即死
「どうしてこうなったかな……。」
なんたって趣味のツーリングでいつもの道を流してただけ、もちろん法定速度、もちろんバイクの運転が下手なわけでもない。むしろ上手い方だと思ってる。
でも道が無いってどういう事?ブラインドコーナーの先でドーンだよ、わかんねーよ。ステイホームしてろってか?
「というわけで、貴方は死にましたー、人生お疲れ様でしたー。」
とか言っているのはツノの生えた着物の青年。なんでツノ?閻魔大王様ってオチ?すごい和式。冷徹。
「それは君のイメージかな、3次元の君にはそれ以上の次元は認識しきれないからね。それにしても珍しい死に方ですね、謎の穴に落ちて即死と……うん、ドンマイ。」
心読まれた上に俺の人生をサラッとドンマイで片付けられた。確かに特筆すべき点は俺の人生には無かったけども。彼女いない歴年齢だけども。
そうだよ、大学入った位のときはもっと人生輝いてると思ってた。
大秘宝見つけるようなロマンがあると思ってた。
でも大学を出て薬を扱う仕事をして10年、法律の縛りの中、繰り返すような毎日を送っていると人生の限界がはっきり見えてくる。
やれる事の決まった作業じゃなくて自分のやりたいことを追求する様な人生を送りたい、もっと挑戦したい。あと出来れば女の子とイチャイチャしたい。
「うん、悪いやつでも良いやつでも無いし、取り敢えず輪廻転生行ってみよう。はいドーン!」
はえぇぇ最後の審判はぇぇぇもっと考えてぇぇぇ
取り敢えず異議ありー!裁判長ぉー!いや閻魔大王様ぁー!
そして俺はシュンという音と共に消え、死んだ。
そして10年後……。俺は前世とは違う世界に転生して何処にでもいるような子供として生きている。宝具屋の1人息子クロードとして。
異議申し立てが通ったのかは分からないが一応前世の記憶がある、助かったと思う様にしている。
この世界は前と全く違う。
なんたって文字が力を持っている。
もちろん常用文字に力があるわけでわなく刻印魔法により文字を刻むことで力ある文字とし、それに魔力を流す事で力が発現する。
例えばモーターは前世ではコイルと磁石を組み合わせて電気流してと複数の部品を組み合わせて回転させていた、この世界では取り敢えず鉄片に回転と書いて魔力を流せば回りだす。意味わからん。
そんな世界で我が家は宝具という道具を作る店を開いている。
宝具師のオヤジ、つまり俺の新しいオヤジは言った。
「力ある文字を利用することにより人々が求めるものを作るのが宝具師だ。常に研鑽し人の為になるものをつくれ!」と。
カッコイイ、惚れてまうわー。
そして俺は5歳の時から力ある文字を刻む為の刻印魔法を教わり宝具作りを手伝ってきた。
刻印魔法は自分の魔力を細く練って押し当てる事で物に文字を刻むもので、達人になると米粒のような大きさに文字を刻めるらしい。俺には無理、色んな形に変えるのは得意なんだけどなー三角とか、細くするのムズイ。
刻印の方法は簡単な電気回路と一緒、魔力を込める場所、魔力印が電池で力ある文字が電球、そしてそれを導線に当たる魔力回路により接続する事で完成する。
必要な魔力は増えるが回路を並列化する事で同時に複数の機能を使うこともできる。
力ある文字は発想次第で幾らでも改良ができる。つねに新しい発想で宝具は進化してきた。らしい。
我が家は生活に必要な簡単な宝具を主に扱っているライターとかライトとか水道とか。
因みに店の名前はバードアンドジュリ、ルーネ王国の地方都市サラ(昔の領主の愛人の名前らしい)の地元密着型なお店で父がバード、母がジュリ。ちょっと職人気質の夫婦だ。両親とも宝具師、そして平民。
俺は主にライターを手伝わされた、まぁ火の文字を刻印するだけの仕事だ、簡単簡単。
でも単調に言われた物を作っているとやっぱり少し改造したくなるじゃん男の子じゃん!
