最高峰
「シエナ・フォン・ドーズ辺境伯、レオン・フォン・スイード男爵、竜狩りクロード殿、御入来!!」
俺は場違いな場所を歩いている。
豪華な衣装で着飾った王族、貴族達が並ぶなかを。
愛しのカナリアさんが選んでくれた服があるとはいえ周りは本物の中の本物の貴族だ俺なんかとは出来が違う。
もう怖い。
衛兵に止められる所まで歩き、3人は膝をついた。
国王フリードリヒ4世は50歳くらいと見えるが衰えを感じさせない、覇気漲るといった感じだ。
王は玉座から俺を見下ろし、
「此度の竜狩り大儀であった。新たな竜狩りよ、顔を良く見せてくれ。」
俺は玉座の前にある階段の手前まで進み膝をついた。
「本当に子供ではないか、シエナよ誠にこの者が竜狩りと申すか。」
「はい、我が誇りにかけて真実で御座います。」
「ふむ、しかし国宝を使わずにいかにして倒したと?いや、そも、魔力が足りまい?」
「クロード殿は希代の宝具師です。しかも戦闘用宝具をたやすく扱う新たな方法を開発しておられます。」
「なんと!」周りの貴族達が驚きにざわつく。
「容易くは信じられぬ内容ぞ。そこが解決しないため宝具の進歩は遅くなったのだ。」
「陛下。」
30歳くらいの黒髪の女性が声を上げた。
妖艶という言葉がぴったりの女性だ。
「アルケーミア卿か。」
「クロード殿に1つ宝具をこの場にて作って貰えば確実でしょう。私も彼の力に興味があります。なに、宝具の素材となる道具は私が即座に用意しますよ。」
「確かに確実ではあるが、この場でとなるとな、クロードよ可能か?」
嫌な展開だな。
しかし1週間の特訓により俺は文字ではなく単語で刻める様になったのだ!いけるはず!
「では、陛下、お望みの宝具はなんでしょうか?」
「やると申すか、中々度胸のある者よ!」
周りの貴族が更にどよめいた、アルケーミア卿も少し驚いている。
「では剣を、龍殺しに相応しい剣を作ってみよ!」
アルケーミア卿が俺の所まで来て尋ねた。
「君が考えるどの様な剣でも用意しよう、さぁ。」
「では片刃の特大の剣を、刃がない方は倍は厚い物が良いです。」
「!…わかったわ、おい!」
アルケーミア卿は部下に金属塊を持ってこさせた。
おいおいそこからかよ!?どうなるんだ?
「ふっ!」
アルケーミア卿は魔力を金属塊に流しはじめた。
すると液体の様に動き出し、浮き上がった。
直ぐに2メートル近い剣の様な形になっていき、そしてゆっくりと細部が整えられていく。
どう言う事?意味わからん。何その超能力。
そうして出来上がった全長2メートルの特大剣を俺の前に丁寧に下ろした。
「クロード殿、これで良い?」
「はい」
驚きを抑えつつ、なんとか返事をする。
完璧で、惚れ惚れする様な剣、一寸の狂いも無い。
俺は柄にに魔力印を刻印すると魔力回路を刃のない分厚い所まで引き、内部に魔力増幅回路を強度を落とさない範囲でびっしり刻んでいく、特訓の成果も有り早い。
そこから魔力回路を引き、斬鉄、高速剣、軽量、強靭、鋭利、修復、効果増幅、斬撃強化、切断、断割を並列に刻んだ。
「十重刻印?動くはずが……。」
アルケーミア卿はあり得ないことだと驚く。
「出来ました。」ここまで5分。俺すげー。
「ではクロードお前が使うのだ、子供でも使用できる事を見せてくれ。」
俺は剣に魔力を通し持ち上げ、小枝でも振るように片手で振った見せた、それは空気すら切り裂く様な高速の一振りだった。
思っていたよりかなり出来が良い。俺すげー。
「なんと!ありえぬ。」どやどや。
「では切れ味を、見ていただきたく思います。」
少し調子に乗ってきた!
