラース!ゴミを散らかして地球人どもに嫌な思いをさせるのだっ!」

「ちらーーーーす!」

「きゃーーー!」

「うわっなんだあれ?撮影か?」

 休日に家族連れでにぎわうはずの綺麗な公演に人間とは思えない生物が暴れていた。

からだがゴミ箱で足がゴミでできていて、手の代わりにホースがついている。そのホースからゴミが噴き出して人々を襲っている。

 「いいぞ!地球人どもの心からいい感じにイヤーナパワーが集まっている!この調子でガンバレ!」

「ちらーーす!」

怪人の傍らには一人の男が怪人を応援している。

頭には二つ角が生えていて、格好はテテスとはまた違った変わった格好をしていて、顔に模様が入っているが、すらっと背が高く、顔面はいい。

 その怪人と妖しい男の前に司とテテスが瞬間移動してきた。

 「なっ、何者だ!」

妖しい男が突然現れた二人を見て身構える。

 「宇宙犯罪者リヒト・デルビルドだな?宇宙パトロール隊員のプ・ルルンテテスだ!お縄ちょうだいいたす!」

「う‥‥ぐす‥‥なんかいるし、勝手に話が進むし‥‥言い方古い‥‥」

まだ司は涙が止まらず、腕で顔をごしごししている。

 「くそっ!宇宙パトロールの手がここまでのびているとはっ‥‥ええいっ!ここを貴様の墓場にしてやる!」

「司さん攻撃がきますよ!コンパクトを前に掲げて!」

司は力なくコンパクトを前に突き出した。

 「ちらーーーーす!」

怪人がホースからゴミを司たちめがけて勢いよく放出してきた。

しかし、コンパクトが二人を包むようにバリアが張り、ゴミは二人を避けるように散っていった。

 「なにっ!?」

「さ、とどめです!司さん、コンパクトを敵に向かって開いてください」

「‥‥俺、元に戻るんですよね?ですよね?」

「さ、開いて!」

「聞いてもくれない。もぅやだ‥‥」

少しだけ質問してみるくらいには落ち着いたのに、一瞬ではねのけられた。

 腹が立ちつつも、言われた通りにコンパクトを開くと鏡から怪人に向かって光線が放たれた。

 「ちらーーーーー!!」

特撮物のようにものすごい爆発とともに怪人は消し炭と化した。

 あまりの衝撃に司は涙が吹き飛んで、代わりに冷や汗が流れた。

 「これ、やばい兵器なんじゃ‥‥」

「はっ、怪人を倒したら元に戻るんじゃ!」

「バッテリーをオフにすればいつでも戻れますよ。それに、油断しないでください。まだオスクロ団の幹部が‥‥」

テテスが注意を促した時には、オスクロ団の幹部と呼ばれたリヒト・デルビルドが司の後ろにいつの間にか立っていて、司の腕を捻り上げた。

その拍子にコンパクトが司の手から離れ、地面に落ち、リヒトはそれを遠くに蹴飛ばしてしまった。

 「いたっ!」

「ふんっ、油断したな!このまま細っこい腕を握りつぶしてやろう!」

ゾッとするようなことを言って、実際に力を込めてきたので、司は慌てて抵抗した。

もがいて後ろを振り返った時に、ばちっとリヒトと司は目があった。

 (くそっ!なんなんだこいつ!俺今女の子なんだぞ!容赦なしかよ!ってか、よく見たらこいつ顔面が良すぎないか?というか、この顔どこかで‥‥?)

そんなことを考えていたら、腕を放しはしないが腕に込められていた力が随分と弱くなった。

 「か、可愛い‥‥」

「はぁ?」

「あっ、あの、オレはリヒトって言います。あなたのお名前は?」

「はぁ!?」

なんと、リヒトは司を見て頬を赤らめて、熱い視線をおくってくる。

反対に、男性からこんな視線を向けられたことのなかった司は背筋がゾッとして顔が青白くなっていく。

 (う、う、嘘だろ?まさか一目ぼれされた!?さっきまで俺の手を折ろうとしてたやつに?)

(駄目だ!ここで考えたらまた混乱するっ!というか、テテスさんは?)

さっきから助けのないテテスを見ると、走って蹴飛ばされたコンパクトを咥えて持ってきていた。

 「手‥‥手ぇ、放せよ!」

「あ、ご、ごめん‥‥痛かったよね?赤くなってる。手当てしないと」

あっさりと司の腕を放し、さらには掴まれた痕で赤くなっているのをつけた本人が心配するというなんとも謎な状態になった。

しかも、リヒトは反省したように見るからにしゅんとしている。

司は、その姿がちょっとテテスより犬っぽいと思ってしまった。

なんだか、そんなわけないのだがこれ以上責めたら、こっちが悪者になるような気がしてきた。

 「ふはははん!ほんはふほ!」

テテスがコンパクトを咥えて戻ってきて、司はとりあえずそれを受け取った。

よだれでちょっとべちょっとしている。後で、洗おう。

 (このコンパクトを開いたら。またあの光線がでるんだろうな‥‥ザ・怪人みたいなあれにうったのはまだしも、こいつにうつのはちょっと‥‥‥というか犯罪者なら逮捕すんじゃあないのか?)

