Finish Blow
part-g
外部カメラから映し出されるモニターは、めまぐるしく移り変わっていった――白亜の機体は異常とも思える機動力で空を翔け、次々とミサイルの嵐を避けていく。身を切り揉みさせて機関砲の雨から逃れ、隙を突いて放つプラズマ・ライフルは敵の武装だけを確実に射抜いていった。
「……」
空中、急速反転。一気に降下。
緑色のサーベルを抜き放ち、敵に擦れ違うときには上からの一閃。しかし次の瞬間、ゼロフレームはまったく別の場所に現れる。空間を自在に飛び越え、敵の背後から横薙ぎ――わずか一瞬にて脚部と頭部を奪われた機体は、抵抗むなしく海へ没していった。
敵は無人機ではない――それこそがミオにとっての懸案事項だった。
「……死ぬなよ」
落下していった敵に声を掛けるも、届くハズがなく。
――接近警告。6。
「下がってろ、俺がやる。艦の護衛を頼んだ」
駆け寄ってきた援軍を制止させる――行き場に詰まった可変機たちは機先を翻して戻っていった。〈ゼロフレーム〉は敵に囲まれるような位置で滞空。
敵6機はタイミングを合わせ、一斉にミサイル・ポッドを解放――実弾の嵐が火を噴いた。鳥の軍勢みたく集まったミサイルの群れは灰煙を撒き散らし、まるで眼でもついているかのように〈ゼロフレーム〉を追い始める。
対する白亜の機体は腰をかがめると跳ね上がるように急上昇――波を描いてうねるミサイル群を直下に見おろし、ライフルの尖端を向けて精確な射撃を放った。誘爆を引き起こしたのを見届けたあと、ミオはライフルをペン回しの要領で回転させ、ひし型の盾に変形――シールドを真っ向に掲げて、残りのミサイル群を受け止める。
「くっ……、だが!」
爆煙を振り切ってサーベルを引き抜き、素早い二閃が敵を薙ぐ。逆手に構えた光刃を左へ裂くと今度は右からの攻撃が追い討ち――メインカメラと武装を奪い、
「下がってろよ、いい加減……ッ!」
〈ゼロフレーム〉は勢いよく後方に宙返ると超頭上蹴り、吹っ飛んだ敵機は無惨にも海面へ叩きつけられる。遠くで大きな水飛沫があがった。
――接近警告。後方2。上方1。
しかしミオの反射はそれを遥かに凌駕していた――早撃ちのごとく二挺のライフルを引き抜き、腰を挟んだX字をつくってトリガーを引く。見事に脚部を射抜かれた〈エーラント〉はバランスを失い、それぞれ味方たちを支えながら後退していった。
「……」
無言のまま、ミオは逃げていく4機の敵たちを見送った。深追いする必要はないだろう――そんなことを思いながら、新たな敵を探し求める。
『ミオ、なんかいるわ。注意して』
「あぁ。とっくに気付いてる……さっきからずっと俺の様子を覗いてるヤツだ」
出てこいよ、と公開回線で告げる――と、ものの五秒を経たずにそれは姿を現した。まるで透明マントでも剥ぐように、薄いベールの奥から真紅の機体が露になる。肉抜きしてある軽い装甲は血の色、機体と等身ほどの長さをもつ槍――
それを見たレナが驚愕して、
『あ、アイツ……まさか見境なしっ!?』
「知り合いか?」
『うん。つい先日、セレーネに傭われてたから戦闘になったんだけど――今度は統一連合に傭われたんだわ、きっと』
「……それが傭兵だろう。仕方ない」
ミオは乱暴に通信を終える。真紅の機体が真っ向から突っ込んできたからである――ミオは空中でステップを踏みながら、虚空を牙穿する槍の一撃を回避/回避。
さらに3つめの回避を終えたところで、〈ゼロフレーム〉の姿が亡霊ごとく掻き消えた――数百メートル後方に転移するも、しかし真紅は迫ってくる。
(コイツ、俺の動きについてきてる……? 違う、それだけじゃない……っ!)
たしかに〈ヴェサリウス〉には装甲の肉抜きが施されている――理由はもちろん軽量化のためだろう。しかし、エンジンドライブ一基だけでこれだけの推力と滞空時間を維持できるものなのか? 最新鋭機である〈アクト〉を凌ぐほどの?