そして俺が7歳の時に改良したライターは評判になった、遠くの王都から買い付けに来るほどだ。前世のライターを参考に手元と火元を離したデザインにした事、刻印を機械的に切り替える事で魔力増幅の程度を変化させ同じ魔力でも火力を調節出来るようにした、さらに「火」の文字を「着火用火」とした事で何故か火がつきやすくなった。
我が家のベストセラー着火用ライター1号となっている。特に調節機構はこの世界に発想がなかったらしくオヤジにすごく褒められた。
気を良くした俺は本当に子供の様に宝具作りにのめり込んでいった。
そうしているうちに10歳、俺のライターは進化している。
「クロード!かまどに火つけてくれない?」
母のジュリだ、前世ならはっきり言って無理な手伝い内容だが、今は余裕着火用ライター5号で火を付ければぶっとい薪でもすぐ火がつく。
「はーい」というかジュリにこのライター渡しとけば良いじゃんと思うのだが、母は息子が作った物で手伝ってくれるのが嬉しいらしくいつも呼ばれてしまう。
ゴウッとライター5号の先からバーナーの様な火が出てきて薪をひと舐めすると薪が自分から燃える様に火がつく
「いつ見てもクロードのライターは見事だわ、天才ね、ライターに関しては完全にバードを超えてるわね。」
「本当、俺のライターもう棚落ちしてるもんな。」
父のバードが俺の頭を撫でながら言う。
「本当にこの5号売らないのか?もうけられるぞ?。」
「だって危険だよ放火に使われかねない位火がつくもん。」
「まぁなぁ、じゃあライター以外もそろそろ覚えろよ、俺を引退させてくれ、ハハハ。」
「も、もう少しライターで試したい事があるんだよ。」
「わかった、でも本当に他の宝具も覚えてもらうからな」
「わかったよー。」
俺がライターにこだわるのには訳がある。両親には着火用ライター5号までしか見せていないが、実際は10号が完成間近なのだ。10号は火力を追求し、前世の火炎放射器も真っ青な物を目指している。
その名も焼却用火炎放射器『火龍』だ
この10号のコンセプトは魔力回路の廃止だ。力ある文字と魔力印を魔力増幅の文字そのもので接続することにより少ない魔力を最大限増幅する事を目標としている。今まで魔力が、足りずに発現できなかった力ある文字が使用可能になる。欠点は魔力回路よりも必要な面積が増え、細かくなる分脆くなる事。それは単純に宝具自体を少し大きくすれば良い。おそらく大きめのハンドガンサイズに収まるはず。
力ある文字には焼却用火炎、燃焼ガス高速噴射を採用し、並列で接続した効果増幅の文字で囲んでいる。また、使用者に熱が伝わらない様に断熱の文字をこれまた並列で繋いでいる。
手こずっているのは魔力増幅の文字を出来るだけ細く刻印する事だ、5ミリ位に揃えたいけど難しい。ゆっくり丁寧に作業をして1週間位かかった。
真夜中、サラの街から1キロほど離れた丘の上にやってきた。もちろん火龍の試射の為だ。
家をこっそり抜け出すのは難しかったがこの為に音を消す指輪を作っておいたのだ。抜かりはない!次は姿も消せる宝具を作ろうと思う。
「よし。やるぞ」心臓が早く脈打つのを止められない。少し手が震える中火龍を空に向けた。
全魔力の半分程度の魔力を込めて火龍を放った
「ゴウッ!!」という轟音と共に直径20メートル、高さ500メートルほどの炎の柱が出現した。
「すげエェー!!これはヤベェー!!ヒャッハー!」
と、飛び上がってはしゃぐ。
純粋に自分の努力と工夫が実った瞬間は心の底から嬉しい。たとえ精神年齢40過ぎでも嬉しいものは嬉しい。
楽しい、俺は挑戦したんだ、誰もやってない事に、恐らく誰も出来なかった事に!そして達成した!
しかし
喜んでいるのも束の間、町の方から警戒の鐘の音が鳴り始め、町の門から馬に乗った衛兵が2 騎走り出したのだ。竜でも見つけたかの様な警戒感が伝わってくる。
「って俺か!隠れながら早く家に帰ろう!」
音消しの指輪を発動しながら街から離れる様に丘を降りた。そこから遠回りしながら街に向けて走った。
が、
結局捕まった。だって町の周りきっちり警戒されてたもん、あんなん無理だもん。姿消しの宝具作っておけばよかった。
「クロード何してんの?」と首根っこ掴んでるのは衛兵のジスパーさん、25歳彼女募集中だ。
「や、やぁジスパーさんちょっと夜寝れなくてさぁ?」
「寝れなくて町の外に出てたと?」
「う、うん」
「宝具持って?」
「うん、落ち着くから」
疑いの眼差し……!!