 「あ、あの‥‥お名前きいてもいいですか?」

(こいつ、諦めないな‥‥どうしよう?まぁ、名前くらい)

「司‥‥」

名前を聞いたリヒトはぱぁっと明るくなって、眩しいくらいの笑顔になった。

普通にしててもいい顔面がさらに輝きを増して、司は思わず眩しさで目を細めた。

 「司さん!いいお名前ですね!あの‥‥オレ、初めて会ったばっかで言うのはびっくりすると思うんですけど、一目ぼれで、その‥‥」

「まっ、待ったー!!それ以上言うな!何も言うな!」

司はとっさにリヒトの口を塞いだ。リヒトは驚いて目を丸くしている。

 「お前の言いたいことはわかる!だが、悪いことは言わない、やめとけ!いいな、お前はかっこいいから他に選択肢があるだろう。だから、俺を好きになって時間を無駄にするな!」

司は、早口で力強く説得を試みた。

もとは男なのにもかかわらず、変身したこの顔面パワーにやられてしまったリヒトが不憫であった。

 「こらー!そこで何をしている!?」

さすがに誰かが通報したらしく、警察がやって来た。

 「やべっ!どうしたら‥‥頼む、俺の家に転送してくれ!」

一か八かでコンパクトに話しかけてみると、司とテテスの姿は消えてしまった。

リヒトだけが残されて、ぽーっと惚けている。

 「かっこいい‥‥かっこいいと言われてしまった。うわぁ‥‥うれしぃ」

頬を赤くなって、手で覆う。

突っ立って悶えていたら、肩をぽんと掴まれた。

 「ちょっと、お兄さんお話し聞かせてもらえるかな?」

「あ‥‥」


 気づいたときには、司は自分の部屋に倒れていた。

 「戻ってきた‥‥そうだ!」

起き上がって、コンパクトに必死に叫んでみる。

 「バッテリーオフ!!」

すると、またコンパクトから光線が放たれ、司は無事に男性のからだに戻ることができた。

 「よかった~」

ほっとしてからだの力が抜けると同時に疲れが襲ってきた。

 (本当にこれは何なんだ?それに、あの怪人もあの宇宙犯罪者ってやつも‥‥普通に会話してしまった)

疲れて床に倒れ込むと、にゅっとテテスが顔を覗き込んできた。

 「司さんお見事でした。ですが、惜しかったですね。オスクロ団の幹部も捕まえられそうだったのに」

もう、驚くのに疲れてしまったが怒りは収まらない。テテスの顔をぎゅっと両手で掴んでぐりぐりしてやった。

 「テテスさん、よくも勝手に魔法少女にしてくれましたね?というか、女の子になる必要ありました?あれ、全部コンパクトの力じゃないですか」

「ほれは、違いまふよ。コンパクトはあくまでも媒体ですから、司さんの力を外にだしたんですよ。あと、女の子になるのはその方がコンパクトと相性がいいからだとか、開発者の趣味だとか」

「絶対後者じゃん‥‥」

司はぐりぐりはやめて、目をつむった。

 「お疲れでしょう?それも、コンパクトを通してあれだけ力を使ったからですよ?どうでしたか、初めてのお仕事は?」

「あんなん仕事じゃない‥‥」

「いいえ!立派なお仕事です。今日の分は司さんの口座に振り込んでおくのでご確認ください」

司は、ぱっと目を開いた。

 「え?お金もらえるんですか?」

「はい、最初に申し上げた通り、報酬がありますよ。怪人を退治なさったので、その分です」

 いくらかはわからないが、お金が入るのは喜ばしい。少しだけ、こんなことに巻き込まれたことと、疲れた分が報われた気がした。

だが、これっきりにはしたい。

 「言っておきますけど、こんなのこれっきりですからね。女の子になって、変な怪人と‥‥戦う?なんて御免です」

「そんな‥‥前にも言いましたが、これは司さんにしかできないのですよ。他の方では魔法少女になることはできないのです。適正の人物を他に見つけることができるかもわかりません。見つけるにもとてつもない時間がかかります」

「手をこまねいていては、あのオスクロ団がイヤーナパワーを集めて、魔神を復活させてしまいます!そうすれば、この宇宙はオスクロ団のものとなってしまいます‥‥」

 「スケールが突然大きい‥‥宇宙征服って、あんなふざけた奴に宇宙征服なんてできないですよ」

司は、呆れたようにため息をついてまた目をつむったが、テテスは真面目に話している。

 「そうならばいいのですが、実際オスクロ団のボスが魔神を封印している魔石を盗んでいるんです。それに、この地球は宇宙の中でも一番イヤーナパワーが集まりやすい‥‥これは、宇宙全体の危機なんですよ!」

「そう、ですか‥‥」

「だから、あなたにはぜひ協力を‥‥聞いてますか?」

 司は疲れて、床に寝そべったまま寝てしまった。

 「ふぅー、お疲れなのですね‥‥ベッドまで運びますか」

テテスは人の姿になって、司をベッドまで運んであげた。

更新は、自分の頭のやられ具合によります。

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