サーベル抜刀――向かい合う〈ゼロフレーム〉は光刃を逆手に構え、槍の一撃を真っ正面から押さえた。
『ケッ、やるじゃんかよォ!』
「っ! おまえ――――女ッ!?」
『だからどーした、余所見してると死んじまうぜえ? そらッ!!』
白亜は苦し紛れに槍の追随から逃れ、距離がひらいたところで腰から何かを引き抜いた〈ヴェサリウス〉――それは二挺拳銃だ。精確な狙いを定めて、小型のビームガンが粒子の矢を降らせる。
「くっ、しつこい……!」
執念とも感じ取れるしぶとさだ――何の怨み辛みを買ったかはミオの知るところではないが、〈ヴェサリウス〉はいちいち精緻な攻撃を仕掛けてくる。
こんな強力な敵がいるとして、ミオがいなかったら――それを考えると、おぞましく冷たい感覚が神経を逆撫でする。きっと、事態は最悪の方向へ動いていたかもしれない。
「チッ、やるしかないな……!」
モニターへ蒼白い文字が躍る。
LSv-IM_Field expand.
敵に背を向けていた〈ゼロフレーム〉は急速反転、追う真紅はそれをチャンスとばかりにビームガン連射――光矢は一様に収束し、白亜へ呑み込まれたように見えた。
ゆらり、と右腕を突き出す。
〈ゼロフレーム〉の前に透明な――斥力場に近い壁が形成された。光矢は突如あらわれた空間に阻まれ無効化され、熱した金属へ水滴を落としたように消えてしまう。
『おぃ……シールドかよっ!?』
瞬間――何を思ったか、〈ゼロフレーム〉は実体盾を真上方向に投げ上げる。高く。
いや――少なくとも戦狂という人間には、そう見えたのかも知れない。たが熱源を示す光点は〈ヴェサリウス〉の真後ろにある。振り返る余裕さえ与えられず、真紅は勢いよく後ろ向きに吹っ飛んだ。
LSs-IM_Field expand.
『ぐぉぅ……っ!?』
何が起こったのかさえ把握できない――ただ白亜は残像さえ映す速度で肉薄すると、跳ね上がった機体へ強烈な蹴りを加える。
〈ゼロフレーム〉は再び距離を詰めてサーベル抜刀、横薙ぎの一閃は、〈ヴェサリウス〉からその脚を奪い取った。
「レナが世話になったようだな」
『てンめぇ……ッ、悪魔かよ!』
容赦さえなく――バランスを崩した姿勢の真紅の機体めがけて、タイミングよく実体盾が落ちてくる。
重みにより衝撃を受けた〈ヴェサリウス〉は、まるで感電したようにその場で震撼した――白亜は光刃を放ち、その左脇をすり抜けるようにして頭部を一閃。
「……」
転移。
数百メートル離れた場所にあらわれた〈ゼロフレーム〉は腰を軸にして二挺ライフルをX字構え――次の瞬間、蒼白い閃光が〈ヴェサリウス〉を撃ち貫いた。海面すれすれを飛翔して死喰の〈リヒャルテ〉が駆けつけ、あやうく没しかけた真紅を拾い去ってゆく。
ミオは回線をひらいて、
「レゼア、無事か?」
『なんとか生きてるぞ。それにしても、さっきの――』
「……」ミオは無言になった。
彼女が言わんとしたのは例のビームを弾いて斥力場と、幾重にもわたって現れた残像のことである。
〈ゼロフレーム〉には、あんな機能を搭載させていない。だとすればあの斥力場と残像は、ミオと〈ゼロフレーム〉が生み出したということに――。
ピピ、という軽快な電子音。クラナからの通信である。イリヤ・マクターレスの救出が完了したとの報せで、それはつまり――深紅の機体を縛っていた枷が外れることを意味していた。
カタパルトから勢いよく飛び出した〈アクト〉は、封印から解かれたように純白の羽根をひろげる。それと同時に前進微速を始める〈フィリテ・リエラ〉。
レゼアたちの勝利は、すでに色濃いものとなっていた。
…なんかいろいろ遅れてごめんなさい。
テスト週間が終わったみたいですね。僕も終わりましたが、結果なんて気にしませんよねっ!ねっ!
って感じで、遅れたぶんの補正として三日後に連続で小説更新します。よろしくでーす!