「まぁいい、竜が出たかもしれない、ブレスらしき物が見えたからな、お前は家まで送っていく、ほれさっさと歩け。」
「うん」
「家には先に連絡しにいく様に1人走ってくれてる安心しろ」
良かったーごまかせたー。日頃の善行を神は見ていてくれたのだ!そしてジスパーさん良い人やー。
父も母も夜中なのに家の前で待っていてくれた。
良い両親やー泣きそう。
「クロードお帰りなさい心配したのよ?」
「ただいま!」
「ジスパーさん息子を見つけてくれてありがとう、恩に着るよ!」
「いえ、仕事ですから、では失礼します!」
ジスパーさんは走って帰っていった。まだ警戒を続けるのだろう。竜とは恐ろしいものらしいから。
両親と家に入ると父が
「ところでクロード今晩使った宝具を出しなさい。」
orzやばい、隠せないよねー手に持ったままだもんねー
凄い怖い笑顔です。あ、お母さんも、怖い、シワ残るよ?
観念した僕は火龍と音消しの指輪を父バードに渡した。
バードはゆっくりと2つの宝具を見て………。
急に泣き出した
えー!!泣いてる、なんで?
バードはジュリに宝具を渡し「これを見ろ」
そしてジュリもゆっくりと眺め、口に手を当てて泣き出した。
えー!!また!?
絶対怒られる流れだと思ったよ俺、想定外ですぅー!
「この1週間お前がこれに熱中してたのは知っていた、竜と間違われているのはこれだな?」
「うん」
「この宝具は俺たちの理解を超えている、何故魔力回路無しに効果が発動するのかもわからんし、そもそも竜に匹敵する炎を、子供の魔力で放つ宝具などあり得ない。」
バードが魔力回路が無いと勘違いしたのには訳がある、魔力増幅で回路を組むと細かい回路になる為物理的に脆くなるのを避けられない。そこで魔力を分厚めの素材の中で文字の形に練り、文字を刻む方法を取ったのだ、外からは何が書いてあるか分からない。
「そしてこの指輪だ、空気振動吸収と書いてあるコレはどんな効果なのか全く分からん。」
「これは音消しの指輪だよ父さん、音は空気が振動する事で伝わるんだ。だから自分の周囲から発生する空気の振動を吸収する宝具を作ったんだ。」
「……。」
両親は顔を見合わせた。
「あなた!」
「そうだな……。クロード」
「はい」
「宝具師としてこれ以上無いほど大事なことがある。それを伝えておく。俺も母さんも師匠から教えられた事だ。」
「なんでしょう父さん」
バードの目は本気だった。
「宝具師は元は魔獣と戦う為の宝具を作っていた。武器だ。昔は人類の生存圏を広げることこそ人々に求められたからだ。しかし、武器は向ける相手を選べないのが逃れ得ない欠点だ。故に昔の宝具師たちは、武器と同時に対抗手段を持つ宝具を作成した。」
「つまり防御手段を作っておけと?」
「そうだ、人々が防御手段を持っていれば武器は人に向けても無意味だ。そしてお前は工夫次第で人は竜
を超える炎を持てることを証明した。であれば別の誰かが同じものを作成しても全くおかしくない、つまり自分を守るためにも防御手段を作っておく必要がある。」
その通りだ。人のために宝具を作るのが宝具師だ、何を作っても人の為になる様行動しなければならない。
「クロードお前は革新的な武器を作った、宝具師としてその事に責任を持て。」
宝具師に必要なものは秘伝の様な技術ではないのだ。
「まぁ父さんも母さんもお前がこんなにも成長してくれて嬉しい、親としてこれ程誇らしい事はない。」
「あなたはもはや一人前の宝具師です、人々の為に宝具を作りなさい。」
そして父はもう寝ろと言い母と寝室に入っていった。
俺は自分のベッドに入り防御の宝具について考え始めた。
初めて作品で私自身が楽しんでいるだけになっているかもしれません。皆さんの生活に少しでも楽しみを届けられると幸いです