「近衛よ盾を。」
騎士の1人が盾を持ってきて構えた。
全力で魔力を込めている様だ。結界と強靭が発動している。
「では、参ります。」
俺は刃を結界にただ置いた。しかし剣は一切の抵抗無く進んでいく、結界は割れ、盾に当たっても、元から何もなかったかの様だ、盾は真っ二つになった。
俺は剣を床の手前で止めた。
盾が床に落ちガランと音をたてた。
沈黙。王を初め、アルケーミア卿、辺境伯でさえ固まっている。火龍を知る男爵のみ少し得意げに頷いている。
俺は剣を床に置き、魔力を切った。
「如何でしょう?」
「なんと言う事だ、わしには国宝を超えておるようにしか見えぬ。ウォルターよどう思う?」
一際豪華な鎧をきた近衛騎士の1人が膝をついた、恐らく騎士団長とかそんなのかな?
「はい、アルケーミア卿のミスリルを使用している事もありますが、間違いなく剣としては最高のものです。しかも子供の魔力でも使用できる。これを考えると国宝エールとは比べられない程強力な剣です。」
ミスリルって何、気になるんだけど!?
「であろうな。クロードよお前の技術は王国の歴史に残るものだ、褒美を取らせよう。」
「クロード殿、竜狩りとしてドレイクの性を送り、男爵の爵位を授ける、また、功一等破竜勲章、功一等珠宝勲章を送る。」
2人の女性が勲章を持ってやってきた。
「ではお立ちください。」
「はい。」そして左胸に勲章を付けてくれた。
「では陛下の前まで。」
俺は2人と一緒に国王の前まで来た。そして膝をつく様に促される。
国王は立ち上がり太刀持ちから剣をとり俺の肩に置いた。
周りから拍手が響いてくる。
「王国貴族としていっそう励んでくれ。」
「かしこまりました。」
俺が階段の下まで戻るのを待ってから国王は退出して行った。作った剣はウォルターさんに渡しておいた。重そうだった。
あー緊張したー。口の中カラカラだわ。偉い人怖い、権力怖い。近寄りたく無い。
謁見は終わった様でドーズ辺境伯とスイード男爵がいろんな貴族に囲まれている。紹介しろとか寄親とか色々聞こえてくる。
そんな中アルケーミア卿だけは俺の前に立った。
あ!と言う辺境伯の声が聞こえてくる。
「クロード・フォン・ドレイク男爵、私はクロエ・フォン・アルケーミア伯爵よ、君の宝具について聞いても?」
「はい!私も伯爵の剣を作り出した方法に興味があります。」
「ふふ、そうでしょうね!では私の屋敷でゆっくりと話しましょう。」
「まちなさいクロード!」
貴族達の輪を押し除けて辺境伯とスイード男爵が、やってきた。
「アルケーミア伯爵。私たちもついて行きますからね!」
「心配しなくても私は宝具師としてドレイク男爵の技術に興味があるだけよ。辺境伯のボーイフレンドを取ったりしないわ。」
「ボーイフレンドじゃないです!私の寄子にするんです!」
そんなにはっきり言われると少しへこむ。でも俺にはカナリアさんという心に決めた人が居るから!
と言うかスイード男爵影薄くない?イケメンざまぁ!
「ふふ、もちろん、では一緒に行きましょう。」
伯爵邸は半分以上が宝具作成の作業場だった。
あの超能力で作られた剣やら盾やらがずらっと並び様々な刻印が施されている。
「改めて自己紹介をしよう、クロエ・フォン・アルケーミアよ、宝具と錬金術を生業としてきた一族の末裔。」
「それだけじゃないぞ、国宝エールは伯爵の先祖が作り出した剣であり、伯爵自身も王国最高の宝具師で、筆頭宮廷宝具師だ。」
スイード男爵が補足する
「王家や王家直属の軍が使用している宝具は全てアルケーミア伯爵家が作成してきたのよ。」
辺境伯がさらに補足する。
「まぁ、そういう家系なの。なので君の宝具が根本的に私のものと違うことはわかっている。どうかその方法を教えてほしい。もちろん私からも錬金術を教えるわ。」
俺は少し迷った。伯爵が俺と同じ宝具を作るということは国王に俺の宝具が供給され続ける事を意味する。
「私の宝具は人々の為に使われる事を約束して頂けるなら構いません。」
「宝具師の教訓?それは問題ないわ特に私にはね。」
「どういうことです?」
「その話はこれから来る客人にしてもらおうと思っているの。少し待ってもらうけど、とびきりの客人よ。」
「客人が来るまで私の宝具を見てほしい。」
伯爵は剣を持ってきた。
その剣は極限まで洗練されていた。素材となる剣から宝具師が作ることによって魔力回路や力ある文字が全て強度に配慮した完璧な配置で刻印されている。
しかし洗練されているとはいえ普通の刻印だ。文字の効果が上がるわけではないはず。
俺は魔力を流してみた。魔力は普通の宝具と違い凄まじく滑らかに、早く、力強く流れはじめた。
「!?魔力の流れが抜群に良い!?」
普通の倍は効果が出そうなほどだ。
「それが我が一族が王国最高と言われている所以よ。錬金術で鍛えたミスリルが一切の抵抗無く魔力を通すの。」
「陛下の前で、作った剣が異様に出来が良かったのはその為ですか!」
「そうね。」
「ミスリルを使用しさえすれば良いのですか?」
「残念ながらそれは違うわ、錬金術で鍛える工程が必要になる。一見分からないけどね。」
これは是が非でも錬金術を習わなければ!
