書店にて
大通りの、中学校の向かいにある、少しおしゃれな本屋。
大好きな本を求めて、一人、やってきた。
私の好きな本は、この店にあるだろうか。
私は、本屋独特の、においがとても、好き。
ついつい、目当ての本以外のものにも、目が行ってしまう。
雑誌。
絵本。
画集。
いつまででも、ここに居られる、自信がある。
こんなにも魅力あふれた、この空間。
目当てのものに、手を伸ばすことを、ふと、忘れた。
両手に本を抱えて、最後にやってきた、本の棚。
ここに、私の、求めてやまない、本がある。
…あるだろうか?
人気のシリーズ物だ。
売り切れている、かもしれない。
ドキドキしながら、棚を確認する。
…。
あった。
迷わず、手を伸ばす。
「あっ…。」
同じ本を目指して、同時に差し出された、手が、触れ合った。
こんなところで。
同じ本を、求めて。
手が、触れ合うなんて。
この人は、私と同じ、心を持つ人。
私は、急に気恥ずかしくなり、その場を、立ち去った。
目当ての本を買えず。
落ち込みつつも、他に本が買えたのだからと、自分を励ます。
目当ての本は、また、別のお店で、買おう。
そう心に決めて、書店を後にする。
書店を出て、自転車に乗る準備をしていたら。
先ほど、指先を触れ合った、人がいた。
「あの。お茶でも、いかがですか…?」
私は、またしても、気恥ずかしくなり、
「ごめんなさい」
そうつぶやいて、自転車に乗り、その場を立ち去った。
今でも思い出す、あの場面。
あの時、お茶に、行っていたら。
あの時、あの本を買っていたら。
あの時、私が欲した本が、究極○態仮面6巻でなかったならば!
頭を抱えたくなる、ほんのり甘酸っぱい、思い出の、ひとコマ。