壊滅
この世界の宝具による防御手段は2つあり、1つは相手の攻撃より多くの魔力を「結界」に込めればいい。
2つ目は火には水という様に自然原理を流用した防御、魔力を少し軽減出来るが汎用性がない。
どう考えても1つ目が良い。
しかし相手が「火龍」となると話が難しくなる。これでもかと詰め込んだ魔力増幅の機能があり、それより多くの魔力を結界に込めるのが難しい。
さらに火龍は子供の魔力でもとんでもない炎を吐き出す。当然大人、もっと言うなら魔力を鍛えまくっている人が使えばさらに酷い。
つまり火龍よりも多くの魔力増幅を付ける事、誰が使っても火龍を防ぐ為に魔力自体を多く掻き集める事が必要になる。
「どう考えてもバッテリーっぽい物が必要だよな。」
だがこの世界に魔力を貯める機能の宝具は無い。
魔力貯蔵という文字を刻み、そこに魔力を貯める事は可能だが、魔力貯蔵から魔力印に魔力を流す操作が不可能だ。これは魔力貯蔵の文字は文字通り貯蔵しかしない為だ。
「うーむ、分からん。散歩でも行こう。」
俺は火龍を肩掛けカバンに入れて家を出ると、外の景色を求めて歩きはじめた。
「クロード、また外に行くのか?」
「ジスパーさん、昨日はありがとうございました。」
早速見つかったよ。ジスパーさんは俺のことよく見つけるよなー。早く彼女を見つけなさいよー。俺みたいに後悔するよ?
「昨日の今日だ、街の近くまでだぞ?」
「はーい」
言われた通り町の門から出てすぐのところから昨日の丘を眺める。
こんな事でアイディアが出てくるはずもないけど。
少しゆっくりしていると
馬の足音が聞こえてきた、かなり急いでる。
騎馬が街の門へ駆け込んでいく。
「ワータイガーだ!領軍に知らせろ!!」
俺は騎馬の走ってきた方を見る、3人の衛兵が魔獣と戦っているのが見える。2人が槍で攻撃し、1人が結界の宝具で魔獣の攻撃を防いでいる。
槍が、宝具ではないので攻めきれていない。魔獣も同じで結界を突破できなていない。
「出撃!!」
号令のもと騎馬が5騎走り出した。全員宝具の盾に銃、剣を持っている。領軍だろう。
領軍はワータイガーから50メートル程の距離を開け停止し盾を構え、銃を盾に置く様にして狙いを定めた。
交戦していた衛兵は領軍の到着を見て射線を開ける様に位置取りをはじめた。
「てぇー!!」バシュンと言う音と共に鉄球が高速で射出されワータイガーに命中した。
ワータイガーは大きくひるみ、かなり血を流している。
領軍すぐさまは次の弾を装填し狙いをつけた。
これで終わりか?
だが魔獣は予想外の行動をする。大きく吠えると同時に魔力を急激に高めたのだ。
「何だ……!?」
領軍も予想していなかったのか少し驚いている様だ、しかし対応は早かった。
「結界展開!!」領軍全員が盾の宝具を起動し防御体制をとった。
ワータイガーは姿勢を低くし殆どの魔力を練って領軍に飛びかかった。十二分に安全だと思われた距離が一瞬で溶ける。
領軍の結界は飴細工の様に簡単に壊され、同時に2人が爪により馬ごと真っ二つにされた。
ワータイガーは飛びかかった勢いのまま街に向かって走り出す。領軍は完全に抜かれた格好だ。
「来る!」
俺は覚悟を決めて鞄から火龍を出し狙いを定めた。
「魔力は1%位で良いはず……!」
強すぎれば領軍を巻き込む。
命の危機に集中力が増し、周りから隔離された様に感じる、凄く静かだ。
意を決して炎を放った、ゴゥと飛び出した炎は100メートル程の先のワータイガーの頭に命中し炎上、更に数十メートル進み消えた。
炎は力ある文字に従い魔獣を瞬時に焼死体に変える。
「ふぅ良かった。」
達成感より安心感の方が勝った。汗が噴き出す。
ゆっくりと集中が解けていき、音が聞こえて来る。
ジスパーさんがこっちにかけて来る。俺を探してくれていた様だ。
「クロード無事か!早く街の中に来い!」
「ジスパーさん大丈夫だよ。魔獣はあそこだよ。」
「何言ってる!さっさとこ……?」
ジスパー停止…。再起動シマス。