「ふふ、教わりたくなったでしょう?」
「はい!」
「お館様、お客人がみえます。」
ドアの外から伝えてきた。
「それでは出迎えにいきましょう。」
俺たち3人は玄関までやってきた。
馬車からフードをかぶった人が降りてきた。
「先ほどぶりだなドレイク男爵。」
フードを取ったのは国王フリードリヒ4世だった。
なんだってー……。
「陛下、どういう事でしょうか?」
「うむ、説明しよう、アルケーミア卿。」
「かしこまりました。」
子爵は全員を客間に通した。
「ではまずこの国における竜について説明しておこうう。結論として、この国のみならずこのアルカディア大陸に竜は生息していない。」
これにはスイード男爵もドーズ辺境伯も驚いている。
「鬱陶しいことに時折別の大陸より渡ってくる竜がいるのだ、その大陸が発見されたのは約500年前、我がルーネ王国建国の時代だ。」
「その時代、アルカディア大陸の大部分が人間に掌握され、海の先には何があるのかが探求されはじめた。」
ふむふむコロンブス。
「多くの探検隊が新大陸を探す為出航した。」
世は大航海時代。
「そして新大陸を発見した探検隊は強力な魔獣の蔓延る大地を見て、尻尾を巻いて逃げ帰ってきた。」
おう、大後悔時代。
「そしてアルカディア大陸にある国家はそれぞれ軍を派遣し、新大陸の開拓を目指した。しかし竜がいる様な土地では長く持たなかった。我が国も要塞パンドキアラを放棄している。」
原住民強過ぎた件。
「現在では新大陸は暗黒大陸と呼ばれ恐れられている、暗黒大陸に拠点を維持している国は、この大陸最強の国家であるケレス帝国のみだ。」
見てみたいものだな帝国の宝具の性能とやらを!
「我が国も暗黒大陸への進出を目指して軍を送っている。アルケーミア卿の宝具はこの軍に使用されているのだ。しかしなかなか上手くいかない。暗黒大陸の魔獣と我が軍では魔力量に隔絶した差があるためだ。」
確かに魔力増幅回路が無ければ難しいだろう。
「そこでお主だドレイク男爵、魔力量の問題を解決出来る、新大陸の開拓も可能であろう。」
「しかし私は殆どの魔力を使ってようやく竜を倒したのです。拠点の維持など不可能です。」
「すぐにというわけでは無い、ドレイク男爵はまだ子供だ魔力もこの中の誰よりも少ない、十分に準備した上で軍と共に暗黒大陸に渡ってもらいたい。それに開拓した土地はドレイク男爵の領地にして良い。」
はっきり言って物凄く面倒な割にはメリットが少ない、ぶっちゃけ宝具作りをしながら生きていく方が安全だし恐らく儲かる。
でも、
それじゃあ前世と同じだ。
安全だからと自分で自分の人生に制限をかけて、
合理的だからと自分の理想を誤魔化しねじ曲げる、
これを繰り返すと自分の夢や理想がいつの間にか希薄になって変化してしまう。
今度はそんな事は望んで無かったはず、だから火龍も龍鱗も龍玉も作った。
よし、やろう、二度目の人生だ失うものなんか最初から無い!
「陛下、謹んでお受けいたします。」
この瞬間から、ただの宝具師を目指していた俺の人生は大きく変化した。
今回も読んでくれた皆様有難うございました。楽しんで頂けていたら幸いです。
これからも少しずつ良い作品にしていこうと思います。これからもよろしくお願いします。