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正義の心(後)

 リオーダだ!

 第三者の登場に骸骨も怪訝な顔だ。

「キミも彼の仲間かな?」

「いや」

 リオーダはスマホを取り出し骸骨に見せた。

「この女を見たことがあるか」

「女? そんなのよりその板! 素晴らしい技術力! どこで手に入れたんだい? 詳しく」

「女は?」

「知らないね」


「なら、死ね」

 リオーダは戦闘態勢だ。殺気!

 その姿に大規模破壊を連想したアイロが彼を呼び止めた。

「ま、待ってくれ。ここの心臓はこの国の人たちのなんだ」

「知っている」

 そしてリオーダは跳躍、攻撃! 骸骨は回避。ガラスが砕ける。

 リオーダに、心臓を気にしている様子はない!


「やめろ、人が死ぬ!」

「もう死んでいる」

 心臓を抜き取られたときに人は死んでいるのだ。それ以降は魔術によって生かされているにすぎない。残酷だが、心臓を元に戻す方法はないのである!

 だからといって、リオーダのやりようはあまりに無慈悲であった。

 ケースが壊れるのを無視して台上に立つ!


「じゃあ、せめてあの女の子を。あの子はまだ生きてる!」

 さしものリオーダもアイロを見た。驚いたのか、目がわずかに見開かれている。一瞬の隙。

 骸骨の跳び蹴りがリオーダに炸裂! リオーダは複数の展示心臓を巻き込んで吹き飛ぶ。今の一撃で数十人の住人が活動を停止。


 リオーダはガラス片をばらまきながら立ち上がる。打撲の痛みに咳き込む。

「しぶといね。キミもひょっとしてボクの実験体だった?」

「魔術師は死ね!」

 再び踏み込む。魔力クォークの吸着が足りず、両足のマスイハガネの出力は低い。

 骸骨はわざと待機、気絶した少女をリオーダの拳の盾にした。


 リオーダはとっさに拳の軌道を変え、少女を掴んでいる骸骨の手を打つ。同時にもう片方の手で少女の体を奪取。

 そして少女を放り投げる!

 キャッチしたのはアイロだ。衝撃で全身が軋むが、落とさない。


 少女に怪我はなかった。

 あの黒い男は乱暴だが少女を取り返してくれたのだ。

 悪い奴ではない……のか?


「お前らは消えろ。邪魔だ」

 心臓を踏みつけにしながら冷然とリオーダが言い捨てた。

 骸骨とリオーダの、嵐のごとき戦闘!

 このままではライグンらの心臓もいつ壊されるかわからない。その前に娘と再会させなければ!

 アイロは傷ついた身体に鞭打ち、少女を抱えて魔術師の居城を脱出する。


 一刻も早く! アイロは走る。折れた腕でか細い少女の身体を支え、足を引きずり走る。ろくに戦うこともできなかった自分の無力を噛みしめ、アイロは走った。

 少女は目を覚まさない。自然の失神ではなく魔術をかけられているのかもしれない。

 そしてライグンの酒場に到着した……。


 風が吹き渡る。

 もはやこの国に住民も支配者も存在しない。静まり返った虚無の町と化した。

 骸骨魔術師が死ぬと同時にかかっていた魔術が解け、心臓を抜き取られていた住民は、尽く生を終了したのだ。


 終わらせたのはリオーダである。首をへし折られた骸骨魔術師の死体は、散らばった住民たちの心臓と共に倒れている。完全に動かない。

 国一つを滅ぼしたリオーダに後悔はない。魔術師を殺すのが彼の生きる目的なのだ。


 今回もハズレだった。リオーダは次なる国を求め町を出んとする。

 そこへ、アイロが走ってきた。一人だ。

「待て!」

「娘はどうした?」

 少しだけ気にかかっていたのだ。

 アイロは走る勢いのままリオーダを殴りつけた。かわされて転倒する。

「くそっ! 殴らせろ! おまえ! あの子は死んだぞ!」


 意識のない少女をライグン夫妻に返すことはできた。

 少しして少女は目を覚ました。それと同時にライグン夫妻を含むこの国の住人が全員倒れた。ちょうどその瞬間に、リオーダの拳が骸骨魔術師の頸椎を砕いていたのだ!

 親子の再会は叶わなかった……。

 酒場の客である行商団らが騒ぎ出した。


「見ろ、みんな倒れてるぞ!」

 アイロは呆然としていた。まさか?

 まさか、あの謎の男が魔術師を倒したのか?

 アイロは魔術師が死ぬことがあるなどと、考えたこともなかった。

 周りのみんなも事態が把握できていないようで、混乱している。


 その騒ぎでアイロが目を離した隙に、事態を把握した少女が自分の胸に包丁を突きつけていた。

「何をしてる!」

 骸骨魔術師と死神リオーダのせいで、自分の無力のせいでこの国の住民は全滅した。アイロにとっては彼女だけが唯一の希望、救いなのだ。

 それが、なぜ?


「わたしは、あんな部屋で一人育てられるくらいなら、心臓がなくたってお父さんたちと一緒に暮らしたかった……! せっかくそうなれると思ったのに!」

 それが魔術師に連れ去られる時に笑顔を見せた理由であった。

「わたしだけ残って何になるというの!」


「それでよ、その子は包丁で自分を刺したんだ」

 地面に座してうつむいているアイロ。涙があぐらの上に落ちる。

 それをリオーダは眺めている。

「心臓をな。魔術師に取り出されないですんだ心臓をだよ。自分でな。ははは……」

 アイロは地面を殴った。微震が起こる。

「こんなことになるなら!」


「あの子を魔術師に渡したほうがよかったんじゃないのか……?」

「その娘の願いだけが正しいのか?」

 娘に生きてほしいと望んだライグンは間違いか? ライグンの願いに応じて娘を取り返しに行ったアイロは誤っていたのか? 魔術師を殺したリオーダは?

「なら、正しいのはどれだよ! 正義はどこにある!?」


「おれに正義を云々する資格なんかない」

「ううう……おまえは嫌いだ!」

 アイロは立ち上がってリオーダを殴った。リオーダは食らって吹っ飛ぶ。避けなかった。わざと。

 リオーダは静かに立ち上がった。

 肩で息するアイロ。


「おまえはなんで魔術師と戦ってるんだ? 正義のためなんじゃないのか? ……魔術師を殺せるなんて、おまえも魔術師なのか?」

「違う。おれは魔術師の死神だ」

「わけがわからん」


 リオーダは胸にしまったスマホの感触を確かめる。

「正義のため、か……」

 アイロを見る。リオーダの瞳に乾いた悲哀が見えた。

「おまえはそうあってくれ。おれは……」

 その言葉は口から出た瞬間に乾いた風に吹き去られ、誰の耳にも届かなかった。


 二人はその場で別れた。

 お互い、振り返りはしなかった。

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