再出発
「スイード男爵。久しぶりだな。」
「お久しぶりです、ドーズ辺境伯。此度は苦労をお掛けします。」
20代後半は有る男が10代前半と思わしき女の子に全力で頭を下げている。中々にシュールだ。
辺境伯は綺麗な金髪の女の子で白い革鎧を纏っているが年齢のせいで学芸会感がある。
「いや、男爵よく生きていてくれた。それにこの様なものに襲われたとあってはむしろ被害は小さい。さらに他の街が襲われても全くおかしくなかった。我がヘンキョ伯領全てが滅ぶ可能性もあった様に思う。」
今噛んだよな?可愛い。少し顔が赤いかな?
「そ、それで私に竜狩りを成したものを紹介してくれぬか?」
「クロード!こっちに来なさい。」
「はい。」
俺は男爵の後ろに控えた。
「この子供が竜を狩ったと?」
「この子は希代の宝具師です、また竜との戦いは私も間近で見ており、間違いありません。私は彼に命を救われました。」
辺境伯は竜との戦闘があった場所を眺めた、大きな爪の後やクレーター、炎により溶けたレンガや土がキラキラしている。
辺境伯は少し顔が青くなった後、訳わからんと言う様に頭を振った。
「信じがたい話だが、男爵がそこまで言うのだ私は信じよう、ではまずこの竜の首、ドーズブルグへ運ぶとしよう。カナリア!手配を。」
辺境伯に控えていた眼鏡の女性が返事と共に走り出した。
「クロード君、我が屋敷で相談したい事がある、君が竜狩りなら恐らく王都に行かなければならなくなるだろう。事前に身の振り方を決めておいた方が良い。」
そう言い辺境伯は軍の指揮に向かった。
「領主様、私はどうなるのでしょうか?」
「竜はね、いくつか理由があって陛下の管轄なのさ、当然竜を倒したことを報告する必要がある。それに竜狩りは大変な名誉だ、君は貴族になるかもしれないし、勲章もあるだろう。」
勝ち組!でもなんか嫌な予感がする。
「少なくとも貴族として生きていくか宝具師として生きていくかは決めなくてはならなくなるだろう。まぁそんなに悪い話じゃない、大丈夫さ。」
「わかりました。」
それからは複数の台車を改造し竜の首を乗せられる様にしたり、竜の身体を調査したりと出発の準備に丸一日かかった。
「ではドーズブルグへ出発!」
1万の行列は壮観だ、ましてや特大の竜の首を引いている為厳つさ100倍だ。途中すれ違う人々は竜の首を見て怯えたり、悲鳴を上げたりしている。
5日ほどかかり到着、軍の帰還に多くの人の出迎えがあった恐らく軍の家族達なのだろう。
無傷の帰還に安堵している人が多く見られる。
しかし竜の首が入ってくると人々は大きく息をのんだ。それまでの喧騒は一瞬で止み、沈黙が支配する。
辺境伯は剣を掲げた。
「サラの街を襲った竜は討たれたぞ!詳細は後に知らせる!我が軍は全員無事だ!」
オォォォォ!!空気が割れる様な歓声だ。
危険な竜が討たれた事と軍の帰還に全ての人が喜びを爆発させている。
だがゆっくりしている訳にはいかないようだ。
俺はスイード男爵と共に辺境伯の屋敷に招かれた。うん大きすぎてもはや城。
「王都ヴェンドルーネには既に使いを出した、間違いなく私と男爵とクロードは王都に行く事になる。褒美も出るだろうな、クロードは何を望む?」
「私は宝具師として生きたいと思います。」
「なら技官になって貰うか、法衣貴族であれば、クロードも煩わしく無いだろうからな。ちゃんと私の寄子になってくれよ?」
なんか強引だな、辺境伯としては何とか今回のことを利益に繋げたいんだろうな、軍の派遣にはお金もかかってるしね。まぁ宝具師としてなら協力出来るかな。
それにしてもこの子、凄くない?
「とは言っても陛下が竜狩りをどうするかは予想できない。
「何故です?」
「それはね、これまで竜が討たれたのは陛下の保持している国宝輝剣エールと禁騎士の鎧が使用された時だけだからさ。」
「つまり今回は初めてのケースだと。」
「しかも50年ぶりの竜狩りはなんと10歳。竜の首があっても信じてもらえないやもしれぬな?ふふ。」
ヤバイ王都行きたくないかも
「とにかくだ私と男爵は君の味方をする、それが損だったと思わせる様な結果にしないでくれよ?」
「……かしこまりました。」
こんな女の子にプレッシャーかけられるなんて…。
でも辺境伯可愛いからやる気出るな。
最悪王都で火龍をぶっ放してやれば信じるだろ。
「では王都から返事が届き次第出発する。それまでは私の屋敷で滞在してくれ。カナリア!クロードの服を見繕ってこい。」
「かしこまりました」
隣室で控えていたカナリアさんが急に出てきた。ビックリした。
「それから王都に出発するまでの間、クロードに頼みがある。ついて来い。」
「はい」
ドーズ辺境伯は俺を地下に連れてきた。武器庫かな?