ジスパーさんがフリーズしている。
その間に領軍が帰ってきた。
「君!大丈夫だったか?本当に助かったよ!凄い攻撃だった。」
「ええ、僕は大丈夫です。」
「君名前は?」
「クロードです。宝具屋バードアンドジュリの。」
「宝具屋の息子か、なる程いい宝具を持ってるわけだ。領主様にほ君の協力を報告しておく。」
領軍の騎士は領主館に向かって馬を走らせた。
「おいクロード、俺にも説明しろ。」
お、復活した。
「魔獣がこっちに来たからコレで止めたんだ。街に入ると大変だからね。」
「バードさんそんなの作ってたっけ?」
「これは僕が作ったんだよ、ライターばっかり使ってたから、こんなのも出来るんだ。」
「ハァ?もう良いや、家に帰るぞ、さっさと歩け。」
2日連続補導されて帰宅。ワシは親不孝者や。
「ところであの魔獣急に魔力が強くなった様に感じたんだけど?」
「それはな変異種と言う奴だな、変異種は特殊な何かしらの能力を持ってる。今回のやつは魔力を増幅する能力だったんだよ多分。と言うかそんな化け物と戦ったの?お前凄いな。」
「ま、まぁほら宝具があったし。」
「ふーん。」
疑いの空気……。
「ほら着いたぞ、今日はもう家にいろ。」
「はい。」
家に入ると両親は心配させるなと言いながらも暖かく迎えてくれた。
「今日の魔獣…あれは使える。人間の魔力そのものを増やせばいいんだ。」
自分の部屋に入り今日思いついた構想を実現させるべく、結界用の宝具と魔力増幅の宝具を作りはじめた。
結界用の宝具は魔力増幅の回路を多く取るべく回路を腕輪にビッシリと刻み、腕輪自体を重ね合わせる事で二重の魔力増幅回路を作り、その上に力ある文字として結界と効果増幅を刻んだ腕輪を重ねて作成した。
名前は『龍鱗』
魔力増幅の宝具は腕輪に出来るだけ魔力増幅回路を刻み、力ある文字として魔力増強、魔力回復増強、効果増幅を刻んだ腕輪を重ねて作成した。
名前は『龍玉』
今回は回路を重ねて増やすという挑戦をしてみたが、物理的に弱い気がする、もっと強くて軽い素材が欲しいな。ともあれ完成だ。
半月ほどかかった。けど機能は十分満足いくものだ、俺の魔力でも火龍の全力の一撃を防いだ上で反撃まで持っていける。
結界は自分の周りを球体で覆ってくれる。隙はないはず。
「あー疲れた。」
細かい刻印をずっとやり続けた為神経がすり減り体が重い。俺はベッドに倒れ込んだ。
翌日、俺はバードに宿題が終わったことを報告した。
「もう完成したのか?」
「うん。」
「なら、今日から店を継ぐための、手伝い再開だな!早速店番頼むぞ!」
「うん!!」
バードに褒められた様な気がして嬉しくなった。
店番をしていると色んな人が訪ねて来る。隣のおじさん、おばさん、お姉さん、お兄さん、同い年の友達、好みの女の人、領軍の騎士さん、領軍の騎士さん、騎士さん、騎士さん、領主様。
「私は領主のレオン・フォン・スイード男爵だ。君がクロード君かね?本当に子供なのだな。」
銀髪をポニーテールの様に纏めたのイケメンが訪ねてきた。周りには領軍の騎士がずらっと並んでいる。
俺は椅子から転げ落ちる様に降りて片膝をついて返事をした。
「はい!クロードと言います。」
緊張ヤバイ、手汗ヤバイ、領主様モテオーラヤバイ。
「君のおかげで我がサラの街はことなきを得た様だ、お礼としてこれを収めてくれ。」
部下の騎士が布袋を店のカウンターに置いた。
多分お金かな。それより父さん母さんはよ来て!
「感謝します領主様。」
「それで部下からは君の宝具は素晴らしい力だったと聞いている、それは売ってはないのかな?」
「恐れながら、あ、あれは売り物ではありません。」
「そうか、では、見せてはくれるかな?」
「かしこまりました。」
俺は火龍の銃口を自分に向けたまま男爵に渡した。
火龍を受け取り少し眺め、すぐに返してきた。
「抜かりは無いと言うことですか。クロード君、これから私の屋敷に来なさい。」
「かしこまりました。」
もしかして今の受け渡しだけで龍鱗の事がバレたか?
男爵は店を出て停めてあった馬車に乗り込み帰って行った。
あとには騎士さんが1人残っており、さぁさぁ行きましょうと言っているし、後ろを見ると父さんと母さんが口の動きだけで早よ行け〜と言ってる。
俺は騎士さんと店を出て領主館に歩いて行った。
領主館は大きい、何と3階建で一階一階が天井が高く、最上階の部屋では町を一望出来る。
つまり最高の景色、そんな中、男爵と紅茶を飲んでいるのだ。
前世からこういう展開とは縁がなかった事もあり舌は全く紅茶の味を伝えてこない。
「そんなに緊張しなくても良い。私は宝具に関して少し知識がある、君の宝具既存のものとは大きく違うことは分かっている。君に宝具師として力を貸して欲しいと思っているんだよ。」
「しかし私はまだ10歳です、ミニアマルコトトオモイマス。」
やべ、片言になった。舌回ってない。
「大したことじゃ無いよ、たまに私の頼みを聞いてくれれば良いんだ。友人の様にね。」
「それならば、かしこまりました。」
と言い頭を下げ、
そして前をを向いた時目の前にある窓から街のすぐ外に巨大な竜が降りてきたのが見えた。ワータイガーなど握りつぶせそうな大きさだ。
「あれは……?」
「うん?何のことだ?」
男爵も俺と同じ方を向いた。
そこからは時間が止まったかの様だった。竜がゆっくりと息を吸い、そして街に向かって横薙ぎに炎を吐き出した。街は圧倒的なエネルギーの奔流に呑まれ、そして燃えていく。
凄まじい轟音と熱
ブレスが通った後は灼熱地獄だ。
俺は龍玉により高められた魔力をほぼ全て龍鱗に叩き込み、男爵を抱えて結界を張ることで。熱から自分達を守る。結界の中にいても衝撃を感じ、領主館の床と一緒に地面まで落ちていく。地面に叩きつけられるのは避ける事ができた。
ブレスが止まった。
竜はゆっくりとこちらを見る。
竜にはもう見つかった様だこっちまで歩いて来る。
龍玉による魔力回復が物凄く遅く感じる。
この先どうなる?何をして来る?
竜は俺の前で立ち止まると吠えた
ガァァァァァァァァァ!!
吠えた気合いをそのままに爪を振り下ろしてきた。
爪と結界がぶつかり全てが地面にめり込んでいく、世界が揺れる。俺は結界を信じる事しか出来ない。
止まらない、竜はさらに連続で爪を叩きつけて来る。凄まじい恐怖とストレス、意識が飛びそうになるのを歯を食いしばって耐える。
周りはクレーターの様だ。衝撃波が周りの炎をも消し飛ばした。
結界は健在だ。
竜は両手の爪に莫大な魔力を込め、最後の一撃とばかりに大きく振りかぶっている
その瞬間、俺というよりは手が勝手に動く。結界を解き、火龍を竜に向け回復した全魔力を乗せ放った。
強過ぎる熱により竜の胸に風穴が開き竜の首が宙を舞った。竜の身体は立ったまま絶命していた。
「ハァハァ。やった。もっと炎から離れよう。領主様歩けますか?」
「あ、ああ、そうだなすぐに移動しよう」
スイード男爵は問答をしている場合ではないと悟ったのだろう。俺は結界を維持したまま男爵と街から少し離れた位置まで移動した。
「クロード君、早速助けてもらった様だ、感謝する。」
「領主様これから如何しますか?」
「あれだけの炎が上がっているのだ恐らく辺境伯が動くだろう。2.3日もすれば軍に保護してもらえるだろうね。それまではここでいよう、竜の死体から離れないほうが安全だと思う。」
「わかりました。それまではこの結界を持たせておきましょう。炎が消えたら生存者を探しましょう。」
「……そうだな……。」
その時にはもう男爵も俺もそれは無駄だと解っていたし、事実2日後に火が消えた後は何も残ってはいなかった。
俺は転生してこの世界に来た、バードもジュリも大好きだったが、本当の親子であるように感じてはいなかったのか?それともこんな事態になるとかえって冷静になるものなのだろうか?
答えはわからない。ただ、両親やジスパーさんたちの分まで頑張るしか無いのだ。
3日目、シエナ・フォン・ドーズ辺境伯が1万の軍と共に現れた。
やっと内容的にひと段落しました。次も頑張って書こうと思います。