「これは我が家の初代が使っていた宝刀なのだが、どうやら壊れてきた様でな最近の当主は使えていないのだ、君にこれを直してほしいのだ。」
「拝見します。」美しい曲刀だな、これは…?壊れてない?なるほど。
「お抱えの宝具師は匙を投げた、出来そうか?」
「この剣の能力を使える様にするだけなら可能です。」
「私が使える様にできると?」
「もちろん可能です。数日頂くかもしれませんが。」
「ならば頼む。必要なものはカナリアに言いなさい。」
辺境伯は颯爽と戻っていった。
「カナリアです。」
いる!!?おかしい!この人俺の服を探しにいったはずだ何故いる?
「そ、それでは宝具の素材になる指輪か腕輪を頂けますか?」
「ではこちらをどうぞ。」
持ってた!宝石のついた太めの指輪、うんこれならいける。
「では作業をします。」
カナリアさんは部屋を出ていった。
一緒にいるだけで凄いドキドキする人だなな、これが恋なのか……?
俺は曲刀を持って魔力印に魔力を流した。魔力は刻まれた魔力回路に沿って走り力ある文字のところまで行き力を発揮しないまま、魔力印まで戻ってきた。
次に龍玉を起動して曲刀に魔力を流す、今度は曲刀の文字は効果を発揮した、強靭、斬撃強化、斬鉄、高速剣、4つも並列で起動している。
「これを使うには普段の俺の10倍は魔力が必要だ、恐らくかなり魔力の才能や訓練が必要になる。」
まずは曲刀の空きスペースに魔力増幅印を何個か仕込んでおこう。
あとは指輪だリングの内側に魔力印を刻んでから魔力増幅回路を出来る限り入れて、魔力増幅、魔力回復、効果増幅の文字を並列で繋げた。
試しに自分で指輪と曲刀を同時に使ってみたがちゃんと起動した。
魔力を文字の形に変化させての刻印は慣れもあってかなり早くなった。タイピング覚えたての頃位のスピードはあるね。たくさんの文字を一度に刻印出来る様に訓練しようかな。
「頼まれた当日のうちに終わっちゃったよ、どうしようかな。」
「クロード様、夕食の準備が出来ています。ご案内します。」
「はっ、はい!すぐ行きます!!」
口から心臓飛び出たわ、ドキドキするなぁもう。俺もうカナリアさん好きなのかも。
俺は曲刀を鞘にしまい台座に置くと指輪を持って後に続いた。
夕食は辺境伯と、男爵と一緒に取る事になった。豪華な夕食が、終わったあと辺境伯に頼まれていた宝具の修理が終わった事を伝えた。
「もう直ったのか?」
「はい、ただこちらの指輪をつけて使用する事になりますが。どうぞ。」
辺境伯は指輪をマジマジと見て
「この指輪も宝具なのか?」
「この指輪を使用する事で同時に使用する宝具の補助を行います。」
「何と!生活用の宝具ならともかく戦闘用の宝具を2つ同時に起動など10年単位の魔力訓練を積まなければ出来ないぞ?」
「この指輪は……、いえ一度使っていただければ分かります。」
辺境伯は指輪を、はめて魔力を通した。
「…!?これは魔力が増えている?しかも、…信じられん、最早別人のとも言える魔力量ではないか!」
「そうです宝具を使っている者の魔力を増やす宝具です。」
辺境伯は面食らった様だ。
「その状態であれば宝刀の扱いも楽になるはずです。」
「素晴らしい技術だ。」
「ええ、言った通り希代の宝具師だったでしょう?」
「ああ、男爵、そうだったな、これならば安心だ、自信を持って陛下に謁見できる。」
やっぱり試されたな、そうだよなー何代も前から使ってない剣なんて、無くても大丈夫だもんなぁ。
まぁ良いや辺境伯可愛いし。
龍玉の半分も効果は無いけど喜んでるし、うん可愛い。
1週間後100人ほどで竜の首を引き、王都に出発する事になった。王都まではやはりかなりかかるようで、ゆっくりとした旅になった。
俺は男爵と同じ馬車に乗せて貰った。
王都までの間俺は魔力で複数の文字を同時に彫る練習をしていた。掌の上で魔力が次々と文字の形に練られていく。
「驚いた素晴らしい魔力制御だ、だが普通こんな事必要はないだろう?」
「私の宝具を素早くかつ精度良く作る為には必要なのです。何よりかなり暇ですしね。」
「確かに、暇な事この上ないしな。ハハ。」
1週間後王都に着いた。
王都ではやはりドーズブルグの様なやり取りがあったが国王の軍が動いてくれた為スムーズだった。
そしてすぐに国王フリードリヒ4世との謁見となったのだった。
読んでくださった皆様ありがとうございます。皆様が少しでも楽しんでいただければ幸いです。
少しずつでも良い物語にして行きますので。よろしくお願いします。